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925.変化の回廊

 捨てられた武器が怪異と化した、付喪神たち。

 その襲撃を打ち払って、メイたちは冥界から来たる者たちのもとへ向かう。

 碁盤の目を思わせる町並み。

 石畳の上を駆け、石の鳥居の続く道を進む。

 等間隔に釣られた提灯が醸し出す不思議な雰囲気には、自然と気分が高まる。


「なんだか……似た風景が続きますね」


 そんな中、不意にツバメがつぶやいた。


「そうね。京はもともとそういう造りだし、マップ的にも端の方だからコピーしたような町並みになりそうだけど……」

「さ、さすがに続き過ぎな気がします……」


 感じる違和感に、思わず一度足を止める。


「こういうのは定番だけど、印を残して進むのが基本ね」

「りょうかいですっ! 大きくなーれっ!」


 メイは花の種を石鳥居の横に落として、【密林の巫女】を使用。

 すぐさま全員で走り出す。


「あっ」


 すると数十秒ほど経った後、予想通り先ほど咲かせた花の場所に戻ってきた。


「どうやら、閉じ込められたようじゃのう」


 再び見えた石の鳥居には、一輪の花。

 たまちゃんが、辺りを見回しながら言う。


「……無限回廊か。やっかいな術にかかってしまったの」

「このタイプの術は、仕掛けを見つけられるまで抜けられないのですなぁ」


 息をつく、葛葉とたまちゃん。


「しかも複数の方陣が展開しておるようじゃ。三つ、いや四つか。異変を見つけて脱出しなくてはならぬ。ここで時間を取られてしまえば、その間は怪異を放置することになってしまう」


 石の鳥居が続く縦の道、そして抜けるための左右の道。

 十字の道が続くこの場所はもちろん、左右に抜けてもこの場所に戻ってきてしまう。


「かかった時間で、町の被害が変わったりするのかしら」

「いつまでたっても見つけられなかった場合、最終的には京の町がゾンビ映画のように怪異まみれになる可能性も」

「そ、それは怖いです……っ」

「ふむ。無限回廊は『同じ空間』を繰り返して進み、ゴール地点まで行ければ抜けられるようになっておる。ただし『繰り返し』ごとに『おかしな点』がある。それを見つけて働きかければ次の空間に進み、見逃せばスタート地点に戻ってしまう形じゃな」

「やっかいなのは、『おかしな点』がない場合はそのまま進まなければならないことですな。この場合は下手に何かを動かしてしまうと、スタート地点に逆戻りですぞ」

「おかしな点がない場合もあるっていうのがやっかいね。必ずあるわけじゃないのなら、見つからずに時間を喰われる可能性もあるわ」

「かといって判断を早くすれば、見逃してしまう恐れがあるわけですね」


 制限時間を過ぎるごとにペナルティを背負わせることで、判断を焦らせる。

 厳しいシステムに、思わず息を飲むまもり。


「とにかく進むのじゃ! スタート地点の状況を各自よく見て覚え、次の『るーぷ』空間から注意深く進むのじゃぞ!」

「は、はひっ」


 時間制限があるため、生まれ出す緊張感。

 メイたちは『スタート地点』の光景をしっかり覚えて、最初のループに踏み込んだ。


「見たところ、おかしなところはないけど……」


 レンの言葉に、ツバメとまもりがうなずく。

 もっとあからさまかと思ったが、どうやらそう甘くはないようだ。

 たまちゃんも葛葉も、付近を見回しながら歩を進めている。

 その難易度の高さに、「ここには異変がない」のではと思い出してきたところで――。


「あの提灯、字が違ってるよ!」


 メイの言葉に、皆視線を向ける。


「本当だわ……!」


 提灯には、前面と背面に文字が書かれている。

 前面には『御神燈』、背面には旧字体で『御神燈』

 メイの向かった提灯はどうやら、『前面背面』が逆になっていたようだ。

 さっそく、右側7番目の提灯の前面背面を回して直す。

 そして次の空間へ。

 メイが咲かせた花は、そこにない。


「進んでるわね。ここは二つ目のループ空間になるわ」


 すぐさま確認に入る四人。

 しかし今回はメイですら、変化を見つけることができない。


「ここは『ない』パターンでしょうか」

「わ、わたしもおかしな点はないように思います……っ」


 鳥居、提灯、8番目の鳥居の下で眠る猫。

 やはりおかしな点はない。


「ここはそのまま直進でいきましょうか」


 そうしてレンたちが次の空間へ進もうとしたところで、メイは念のため背後を振り返った。


「レンちゃん!」


 思わず叫んで、最後の石鳥居を指差す。

 見れば、鳥居の中心部分に付けられた額縁のようなものに書かれた文字が、それだけ背面側にもある。

 レンはしゃがんでメイを肩車。

 額の背面に書かれた文字を、手で払って消した。


「見逃しちゃうところだったよーっ!」


 安堵の息をついたメイは、苦笑いしながら次の空間へ進む。


「ふむ、三つ目の空間についたようじゃな!」

「これは難問でしたね……」

「は、はひっ」

「まさか最後に振り返らないと気づけない場所に、異変があるなんて……」


 問題の難しさと、メイの素晴らしい発見力に驚くレンたち。

 踏み込んだ三つ目の空間にも、違和感はない。

 今度こそメイも変化に気づかない、完全に問題のない空間だった。


「さすがにここは何もなし。直進の空間じゃないかしら」

「おかしな点は見つかりませんね」

「はひっ、ありません」


 メイもこれにはうなずく。

 この空間は異変なし。

 念のため最後にもう一度振り返ってみるが、やはり何もない。

 メイはあらためて前を向いて――――硬直。


「犬神ちゃん……色が少し違うよ!」


 そう言って犬神を抱きかかえると、ボンと煙が上がって二本尾の猫股が登場。

 悪戯そうな表情を浮かべて、そのまま駆け出していく。

 すると入れ替わるようにして、フラフラと犬神がやって来た。


「こっち側にも、異変の要素があるの!?」


 ここまで二度とも空間自体の変化だったため、意識は皆完全に外に向いていた。

 そんな既成概念を作った上で外す、脅威の問題。

 ここでもメイは、異変を見抜いてみせた。


「いよいよ最後の空間じゃな」


 三つの異変を見事に乗り越えたメイたち。

 最後の空間も、異変なし。


「ない……わよね」


 鳥居、提灯、猫、石畳までしっかり見た上で、仲間たちに視線を向ける。

 レンは見つめると「きゃっ」と恥ずかしそうにしてみせる、たまちゃんをさらに凝視。

 ツバメとまもりは葛葉を眺め、メイは犬神をなでなで。

 やはり、変化なし。


「これ、異変なしと踏んで進むのが一番怖いわね……」

「本当ですね。確証がないというのは不安です」

「は、はひっ」


 何度も付近を確認。

 うなずき合う四人。

 自然と手をつないで、次の空間へ足を伸ばすことにする。


「いきましょうっ!」

「ええ!」

「はい!」

「はひっ」

「「「「せーのっ!」」」」


 一緒に足を伸ばし、次の空間へ。

 すると目の前に広がったのは、鳥居の道の終わりだった。


「無限回廊を抜けたようじゃぞ!」

「やりましたな!」

「やったー!」

「緊張しました……!」

「よ、よかったです!」


 歓喜するたまちゃんと葛葉。

 四人もつないだ手をそのまま万歳して、喜び合う。


「でも、さすがメイね」


 明らかに高難度の、時間稼ぎクエスト。

 レンは数々の異変を脅威の速度で気付いたメイに、思わずつぶやき振り返る。しかし。


「犬神ちゃんの変化に気づくのが遅かった……これだと足元から来てる蛇に気づけないかも……」


 ここがかつてのジャングルなら、変化にはもっと早く気づかないといけない。

 トカゲと戦っている時に、他の魔物が来ていて混戦になるのは最悪の形だからだ。

 メイは気合を入れ直すかのように、パンパンと頬を叩く。


「…………うそでしょ?」


 異変に圧倒的な早さで気づいたメイが、「気をつけなきゃ」とつぶやいたことに、レンはいよいよ唖然とするのだった。

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[良い点] 唐突に始まる『八番出口』 [気になる点] どんだけジャングルバイオームは難易度が高いの? [一言] 運営 部下「主任!メイちゃんがものすごいインテリジェンスを発揮していますが広報誌からカッ…
[一言] 『8番出口』だ! でもアレみたいな変なバグが無くて良かった(笑) 怪異なんだかバグなんだか解らなくてプレイヤーも困惑する事態にならなくて。
[一言] メイちゃんの野生化が進んでいる!?これは異変 ......じゃなくて正常か、進もう
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