943.変則二刀流
「君たちなら、もう少し楽しませてくれるかな?」
開いた番傘を肩にかけ、クルクルと回す藤原真非等。
ヒザを突いたままでいる猛長親王たちなど、もはや気にすることもない。
「演舞を続けましょう」
そう言って仕込み刀付きの傘を閉じ、わずかに姿勢を下げる。
「では、いきますよ」
始まる戦いに、集まってきた観戦者たちが息を飲む。
そして真非等は、一歩を踏み出した。
「「「「ッ!!」」」」
すさまじい高速移動で一気に距離を詰め、ツバメの目前に。
放たれる番傘の振り降ろしを、バックステップでかわす。
するとさらに踏み込んで、大きな振り上げを放つ。
これを身体を大きく傾けることで回避したツバメは、反撃に入る。
「【電光石火】!」
「【フレアストライク】!」
同時にレンも、この隙を突いて放つ魔法。
すると左右からの攻撃に、真非等は【仕込み刀】を抜いた。
そして駆け込んできたツバメの短剣を右の刀で受け、レンの放った炎砲弾を左の傘を開いて受ける。
「【瞬影】」
二つの攻撃を同時に受け流すと、一転移動に入る。
二人を置きざりにしたまま、狙うはメイ。
仕込み刀で放つ三連続の斬撃を、メイはしっかり見据えて数センチの距離で回避。
そこから一回転して放つ傘の突きを、下がってかわしたところで反撃を狙う。しかし。
突きをかわすとそのまま傘が開き、放たれた烈風がメイを吹き飛ばす。
「うわーっ!」
反応の速さゆえに、初撃をかわしてすぐさま反撃に入ろうとするメイに、『二段階』攻撃は効きやすい。
「二刀流かつ、傘は防御にも使える。面白いけどやっかいね!」
盾持ちの片手剣士でありながら、同時に二刀流。
そんな真非等の戦闘姿勢に、思わず感嘆するレン。
「【二刀剣舞】」
真非等は番傘を手に、再びツバメに迫る。
速い踏み込みから放つ連撃を見据え、ツバメは傘による振り払いをしっかり身を低くして回避。
すると即座に、反対の手に握られた刀が斬撃の弧を描く。
「っ!」
慌てて防御に回り、1割強のダメージを受けた。
「【二刀剣舞】」
すると真非等は、さらに同じスキルを続ける。
「二度連続、さすがに同じ手は――っ!?」
しかしすぐさま異変に気づく。
先ほどの攻撃は左手の傘から右手の刀という流れだったが、今回は逆回転。
刀の高速斬撃をしゃがんでかわし、続く傘の振り回しを、今度はバックステップでかわすが――。
「ああああっ!」
すぐさま突き出された傘から放たれた烈風に、吹き飛ばされる。
メイとツバメ、前衛が崩れた状態。
初見の攻防一体二刀流を使う真非等は、即座に狙いをレンにしぼる。
「【瞬影】【二刀剣舞】」
一瞬でレンの前へ。
シンプルだが回避が難しい、連続攻撃を放つ。
「【かばう】!」
これに真っ向から立ち向かうのはまもり。
レンと真非等の間に入り込み、盾を構える。
「【クイックガード】【地壁の盾】盾!」
初撃の傘の払いを受け、そのまま続く刀を弾く。
「【二刀剣舞】」
そして逆回転の刀を受け、続く傘の振り回しに意識を向けるが――。
「ッ!!」
さらに流れを変え、放たれる『突き』。
そしてそのまま烈風へと繋ぐ。
「ち、【地壁の盾】【天雲の盾】ッ!」
だがまもりはこの急な変更に慌てながらも、身体はしっかり対応。
見事な全弾防御で、レンを守り抜いた。
「ありがとう、まもり! やっぱり貴方はこのパーティを守る、最高の『盾』だわ!」
そしてすでにまもりは二枚目の盾を、後方レンの方へ向けている。
「【ペネトレーション】【フレアバースト】!」
「なっ……あああああ――っ!」
ここでついに、完璧な反撃が炸裂。
軽くハイタッチしてほほ笑むレンと、がんばってそれに応えてはにかむまもり。
吹き飛んだ真非等に、駆け込んでいくのはメイ。
「【フルスイング】!」
「くっ! 【跳飛】!」
真非等は慌てて空へ逃げる。
「跳んだ! 【フレアストライク】!」
着地際を狙って放つ、レンの炎砲弾。
すると真非等は開いた傘によって、落下速度を減衰させた。
炎砲弾は、ゆっくり降りてくる真非等の足元を通り過ぎて炸裂。
「その感じでずいぶんファンシーな回避をしてくれるわね! 高速【連続魔法】【フレアアロー】!」
即座に放つ炎の矢。
着地直後の真非等は、すぐさま傘を開いて炎弾を弾く。
「ツバメちゃん! 【バンビステップ】!」
「はいっ! 【加速】!」
駆け出す二人。
一気に距離を詰めて接近し、同時に剣で攻撃。
再び響く、金属音。
真非等はまたも、仕込み刀と番傘で二つの剣を見事に防御。
だが今回はなんと、この展開を見越したまもりも走り出していた。
「い、いいいきまっ! 【シールドバッシュ】!」
「ぐ、あああああっ!!」
慌てて「す」が抜けるミスも、必死に走ったかいあって見事に命中。
生まれた衝撃波が、真非等を吹き飛ばした。
転がった真非等は受け身を取るような形で体勢を立て直し、エフェクトを輝かせる。
「【緋色剣舞】」
「あ、ああああのっ!」
それを聞いた先頭のまもりは、慌てて声を上げた。
「イチかバチかっ……いいいいきますっ!」
「りょうかいですっ」
「おねがいしますっ」
そう言って前に出ると、メイとツバメはこの場をまもりに『任せる』ため下がる。
「【爆火盾】!」
まもりはこの攻撃に対して、全弾防御からのカウンターを狙いに行く。
変則とはいえ、敵は二刀型。
その攻撃速度は、すさまじい。
刀を払い、戻し、突き、そして傘の振り降ろしという、一拍遅れの攻撃へ。
そのまま右に回転し、刀の払いから番傘の払いへと続ける。
すぐさま逆回転、やや遅い番傘の払いから、タイミングを狂わす刀の高速振り降ろし。
ここまでの流れを、『引き付けてから防御』を成立させるジャストガードに成功。
イチかバチかは、ここからだ。
水しぶきや烈風がくれば、物理攻撃の連続防御という前提が崩れ、ここまでの溜めが無駄になる。
一瞬。しかしまもりは悩んだ結果、さらにカウンターへの『数』を狙いにいく。
続く攻撃は、刀の突きを2連。
一回転して払いを続け、そして番傘の突きへ。
「突き……っ」
完全防御を決めるも、思わず息を飲むまもり。
「ッ!?」
続くのは水や烈風ではなく。
「縦の回転撃……っ!?」
真非等は前方宙返りから、刀と番傘の二本を使った強烈な唐竹割りを放つ。
完全に虚を突かれたまもりは、体勢を崩した。
それでも。長らく続けていた防御練習クエストの『異常な反復』が、その身体を勝手に動かす。
右手は獅子王の盾を、完璧なタイミングで掲げる。
鳴り響く金属音と、弾け散る火花。
そして剣舞は、最後の強烈な突きで締めとなる。
「こ、こここですっ! 解放――っ!!」
最後の突きの直後に、『決め』の暴風がくる。
そう読んだまもりは突きを受けた直後、烈風が吹き出す直前に攻撃を挟み込んだ。
範囲は狭いが、濃度の高い爆炎が炸裂する。
「うああああああああ――――っ!!」
賭けはまもりの勝利。
カウンターで巻き起こった真紅の濃縮炎が、真非等を吹き飛ばした。
「すっご……!」
「まもりちゃんすごーい!」
「変則の二刀流。めずらしい戦い方ですが、まもりさんとの相性は最悪でしたね……!」
すぐさま、まもりのもとに駆けつける三人。
「やっぱ盾子ちゃんの防御、すごすぎるわ」
「職人技だよな」
完全に体勢を崩されたにもかからず、盾だけは合わせる技能。
これには、観戦していたプレイヤーたちも感嘆する他ない。
こうして真非等のHPは残り5割を切った。
「どうやら、本当に親王たちとはレベルが違うようです。単純な剣技で勝つのは厳しそうだ」
番傘を杖に、ゆらりと立ち上がる真非等。
「番傘を使う二刀流は、単純な剣技とは言わないと思うけどね」
レンは、ため息を突きながら言う。
「では僕も……本来の力をもって戦いましょう」
そう言って真非等は、右手を掲げる。
「本来の力……剣士ではないのですか?」
「その感じ、まさか召喚……!?」
その予感は当たる。
足元に生まれた魔法陣から、上がるまばゆい輝き。
そして真非等が、狂眼を輝かせた。
「不遜なる者たちに慈悲なき神罰を。来たれ僕の――――【武御雷】!」
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