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942.藤原真非等

「貴様、こんなところで何をしている?」

「神事の準備ですよ」


 猛長親王がたずねると、藤原真非等と呼ばれる青年は当たり前のように応えた。

 水色の羽織に蒼の袴を履き、ふわりとした茶色い髪の下には穏やかな笑み。


「神事だと……?」

「ええ。新たな帝が生まれるのですから、そうなるでしょう?」


 継承権を持つ三人は、自然と互いを見合う。


「答えろ。一体誰が貴様を動かしている?」


 猛長親王たちは、誰が皇位を狙っているのかと問う。

 しかしそんな三人の様子に、真非等はくすくすと笑い出した。


「何がおかしい」

「僕を動かしているのは僕自身ですよ。何せこれは、僕が新たなヤマトの帝になるための儀式なのですから」


 まさかの発言に、驚く三人の継承者。


「……世迷言を。皇位継承の権利もない貴様に、それができるとでも?」

「たとえ何をしたところで、そのようなことは不可能」

「そういうことだねぇ」

「それを可能にするんですよ。ただ蘆屋が暗殺に失敗したのでね、順番を変えることにしたんです」

「暗殺だと……? まさか貴様が明光を!?」

「はい、僕が狙わせました」

「それがどういうことか、分かっているのだろうな……?」


 猛長親王は再び、【倶梨伽羅】を抜き払う。


「成功していれば、いち早く皇位が移っていたということですね……この僕に」


 その言葉に、皇位継承者三人は同時に武器を構えた。


「おとなしく投降しろ。もはや貴様に勝ち目などない」

「投降? 何を言っているのですか。これは神事。今から始まるのは演舞です」


 そう言って真非等は、薄く笑う。


「……なるほどね。いつも穏やかなタイプも、裏切りの有力候補だったわね」

「てっきり、親王の中のどなたかだと思いました」


 これにはやられたと、苦笑いのレンとツバメ。


「くだらぬ。貴様に我が剣が受けられるはずがないだろう」

「そう思うならどうぞ……つい先ほど冒険者たちに呆気なく敗れた、ご自慢の剣技を見せてください」

「貴様ぁぁぁぁ! ならばそこで消し炭となれ! 【焼天爆火】!」


 放たれた業火に、真非等は手にした真紅の番傘を開く。

 すると豪炎は、傘に弾かれ火の粉を散らして消えた。

 わずかに驚きを見せた猛長親王は、気を取り直して肉薄。

 炎の灯る刀を、勢いよく振り上げる。

 真非等はこれを、わずかな横移動で回避。

 するとそのまま返す形で放たれた振り下ろしを、閉じた番傘で受け止めた。


「どうしました? 思ったより貧弱な攻撃のようですが――」

「き、さまっ……!」


【俱梨伽羅】を押しのけた真非等は、一転攻勢に入る。

 真紅の番傘を大きく振るい、猛長親王を大きく飛び下がらせたところにかける踏み込み。

 放つ連続突きを猛長親王が下がりつつかわすと、真非等は突然番傘を開いた。


「っ!?」


 濡れた傘を開くように、飛び散った水滴に思わず顔をしかめる。

 しかし真非等が「くすくす」と笑ったのを見て、それが『おふざけ』だと確信。


「ふざけるなぁぁぁぁ!! 【灼火刀】!」


【倶梨伽羅】に、さらに高温の炎が灯る。

 大きな踏み込みから放つ、連続攻撃。

 真非等は下がりつつ、これを回避する。


「【雷刃】」


 ここで飛び込んできた冷泉は、短刀による高速の突きを放つ。

 しかしこれも真非等は、体勢を傾けて回避。


「余計なことをするな! 【紅蓮炎舞】!」

「二人がかりの方が、早いと判断しただけです【雷光旋】!」


 二人は即座に左右に分かれ、払いへとつなぐ。

 左右から同時に迫る剣撃は、回避しても余波を受けることになる強烈な一撃。


「そうはいきません」

「「ッ!?」」


 番傘はなんと、仕込み刀だった。

 真非等は左右から迫る斬撃を、番傘と刀で受け止めた。


「明光の崩御時、皇位継承の第一候補となる猛長親王。その次の候補となる冷泉。そして」

「【爆光術】!」

「第三候補、桔梗」


 術の使用と同時に、飛び離れる猛長と冷泉。

 直後、光弾が炸裂して煙を上げた。

 息を飲む三人。

 煙が晴れて見えたのは、開いた番傘を肩にかけた真非等の姿。


「三人がかりでこの程度ですか。では、そろそろ攻守交代とまいりましょう」


 そう言ってわずかに笑うと、反撃に入る。


「【激突】」

「ッ!?」


 一瞬で冷泉の懐に入り込んだ真非等は、番傘を突き出す。


「ぐ、ああっ!?」


 高速移動から放つシンプルな突きに胸元を打たれた冷泉は、そのまま弾き飛ばされ転倒。


「【飛光術】!」

「おっと」


 振り返りと同時に、迫る術を難なくかわして接近。


「隙だらけですよ」

「きゃああああっ!!」


 大きな払いを桔梗の側頭部に決め、こちらも一撃で弾き飛ばして打倒。


「取ったぁぁぁぁ! 【炎華烈柱】!」


 しかしその隙を突き、一気に距離を詰めた猛長親王の炎刀が迫る。


「遅すぎますね……【銀閃】」


 真非等は早いすり足で側方へ移動し、円を描く軌道の振り上げを回避。

 あえて最後に残しておいたのであろう猛長に向け、番傘から仕込み刀を引き抜いた。


「う、ぐっ……」


 高速の振り払いは美しく細い銀色の弧を描き、猛長親王を斬りつけた。


「まさか……こんなことが……っ」


 ヒザを突き、苦しそうに顔を上げる猛長親王。


「演舞はこれにて終了ですか。神事としては少し、物足りないですね」


 怒りのままに襲い掛かってきた親王三人を、軽く打倒した真非等。


「な、なんだあいつ……」

「見ろ、めちゃくちゃ強いヤツがいるぞ!」

「お、おい! あそこにいるの、メイちゃんたちじゃないか!?」


 青白くなった月。

 立て続けに巻き起こった爆発を見つけたプレイヤーたちが、集まってきた。


「なぜ貴様が、これだけの力を……」


 猛長は、解せないといった表情で問う。


「運命ですよ。まさか冥界を開けるほどになるなんてね。あの組織との利害の一致が、僕を帝に変えるんです」

「今、組織って言ったわよね?」

「はい、確かに組織と言いました」

「うん! 間違いありませんっ!」


 まさかの言葉に、目を見合わせるメイたち。


「まずは公家たちを率いるための『証』を得る。続いて明光を討つ。そして僕が京の、いえ、ヤマト国の天皇になるんです」

「そのような真似、させぬぞ」


 そう言って一歩、たまちゃんが前に出た。


「させませんっ!」

「……君たちですね、蘆屋を退かせた冒険者は」


 居並ぶメイたちを見て、真非等は何やら思いついたようにする。


「ちょうどいい。せっかくですし、君たちでもっと力試しをさせてもらいましょうか。そこの口だけ親王より楽しませてくれそうです」


 そう言って再び、真紅の番傘を肩に乗せる。


「さあ神事を、演舞を続けましょう」


 青白い満月の下、藤原真非等は妖しい笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 論理クイズですが切る位置はランダムであり短い方とあるので、ちょうど半分は無いと言うのは、ポイントのひとつかな。
[良い点] プレイヤーどこから入ってきたw ひかえーひかえー!不審者なるぞー!(裸黄金マントとか) [気になる点] 冥界の力を降ろしたのかな? そのうち「うぐぐ?ばかな力が暴走しt・・・!」 とかなり…
[一言] 漂う小物臭
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