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936.落陽殿と札屋敷

「広い御所……敵の居場所を見つけるのも一苦労ね」


 嵐山郷温泉で出会ったアカリという少女は、明光天皇だった。

 まだ幼さの残る彼女への瘴気攻撃を、たまちゃんと葛葉の力ではね返したメイたち。

 まさかの反撃に敵が苦しんでいるところを、狙いに行く作戦だ。

 成功には何より、敵の発見が重要。

 夜の御所には、明かりのついた建物と灯篭が静かに光るのみ。

 人通りは当然少なく、攻撃の手段も地味なため、異変を見つけにくい。


「製薬のクエストもでしたが、焦らせる展開が続きますね」

「も、もしかすると、手分けをして探すのがいいのかもしれません……っ」


 各自の移動能力や、索敵能力には差がある。

 選択を迫られる難しい状況下だが、メイはレンと目配せ一つ。


「【呼び寄せの号令】で近くの動物たちに教えてもらうのもいいけど……まずはこの子に聞いてみましょうか」

「どっちか分かる?」


 メイがたずねると、抱きかかえた犬神はその前足をそっと伸ばした。


「向こうだね!」

「動物値、おそるべしね」


 犬神は異変への感覚が鋭いようだ。

 相変わらず動きは遅いが、明確に北西の方角を指した。

 駆けるメイたちは、北西の『落陽殿』にたどり着く。

 寺社を思わせる大きな屋根が特徴の建物は、陰陽の術などを行うための殿社。

 見るからに怪しい雰囲気だ。

 四人はそのまま四段ほどの木製階段を上がり、雨戸のような作りの木戸を開く。


「……おじゃましまーす」


 メイ、一応小声であいさつして犬神を下ろす。

 さらにツバメとまもりが小さく頭を下げて踏み込んだことに、レンは「ふふ」と笑う。

 中は広い板張りの空間。

 大きく床に描かれた『格子の紋様』、その中央でヒザを突く一人の男。

 小さな行灯がいくつも置かれた落陽殿の雰囲気は、京の『闇』を強く感じさせる。


「な、何者だ……っ!」


 荒い息をつく男に絡みつくのは、『返し』によって現れた瘴気。


「なるほど、敵は陰陽師だったのね」


 定番の狩衣は黒色。

 しかし帽子はなく、肩までの黒髪が乱れている。

 上半身も袖を細くしたものとなっており、腰に巻いた黒のしめ縄が目を引く。

 片手で頭痛を抑えるような中二病的ポーズに、ゾワゾワしたものを感じながらつぶやくレン。


「『返し』は貴様らの仕業か……! いいだろう。ここで邪魔者を消せば、次こそ目的を達成できる……!」


 荒い息のまま、二本指で格子を描く敵陰陽師。


「……来たれ悪業式神、隠形夜叉! 急急如律令!」


 すると敵陰陽師の背後に、2メートルを超える鬼が現れた。

 濃灰色の肌に、長く白い髪。

 太い両手に湾曲した刀を持ち、化粧まわしのようなものを身に着けた姿は、まさに悪鬼。


「おおーっ!」

「これはまた、ずいぶんと迫力あるわね」

「は、はひっ」


 その威容に、思わず息を飲むレン。


「クハハハハハ……ッ! さあ、猛き悪鬼の前にひれ伏すがいいっ!」

「グォォォォォォォォ――――ッ!!」


 生暖かい風を吹かす隠形夜叉が、激しい咆哮をあげる。

 そして行燈の光が、わずかに揺れたその瞬間。


「【サクリファイス】【アサシンピアス】」


 この建物の中には、ボスがいる。

 そう確信して姿を消していたツバメの一撃が、クリティカルを叩き出す。

 3割のHPを消費して使用した【致命の葬刃】が直撃。

 今まさにHPゲージを表示したばかりの式神は、なんとその8割を消し飛ばされた。


「ウォオオオオオオオオ――――ッ!!」


 戦闘開始と同時にHPが3割を切った式神は、さらに猛烈な咆哮をあげて発狂を開始。

 猛烈な勢いで、後衛のレンを狙って飛び掛かる。しかし。


「準備をしてたのは、私も同じよ! 【コンセントレイト】!」


 レンは溜めていた魔力を解放し、目にした【常闇の眼帯】を放り出す。


「――――【ファイアボルト】!」


 杖から一斉に飛び出した30本もの炎弾が、今まさにレンに襲い掛かろうとしていた隠形夜叉に直撃。

 次々に巻き起こった小爆発がつながり、一つの大きな炎を巻き上げる。


「おおおおーっ!」

「す、すごいです……!」


 いきなり敵の式神を吹き飛ばしたレンとツバメに、思わず歓声を上げる。


「【隠密】使っておいてよかったわね……ツバメ?」


 先手が華麗に決まって喜ぶレンに、しかしツバメは少し物足りなさそうだ。


「やはり眼帯を取った後に、目が金色に輝く演出が最高にカッコいいです」

「あれは最高に中二病なの!」


 いきなり敵陰陽師の式神を葬り去った、作戦勝ちの二人。

 最高の雰囲気をツッコミでぶち壊して、早くも後半戦が始まる。


「我が式神が……ならば!」


 敵陰陽師は唇を噛むと、すぐさま右手で二本指を立て、術を使用。


「呪符よ場を制圧しろ! 急急如律令!」


 命じると、足元の格子紋が妖しく輝く。そして。


「「「「ッ!?」」」」


 信じられない量の『呪符』が、格子紋から流れ込む。

 まるで滝を逆流させているかのような勢いで、天井に広がっていく呪符。

 そのままあっという間に落陽殿の内部に張り付き、空間を呪符で支配した。


「圧巻の光景です……」


 隙間の一つもない呪符の巣窟。

 灯篭に照らされた薄闇の中、敵陰陽師は右手を振るう。


「【飛】!」


 すると付近に張り巡らされた呪符のうち、数十枚が妖しい輝きを灯した。

 そして、飛来。


「こういう戦い方は、めずらしいわね!」


 四人は必死に視線を走らせながら、回避に集中。

 見事な動きを見せるが――。


「レンちゃんっ!」


 次々に輝きを灯しては飛んで来る呪符たちは、全方位から迫る。

 後方の天井から飛んできた一枚に気づくのが遅れたレンを、メイが手を引き難を逃れる。


「ありがとうメイ! やっぱり囲まれた状態での戦いは難しいわね!」


 事なきを得たレンは、すぐさま回避モードに復帰。

 二人は安堵の息をつく。しかし。


「【流】!」

「「「「ッ!?」」」」


 続く攻撃は、呪符の『奔流』

 正面から迫る急流のごとき一撃には、回避できるような隙間はない。


「うわわわわわ――っ!」


 巻き込まれたメイは、そのまま波にのまれるようにして転がった。

 ダメージこそ衝突計算で少ないが、転倒を取られたことは大きい。


「【集】!」


 陰陽師は、さらに呪符攻撃の方向性を変える。

 付近を埋め尽くす無数の呪符を、一点集中させる形でメイを狙う。


「【かばう】【地壁の盾】!」


 そこに飛び込んできたのはまもり。

 すぐさまメイの前に立ち、掲げた盾で呪符の連射を防御する。


「【散】!」


 敵陰陽師は、この隙を突こうとしたレンとツバメに、近くの壁に張られた呪符を散弾のように飛ばしてけん制。

 防御を取らせ、優位を譲らない。


「ありがとうまもりちゃんっ!」

「あ、あの、メイさん……」


 追い込まれた劣況。

 まもりは背後のメイに、そっと耳打ちをする。

 するとメイは、その内容に目を輝かせた。


「おお―っ! 面白そうっ!」


 盾の後ろからまもりをつかみ、メイはタイミングを計る。


「【集】!」

「それではいきますっ! 【ゴリラアーム】!」


 再び始まる単体向け攻撃。

 呪符の集結攻撃が始まった瞬間、まもりを振り回す。


「せええええーのっ! まもりちゃんキャノンボールだああああああ――――っ!」


 そしてそのまま回転し、敵陰陽師に投擲した。


「み、みなさん、後をお願いします……っ! 【水球の守り】っ!」


 砲弾のような勢いで飛んでいくまもりは、放たれる呪符の刃を前にバリアを発動。

 生まれた球形の水膜に、無数の札が容赦なく突き刺さるが、まもりを止めることはできない。

 呪符のハリネズミみたいになったまもりは、そのまま単純な体当たりで特攻。


「ぐあああああっ!!」


 弾ける水飛沫と共に、陰陽師を弾き飛ばした。


「【加速】【リブースト】【稲妻】!」


 そこに詰めていたのはツバメ。

 ヒザを突く態勢になった陰陽師の左側を、雷光を引きながら斬り抜けていく。


「【反転】」


 そしてすぐさま半回転。


「【稲妻】!」


 高速で行って戻る剣撃、『ツバメ返し』を叩き込む。


「【反転】」


 ここでツバメは、もう一度【村雨】を構える。


「調子に乗るなぁぁぁぁッ! 来たれ【張子の大虎】! 急急如律令!」


 しかし欲張った三度目の攻撃を放とうとした瞬間、陰陽師が印を切った。

 一瞬で呪符が集まり、生み出されたのは大型の虎。

 体高3メートルに及ぶ呪符の魔物は、ツバメ目がけて真っすぐ喰らいつきにくる。


「少し欲張り過ぎました……仕方ありません」


 迫る大虎を見てツバメは、短く息をつく。


「――――【斬鉄剣】」


 放つ一撃が描く、刃の放物線。

 時間が止まったかのように、静まり返る空間。

 ツバメの髪が、付近を覆い尽くす札がバサバサと舞う中、【村雨】を鞘に納める。

 すると遅れて落陽殿の天井に深々とした刀傷が刻まれ、【張り子の大虎】は一刀両断。

 虎を形成していた大量の呪符が、盛大に弾けて散った。


「わあーっ! ツバメちゃんカッコいいーっ!」

「お、お見事です……っ」

「これはちょっと、ゾクゾクしちゃう演出ね……!」


 舞い散る紙片の中で「もったいないです」と息をつくツバメは、プロのアサシンの様だった。

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[一言] 五月アナの動物伝説は+αの簡易版を先に作ろうかと思っています。
[一言] 論理クイズですが、ヒントは往復かな。 今回の模範解法は数字が絡まないので、ヒントみたいな感じになっています。 分かるとすっきりする問題だと思っています。
[良い点] レンちゃん特効(黒陰陽師)。 準備時間があるとツバメちゃんの隠形(ガチ)が活きてくるな… そして後衛狙いをレンちゃんのファイアボルト連打でずどどど撃沈。 哀れボスはスキルの1つも使えず塵…
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