929.大嶽丸
『三明の剣』のうち、回復を担っていた【顕明連】を封じたたまちゃん。
これによって大嶽丸の残りHPは4割弱ほど。
「ウォオオオオオオオオ――――ッ!!」
激しい咆哮と共に、二本の刀を振り上げる。
「きますっ!」
低空飛行から放たれる、二本同時の振り降ろし。
これをツバメはすぐさま、左へのサイドステップでかわす。
するとそのまま一回転しての振り払い。
両手を開く形での回転攻撃を、しゃがんで回避。
下がって距離を取ったところに、再び高速飛行で迫る大嶽丸が振り下ろす刀。
これをツバメが右にかわすと、後方の建物の壁が衝撃に斬られて落ちた。
「【加速】【投擲】!」
ツバメは視線を引き付けつつ、【雷ブレード】による攻撃を狙う。
大きな体でこれを避けた大嶽丸は、氷槍の乱舞で反撃。
300本を超える氷刃が次々に飛来し、建物に突き刺さっていく。
「っ!!」
一発肩をかすめたが、ツバメは直前の攻撃で生まれたガレキの陰に入ることでやり過ごす。
「見事じゃ!」
オトリとしての動きは十分。
ツバメの作った隙に動いたのは、意外にもたまちゃん。
「【狐火弾】」
二本指を立てて作る『印』から放つのは、青い炎弾の術。
これを大嶽丸は、飛行で飛び越え接近。
そのまま剣を振りにいくが、たまちゃんは続けざまに術を使用する。
「【火炎網】! 今じゃ!」
網のような形状で吹き上がった炎が大嶽丸を捉えると、メイが動き出した。
「【装備変更】っ!」
「「「うおおおおおーっ!!」」」
観戦組からあがる歓声は、メイが【狐耳】装備に変えた事で、狐娘が二人になったため。
「それっ! それそれっ!」
【狐火】を灯した剣撃を二発叩き込み、そのまま大きな振り上げにつなぐ。
大嶽丸は防御を選んだが、描かれる青い炎の剣撃に大きく弾かれた。
するとメイの前に踏み込んできたたまちゃんが、再び手を伸ばす。
「【狐火砲】!」
そして噴き出す青炎の一撃で、大嶽丸を転がした。
「見事じゃ!」
「いえいえっ!」
狐コンビネーションで反撃を決めると、両手で狐を作ってウィンクのたまちゃんに、メイも合わせて狐を作って並ぶ。
「すっげー!」
「可愛い狐コンビがこんなに強いとか、最高かよっ!」
いよいよ盛り上がる観戦者たち。
「ツバメ! まもり!」
「「っ!!」」
閃く白光に、レンが声をあげる。
二人の狐ポーズに目を取られていたツバメとまもり、うっかり落雷による反撃を喰らいかける。
「ウォォォォォォォォ――――ッ!!」
HPは残り2割。
大嶽丸は咆哮をあげ、新たなスキルを使用。
するとその巨体が三つに増えた。
先頭の大嶽丸は両手の刀を掲げると、飛行で急接近。
その狙いは、たまちゃんだ。
「【かばう】!」
まもりはすぐさま、大きく速い跳躍で防御に入る。
「【クイックガード】【地壁の盾】盾!」
一体目の大嶽丸の二連撃を受ける。
大きく弾かれたところに、迫る強烈な振り払い。
「【地壁の盾】……っ!」
さらに弾かれ下がったところに迫る二体目の大嶽丸。
放つは跳躍からの、全力振り降ろし。
「【地壁の盾】! きゃああああっ!」
豪快な一撃に、大きく弾き飛ばされる。
「こ、この【分身】……実体がありますっ!」
「ということは……!」
レンの嫌な予想は、現実となる。
三体が同時に刀を掲げると、夜空に輝く炎の雨も前回の3倍の量となる。
範囲、そして密度を上げた炎の雨に、四人はおとなしく防御を選択。
大嶽丸は、さらに押す。
「「「「っ!!」」」
氷剣と矛による攻撃は、300発を同時に3体が放つ形だ。
それは回避を許さぬ、怒涛の氷刃乱舞。
「うわわわわーっ!」
「これは……っ!」
「とんでもない攻撃ね……!」
盾を持たない三人を斬っていく氷刃の嵐は、確かにHPを削っていく。
「【加速】!」
一方的な攻撃を避けるため、ツバメはすぐさま反撃に出た。
「っ!」
しかし付近一帯に落ちる【召雷】による攻撃で、足止めを喰らってしまう。
発生の早い攻撃の前に、メイたち三人も再びの防御を余儀なくされた。
「ウォォォォォォォォ――――ッ!!」
大嶽丸は、再び氷剣と矛の全体攻撃に入る。
「実体持ち分身の範囲攻撃は、やはり厳しいです……っ」
「まったくね……!」
防御一辺倒となり、押されていくメイたち。
各自が反撃の一口を探す中、その口火を切ったのはまもりだった。
「【召雷】!」
氷刃乱舞の直後、生まれるわずかな隙を突く。
先ほどの足止め【招雷】時に【マジックイーター】で吸収した一撃は、とにかく発生が早い。
これが最前の一体に直撃したことで、残り二体の攻撃が停止した。
「メイさん、お願いしますっ! 【不動】【地壁の盾】!」
「りょうかいですっ! 【ソードバッシュ】!」
メイの方に向けて、構えた盾。
放たれた猛烈な衝撃波は、まもりごと大嶽丸を飲み込み炸裂。
【不動】が間に合わなかったまもりは転がり、大嶽丸は吹き飛ばされ消えた。
「【超高速魔法】【ファイアボルト】!」
吹き荒れる風の中、もう一体の大嶽丸に向けて放った炎弾が直撃。
すぐさま狙いをレンに変えた二体目の大嶽丸は、高速飛行で接近してくる。
「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
レンはこれをあえて引き付け、後方へ下がる。
全力の振り降ろしは、叩きつけるだけでレンごと吹き飛ばす一撃だ。しかし。
大嶽丸の足が石床に着いた時点で、優劣が逆転する。
「【解放】!」
足元の【設置魔法】から噴出した【フレアストライク】が直撃。
「もう一発! 【フレアストライク】!」
さらに胸元に炎砲弾を喰らった大嶽丸が、大きく下げた足。
「凍りなさいっ!」
レンの合図で、石畳に描かれたルーンが反応。
突き立つ氷剣が、大嶽丸を貫く。
「【低空高速飛行】! さあトドメよ!」
最後は真っすぐ接近し、手にした杖を突き出す。
「【フレアバースト】!」
放つ爆炎でその巨体を焼き尽くし、杖を振り下ろす。
これで残る大嶽丸は、一体のみ。
「いきます――――【雷光双閃華】」
ツバメは両手の短剣を構え直し、新スキルを発動。
大嶽丸の右刀の振り上げを右へ動いてかわし、続く左刀の振り降ろしも左へ戻ってかわす。
「【跳躍】」
そして二本の剣による同時振り降ろしを、後方への跳躍で回避し着地。
大嶽丸は右の刀を掲げ、氷刃乱舞を生み出すモーションに入る。
「【加速】【リブースト】【スライディング】」
しかし氷刃が発生した瞬間、ツバメは大嶽丸の足元をくぐっていた。
「【反転】」
振り返りと同時に、『一本目』の【グランブルー】を大嶽丸の右脚に刺す。
鬼人は咆哮と共に振り返り、刀を叩きつけにくる。
「【加速】【スライディング】【反転】」
しかしその刃は、石畳を斬り裂くのみ。
再び背後を取ったツバメは、『二本目』の【致命の葬刃】を左脚に刺す。
大嶽丸は振り返り、今度は二本の刀をまとめてツバメ叩きつけた。
石畳が砕け散り、大きく砂煙が上がる。
しかし斬られたツバメは消え、大嶽丸の頭部に影が差す。
月を隠すように落下してきたツバメの手には、【境界死線】
「――――それは【残像】です」
最後はその肩口に、【跳躍】からの突き刺し。
こうして『三本目』の刺突をくらい、大きくのけ反った大嶽丸。
派手に飛び散る大量の火花の中、ツバメは静かに背を向けた。
「終わりです」
ツバメがそうつぶやくと、続けて「ドンドンドン!」と三連続の爆発が巻き起こる。
生まれた爆炎は一つの大火となり、飲み込まれた大嶽丸のHPゲージを消し飛ばした。
舞い散る無数の火花の中。
夜空をクルクルと舞い飛び戻ってくる三本の短剣を順にキャッチしたツバメは、小さく息をつく。
「お、おお……」
「「「「おおおおおおおお――――っ!」」」
「なんだ今のスキル!」
「アサシンの奥義って感じだな……! 敵の攻撃をかわしまくって、一撃ごとに死に近づく感じ……!」
「すっげええええ――っ!!」
次々に上がる驚愕の声と、唖然の吐息。
「ていうか実体ありの分身に、真正面から立ち向かって跳ね返すのかよ!」
「いやいや! まずは狐コンビが可愛いすぎる件からだろ……っ!」
見れば土御門橋付近の建物は倒れ、砕け、崩壊寸前。
それは大嶽丸という敵が、いかに強大かを物語る状況だ。
だがそれでも観戦者たちは、口々に歓声をあげて盛り上がる。
「ツバメちゃんないすーっ!」
「まもりさんが流れを変えてくれました」
「い、いえいえっ私は敵の魔法を盗んで使う小者です……っ!」
「ふふふ、それが楽しいんじゃない。好判断よ!」
「はひぃっ」
目の前に笑顔のメイ、背中に抱き着くレン。
硬直するまもりに、「分かります」とうなずくツバメ。
四人もただ楽しそうに、勝利を祝う。
「うむ! 見事じゃ!」
そして最後に、瓦礫に立ったたまちゃんが満足そうにうなずいた。
「さて。切りもいいし、一度ここら辺で切り上げましょうか」
「そうしましょう」
「そろそろ夜ご飯の時間だね!」
「……お、お寿司タイムですっ!」
そして、まもりの目の色が変わった。
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