926.冥界からの帰還
メイによる怒涛の【無限回廊】突破で、早々に時間稼ぎの仕掛けを乗りこえた四人。
たまちゃんや葛葉たちと共に、夜の京を駆ける。
「……おいおい、ずいぶんと早く抜けられちまったなぁ」
「「「「っ!?」」」」
「これじゃ、冥界から引っ張れるのは精々一体くらいだな」
どうやら本当に無限回廊の脱出時間は、その後のクエストの数に関わっていたようだ。
「あれは……!」
見れば何者かが鳥居の上に座り、酒の入った大きな杯を傾けている。
「黄泉の世界から帰って来たぞ……人間ども」
そう言って笑ってみせたのは、白と黒のボロボロの着流しを雑に羽織り、二本角に牙を生やした鬼の少年。
「酒呑童子さんですか」
「……ん? 貴様らは以前――」
「リベンジ戦になる場合、こういう会話の演出が入るのですね」
それはヤマトでのクエストで倒した敵が、冥界から戻ってきた形になった場合専用のセリフ。
メイたちは自然と武器を構える。
「おっと、こいつの姿が見えないのか?」
しかし石畳に描かれた陣からせり上がってき来たのは、一人の少女。
「た、助けてくださいっ……!」
「人質だ」
座り込んでしまった少女を取り囲むのは、高さ1メートル半に迫る土蜘蛛たち。
酒吞童子は酒を飲み干し、鳥居から飛び降りた。
「はじめようか。一方的に斬りつけるだけなんてつまらねえからな、精々『わきまえて』戦えよ。この女が土蜘蛛の餌にならないようになぁ!」
そう言って剣を抜き、ニヤリと笑った。
「【縮地】!」
「っ!!」
一瞬で距離を詰めた酒呑童子は、手にした刀でメイを狙う。
高速の振り降ろしから、美しい流れで返す刀。
そのまま一歩踏み込んでの振り上げ。
「【アクロバット】!」
「やるなぁ、それならこれはどうだ?」
酒呑童子は刀を払い、真空刃を飛ばす。
「っ!!」
これをメイはその場にしゃがんで回避。
反撃は狙わず、回避に専念する。
「【刀華乱舞】」
押してくる酒呑童子が放つは、必殺の剣舞。
「うわわわわーっ!」
高速で放たれる刀。
単純な回避は難しいと踏んだメイは、後方へ大きく下がるが――。
「うわっと!」
放たれた真空刃が、メイの肩をかすめていった。
その実力は、前回の戦いを明らかに上回っている。
「どうしたどうしたァ!? 逃げてばかりじゃ勝負にならねえぞォォォ!」
煽る酒吞童子。
しかし下手に反撃をすれば、いつ少女が食われてしまうか分からない。
メイにとってここは、耐えるしかない状況だ。
「【地壁の盾】!」
「【加速】【スライディング】!」
まもりとツバメも、迫る土蜘蛛に攻めを打てずにいる。
「ここは我らが……!」
そんな中、土蜘蛛たち相手に攻勢を見せたのは葛葉。
酒吞童子がメイに意識を奪われている隙を突き、少女の奪還を狙う。
「散!」
取り出した三十枚の札が一斉に飛び、土蜘蛛に次々と貼り付いていく。
「悪しき怪異を払え! 急急如律令!」
掛け声とともに、土蜘蛛が砕け散る。
これによって残った蜘蛛たちが、狙いを葛葉に向けた。
「レン、ここはぬしに任せるぞ!」
「っ!?」
「【狐火蓮華】」
まさかの指名。
たまちゃんは足元に描かれた青い炎の紋を炸裂させ、葛葉に迫って来ていた土蜘蛛をまとめて焼き飛ばした。
「今じゃ!」
そして生まれる、人質少女への道。
「そういうこと! 【低空高速飛行】【フレアバースト】!」
レンは少女の後方から迫っていた最後の一匹を、ゼロ距離からの爆炎で吹き飛ばし、人質を連れて下がる。
こうしてメイたちは、戦局を圧倒的に不利にしていた人質の解放に成功した。
「おいおい、宇迦之御魂までいたのかよ。こいつはやられたなァ」
奪われた人質に気づき、やれやれと首を振る酒呑童子。
「あ、ありがとうございます……っ!」
助けられた少女は、歓喜の視線をレンに向けた。そして。
「お礼に…………ここで死んでください」
「「「ッ!?」」」
解ける変化の術。
なんと人質だった少女も、正体は鬼。
まさかの展開に誰もが驚きふためく中、現れた女鬼は豪快に振り上げた剛腕でレンを狙う。
「レンさんっ!」
近接での強襲という事態に、まもりが慌てて【かばう】を発動しようとするが――。
「……残念だったわね」
レンは、まるで慌てていなかった。
「だまし討ちは失敗よ! 【魔力剣】!」
振り上げた魔力の剣がダメージを奪い、女鬼を斬り飛ばす。
「だまし討ちをするのでも、私だけは狙っちゃいけなかったわね。変身する鬼がいるのも、それが女鬼なのも、酒呑童子の部下なのも――――こっちは四年前に履修済みよ!」
そう言って、杖で女鬼を差す。
「その正体は茨木童子。さあこれで有利不利はなしよ、正々堂々戦いましょうか!」
すると茨木童子は、悔しそうに息をついた。
「すごーいっ!」
「レンさん、お見事です!」
「お、おどろきましたっ!」
完璧な仕込みを『黒歴史に得た情報』から予想して防いだレンに、思わず皆驚きの声を上げる。
「なんと! ぬし、やるではないかっ!」
「助かりましたな!」
これにはたまちゃんと葛葉も歓声をあげる。
この罠の一撃、まともに喰らえば甚大なダメージを受け、パーティが大きな危機に見舞われるもの。
知識による見事な攻略で、不利だった戦況はついに五分となった。
「チッ、そんならしかたねえなぁ……!」
HPを3割ほど減らした茨木童子は、戦闘態勢に入る。
美男の鬼を思わせる酒呑童子に対して、こちらは美しくも筋骨隆々の悪鬼の様相だ。
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