941.裏鬼門へ
部下の狐たちによって、持ち込まれた情報。
再び京の町に、怪しい動き有り。
そしてそこには、アサシンらしき者の姿も見られたようだ。
「瘴気による攻撃が返され、蘆谷は退いたはずなのじゃ。陰陽師なしで、今度は何をしようというのじゃ?」
不思議そうにするたまちゃん。
「ここは葛葉たちに任せ、我らは街へ向かうぞ! この嫌な気配……これまでを大きく上回っておる!」
すぐに切り替え、街の怪しい動きを追うため立ち上がる。
「……やはり、私には重すぎるのかもしれぬな。帝という責務は」
慌ただしくなる空気に、弱気を見せる明光。
凛々しい目が、伏せられる。
「だからこそわらわたちがいるのじゃ。葛葉もいざという時には頼れるぞ。じゃが何よりこの大事に……最高の冒険者たちが味方じゃ。ぬしには『ツキ』もある。いつも通り構えておれ」
「おまかせくださいっ!」
そう言って、明光の頭をなでるたまちゃん。
「……そうだな。もう少しがんばってみよう」
あらためて前を向く明光の姿を見て、メイたちも気合を入れる。
「まだ小さな帝が大人の謀略に振り回される状況は、やっぱり力も入るわね」
「私たちもがんばりましょう」
「は、はひっ」
メイたちは、暮れてきた京の町へと出る。
「怪しい動きがあったのは南西……京の裏鬼門じゃ!」
目標は御所から下って南西。
四人はたまちゃんの後を追って、暮れゆく街並みを駆けていく。
「前々回の冥界降臨では鬼門から大嶽丸を呼び出した。今度は裏鬼門を使って何をする気かの……」
つぶやくたまちゃん。
「さあ、誰がいるのかしら」
「やはり糸目の女性でしょう」
「ク、クールな弟さんではないでしょうか」
「どうしてわかるのー?」
「こ、こういう時、強引に攻める猛長親王のようなタイプの方は、あまり出てこないのです」
「そうなんだ!」
「裏切るより、正面からぶつかるタイプということですね」
「なるほどー」
裏切者あるあるに、興味深そうにするメイ。
見えてきたのは、朱色の建物が目に付く八幡宮。
冥界とつながった京の月が青白く輝き出し、たまちゃんの足が止まる。
「ここで、何をしておる」
青白い月明かりに照らされ、神社の長い階段にいたのは――。
「……お兄さんの方でしたか」
「い、意外です……っ」
最上位の継承権を持つ、猛長親王だった。
「こうなっちえばもう、口にするまでもねえよな? この状況が、全てを物語っちまってるんだからなぁ……!」
たてがみのような髪に、戦士然とした体躯。
猛長親王が刀を構えれば、そこに炎が灯り、視界が熱に歪み出す。
「我が【俱利伽羅】で灰となれ。狐どもォォォォ!!」
「この容赦ない感じ、くるわ!」
レンが叫んだ瞬間猛長親王は、【倶梨伽羅】を豪快に振り上げる。
「【焼天爆火】!」
「【かばう】! 【天雲の盾】!」
「【装備変更】!」
付近一帯を真紅に染めるほどの爆発と、天高く巻き上がる紅蓮の炎。
まもりは即座にレンの前に立ち、炎から身を守る。
同時にメイも【王者のマント】に着替え、炎を払うことでツバメの援護に成功。
「【加速】【電光石火】!」
すぐさまツバメが反撃を開始。
斬り抜けは見事に、猛長親王の横っ腹を斬り裂いた。
「【フリーズストライク】!」
そこに続くのは、レンの氷砲弾。
「【炎舞】!」
しかし豪快な刀の振り払いに、焼き払われて消える。
「【灼火刀】」
ファーストコンタクトが終わると、刀身で燃える炎をさらに強める。
狙いはツバメだ。
わずか距離を置いた状態で放つ振り上げ、そして振り降ろしから放たれる豪炎。
駆け抜けていく炎は、炸裂して爆炎を巻き上げる。
「【豪火槍】!」
「ッ!?」
これをしっかり集中してかわすツバメに、一転して放たれる刺突。
慌てて身体を傾けると、頬を長い炎の刃がかすめていった。
「【バンビステップ】!」
この隙にメイは、王者のマントを身に着けたまま接近。
手にした剣で【フルスイング】を叩き込もうとするが――。
「【紅蓮炎舞】!」
【豪火槍】のモーションの残身からそのまま放つ豪快な振り払いは、付近一帯を焼き払う一撃。
「うわちちちっ! 【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
「またずいぶんと力押しな戦い方ね……っ!」
濃い紺色の空を赤く染めるほどの炎の乱舞に、思わずこぼすレン。
メイとツバメは、高く飛ぶことでこれを回避した。
「なかなか近づく隙がありません……」
炎のエフェクトが残留している場所には、判定が残っている可能性が高い。
そのため、踏み込めない前衛組。
煌々と輝く炎をまき散らして行う派手な力押しは、思った以上にやっかいだ。
「でも……時間は十分稼いでもらったわ。さあどうなるかしら」
「っ!!」
レンのそんな言葉に、驚くツバメ。
見れば今まさに振り返った猛長親王の上空に、氷砲弾。
それは【誘導弾】と【魔砲術】をかけた状態で、天に向けて放った【フリーズストライク】
「真上からの落下攻撃に、対応するスキルはあるのかしら?」
今まさに【紅蓮炎舞】の硬直が終わった猛長親王の頭に向けて、落ちてくる氷砲弾。
「【炎華烈柱】!」
これを猛長親王は、【倶梨伽羅】をゴルフスイングのように『縦に一回転』させる剣撃スキルで対応。
生まれる炎の柱が天に向かって高々と突き立ち、氷砲弾を焼き払う。
「本当に全てが派手……っ! でも、わざわざスキルを使ったのは大盤振る舞いが過ぎたわね!」
付近に燃え上がる炎が残るため、接近は難しい。
だが氷砲弾を焼き払うために放ったスキルは、モーションが大きく隙もある。
「【投石】!」
動いたのはメイ。
豪速で迫る石が、猛長親王の頭部に激突。
どうかしている速度で飛んできたその一撃は、体勢を崩すには十分だ。
「【投擲】!」
続けざまに飛んできたのは【雷ブレード】
いかに炎のヴェールが守っていようと、投擲攻撃をかわすことはできず、すでに崩れた体勢は回避を許さない。
「ぐっ!」
そして感電に硬直が生まれれば、【投石】という初期スキルがゆえの短い硬直を終えたメイは、走り出す。
「【バンビステップ】!」
黒煙を抜け猛長親王のもとに迫り、全力で剣を振り下ろす。
「【フルスイング】!」
「ぐあああああ――っ!」
大きく弾き飛ばされた猛長親王は、そのまま境内の石畳の上を転がっていく。
「高速【誘導弾】【フレアアロー】!」
すぐさま放つ、ビームのような尾を引く炎矢が追撃となり炸裂。
そのHPは3割を切り、一気に勝負はメイたちが優勢となる。
「狐め! まさかここまでの手練れを連れているとは……っ!」
【倶梨伽羅】を杖のように使い、ヒザを突く猛長親王。
「ぬしの狙いは何じゃ?」
ここでたまちゃんが、その真意を問う。
「明光の近くをうろつく見知らぬ狐と冒険者。妖しい気配を感じて来てみれば、そこにいたのはお前たち。これ以上、何を語る必要がある……ッ!」
そう言って再び、【俱梨伽羅】を握ったところで――。
「「ッ!?」」
現れたのは猛長親王のクールな弟、そしてその血縁である糸目の女性。
「冷泉……桔梗……?」
「兄上……? それにあなた達は明光様のお連れの……一体ここで何を?」
クールな冷泉に聞かれて、たまちゃんが応える。
「これまで明光を襲ってきた何者かの動き、次はこの場所が怪しいと踏んで駆けつけたのじゃ」
「貴様らが首謀ではないというのか?」
たまちゃんの言葉に、猛長親王は鋭い目を向けてくる。
どうやら猛長親王は、勘違いで攻撃を仕掛けてきていたようだ。
「先日明光を襲った病は、冥界の瘴気を使ったもの。術者は陰陽師じゃ。じゃが今は、その背後にいる首謀者を探しておる」
「その陰陽師は……どうしたの?」
糸目の桔梗が、感情の読みづらい表情でたずねる。
「すでにこの者たちが打倒した。明光の命を救ったのも、この者たちじゃ」
「だとしたらこの嫌な気配は、一体誰の仕業だ……ッ!」
帝に最も近い三人。
集まった理由は皆、不吉なものを感じ取って。
これにはレンも、怪訝そうな顔をする。
「あっはっはっは。これは良い余興になりましたね」
そこに聞こえてきたのは、笑い声。
満月に照らされた階段の上から降りてきたのは、親王たちに邪険にされていた一人の公家。
「貴様は……真非等か!?」
猛長親王の言葉に、藤原真非等は不穏な笑みを浮かべた。
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