表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

928/1383

928.土御門橋へ

「なんだあれ……」

「鬼だ……デカい鬼が町に出たぞ!」


 京の北東は『土御門橋』前に現れた怪異。

 その威容に、プレイヤーたちがざわめく。

 酒吞童子の美男子じみた感じとも、茨木童子の女性感もない、これぞ鬼という筋骨隆々ぶり。

 濃灰色の肌に長い白髪、二本の角。

 二本の刀を持ち、さらにもう一本腰に提げている。

 屋根を越えるほどの巨体は、見ればすぐに分かるほどの大物だ。


「鬼神魔王……大嶽丸じゃ」

「土御門橋はあの世への出入り口の一つ。冥界から大物が帰ってきてしまったようですな」


 その光景に葛葉も、思わず目を奪われる。


「いきましょうっ!」


 メイたちは、現れた大嶽丸のもとへと駆ける。

 たどり着いた土御門橋前。

 そこにいたのは、驚きの声をあげるプレイヤーたち。


「メイちゃんだ! メイちゃんが来たぞ!」

「このクエストを追ってるのは、メイちゃんたちだったのか!」


 始まる戦いに、自然と意気が上がる。

 大嶽丸は、メイたちの到着と同時に動き出した。

 右の刀を掲げると黒雲が天を覆い、黒雲に稲光が走った次の瞬間。

 視界が焼けるほどの落雷。


「「「「ッ!?」」」」


 直撃こそしなかったものの、地面を駆け抜けていく雷光に全員が感電硬直。

 大嶽丸が掲げていた刀を振り下ろすと、夜空に生まれた無数の炎弾が雨のように降り始める。


「【バンビステップ】!」

「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】!」


 メイとツバメは硬直が解けるまでに目配せ、硬直からの解放と同時に直進で【火炎雨】の範囲を駆け抜ける。


「まもり! おねがい!」

「は、はひっ【天雲の盾】!」


 前衛二人がなりふり構わぬ回避を選べたのは、レンを守る盾の存在がいるため。

 躊躇なく背中に抱き着いたレンに驚きながらも、まもりは掲げた盾で炎の雨から身を守る。


「鬼なのに、上級魔法みたいな攻撃を……っ!」


 炸裂し、次々に京の建物を破損させていく炎弾。

 京の町を赤く染めるほどの炎の雨に、観戦者たちは身を隠すことしかできない。

 大嶽丸は、その狙いをまもりに向けた。


「【不動】【地壁の盾】っ!」


 付近一帯に響き渡るほどの衝突音を鳴らし、盾と刀がぶつかりあう。

 さらに続く左の刀の振り降ろしも、続けざまに防御。


「ここっ! 【フリーズストライク】!」

「【加速】!」

「【バンビステップ】!」


 当然この隙を逃さず、三人は攻撃に入る。


「ウオオオオオオ――――ッ!!」


 しかし大嶽丸が咆哮を上げると、暴風が全方位に向けて吹き荒れる。


「きゃあっ!」

「うわーっ!」

「っ!」


 壁のような突風に進行を止められ、氷砲弾も軌道をそらされた。

 大嶽丸は攻勢を続ける。

 空を完全に覆い尽くした黒雲が落とし出す豪雨に、視界は一気に最悪なものとなる。

 数メートル先も、よく見えない状況。

 跳び上がった大嶽丸は、手にした刀を全力で振り下ろしてきた。


「っ!!」


 その狙いはメイだったことは、幸運だった。

 落ちる強い雨音の中からでも、敵の迫る音に気づき刀を回避する。

 深々と石畳に突き刺さった大きな刃。

 片ヒザを突く形で着地した大嶽丸は、そのままもう一方の刀を大きく払う。

 豪雨のため、突然飛んで来るように見える刃にも、しっかり集中。

 メイはしゃがみ、巨刀が頭上ギリギリを通り過ぎていったのを確認。

 直後、刀が民家の壁を斬り飛ばした。


「いーちゃん! お願いっ!」


 メイの呼びかけに答えて出てきたいーちゃんが暴風を放つ。

 降りしきる豪雨を一時的に吹き飛ばし、クリアになる視界。

 このわずかな隙間に、動き出したのはツバメだ。


「【加速】」


 駆け込んできたツバメの姿を見て、大嶽丸は刀を振り下ろす。


「【リブースト】!」


 これを超加速で回避。

 しかし攻撃に向かわない。

 この動きは、敵の視線を引くためのオトリだ。


「【ラビットジャンプ】【フルスイング】!」


 ツバメが視線を引き付けた瞬間を狙い、メイは反対側から跳躍。

 そのままその肩口に剣を叩き込む。

 強烈な一撃が決まり、雨雲が霧散する。


「うおおおおおおお――っ!!」


 派手なエフェクトと共に決まった重すぎる一撃は、巨大な大嶽丸に片ヒザを突かせた。

 小さなメイが一撃で巨大鬼を屈させる光景に、あがる歓声。


「【フレアストライク】!」


 レンはすぐさま追撃。

 飛び散る火の粉と共に、さらに大嶽丸が体勢を崩す。


「すげえ……」


 一瞬消えた雨から、オトリ、剣撃、魔法という流れが当たり前のように決まり、観戦者たちが唖然とする。

 しかし驚きはこれだけではなかった。

 なんと大嶽丸のHPが、回復を始めた。


「早い……とてもどうにかできる回復速度じゃないわ」

「やはりか……」


 それを見て、たまちゃんが悩ましそうに口を開いた。


「大嶽丸の持つ三本の刀。大通連、小通連、顕明連は『三明の剣』と呼ばれ、ヤマトを代表する得物じゃ。三つがそろっている状況では、酒吞童子の力を上回るどころか、勝ち目がないと言えるレベルじゃろう」

「ど、どう対応すればいいのでしょうか……っ」


 困惑するまもりに、たまちゃんは告げる。


「時間を稼いでくれぬか? その隙にわらわが、大嶽丸が提げた『顕明連』の復活能力を封じてみせよう」

「りょうかいですっ!」


 こうして狙いが決まったところで、再び大嶽丸が動き出した。


「ッ!?」


 まさかの低空高速飛行。

 踏み出し一歩から滑るような軌道で突進し、そのまま二本の刀を重ねるような形で持つと、大きな振り払いの回転撃を仕掛ける。


「【スライディング】【反転】!」


 ツバメはすぐさま、飛来する大嶽丸の下を潜り抜けて振り返る。

 切れ飛ぶ建物が落ちて砂煙を上げる中、大嶽丸は片足を突き急停止。

 そのまま大きな軌道のバク宙を決めると、空中で身体をひねる。

 振り返りと同時に放つ、落下斬りは二本同時。

 ツバメは速いバックステップで直撃を回避するが、吹き荒れる衝撃波に大きく弾き飛ばされた。


「何よ、この数……っ!」


 右の刀を掲げる大嶽丸。

 続く攻撃は【氷刃乱舞】

 空中に生まれた氷剣・氷矛の数は、三百を超えるほどだ。


「あ、あのっ!」

「まもりちゃん! お願いしますっ!」


 まもりが何を言おうとしたか、メイはすぐに察知した。

 同時にツバメとレンは、ここで防御を選択。


「【チャリオット】【天雲の盾】!」


 まもりは盾を前面に出し、走り出す。

 次々に飛んで来る鋭い氷剣の乱舞を、全て弾き飛ばして前進。

 そのまま氷刃の嵐を駆け抜けたところで、メイはまもりの前へ飛び出していく。


「【フルスイング】!」


 放つ豪快な振り上げが、その脚部に炸裂。


「【フレアバースト】!」


 メイの一撃に大きく体勢を崩した大嶽丸を、爆炎が後押し。

 ここでメイは、さらに踏み込んでいく。


「もう一回【フルスイング】!」


 続く豪快な振り上げが決まる。


「【投擲】!」


 ここでツバメも続き、距離的にイチかバチかだった【雷ブレード】の【投擲】が、ギリギリで直撃。

 奪った硬直を、メイは逃さない。


「からの――――っ! 【ソードバッシュ】だああああ――――っ!」


 なんと【フルスイング】二発からの【ソードバッシュ】までが、一連の連携となる。

 駆け抜ける衝撃波は容赦なく大嶽丸を吹き飛ばし、近くの奉行所の門を突き破って転がり、瓦屋根の母屋に突っ込んでようやく停止した。


「け、削り切ったぞ……ッ!?」

「回復する前に、畳みかけた!」


 たまちゃんの【封印術】のために隙を作るという作戦のつもりが、なんと大嶽丸のHPを削り切ってしまったメイたち。

 想定外であろう展開を前に、集まる視線。

『倒せないはずの大嶽丸のHPを削り切ったらどうなる?』そんな検証動画のような状況に、観戦勢は夢中になる。

 しかしどうやら、HPゼロからでも『強引に回復』という形になるようだ。


「よくやってくれた! ――――【封】!」


 付近の建物の屋根に上っていたたまちゃんが、両手で印を結ぶ。

 すると腰に提げた【顕明連】に、光の縄のようなものが絡みつく。

 大嶽丸は最後の回復を4割ほどまで行ったところで、強制的に回復を封じられた。


「さあ、勝負はここからじゃ!」


 大きくうなずくたまちゃん。

 しかし顕明連の封印は、大嶽丸を本気にさせるスイッチ。


「ウオオオオオオオオ――――ッ!!」


 猛烈な咆哮と共に、広がる黒雲。

 鬼神がその狂眼を、ギラリと輝かせた。

ご感想いただきました! ありがとうございます!

返信はご感想欄にてっ!


お読みいただきありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら。

【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 負けイベっぽい戦闘でギミック発動前に削り切りは浪漫だよね! ・・・くそう、くそう! [気になる点] 大嶽丸は名前が好き。 日本妖怪の中でも凄い大物感がある。 大通連と小通連も鈴鹿御前の件で…
[一言] 論理クイズ「幼女と読まれなかった数字」 行きますね。 問題 1から60までの数字が1分おきに読み上げられていく。 ただしその順番は完全にランダムである。 そして60個の数字のうち、どれ…
[一言] 再戦後もワンパンで終わったら、ギャグ的な方面で盛り上がりそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ