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923/1381

923.露天です!

「やるもんだねぇ……」


 女将は集合したメイたちを見て、唖然としていた。


「まさか頼んだ仕事を全部片づけちまうなんて……アンタの紹介してくれた冒険者、大したもんだったよ」

「ふふ、当然じゃな」


 そこにやって来たのは、得意げな顔をした狐娘のたまちゃん。


「せっかく一仕事終えたのじゃ、風呂の一つくらいはもらっても構わんのじゃろう?」

「アンタ以外はね」

「大丈夫じゃ! まだ換毛期ではないと言っておるじゃろう!」

「はいはい、五階の湯は特別だからね。ゆっくりしていきな」


 女将がそう言うと、たまちゃんは嬉しそうに駆け出していく。


「こっちじゃ! そこでちと、話をしよう!」

「それじゃあ行きますか」

「やったー! 楽しみっ!」

「どのようなお風呂に入れるのでしょうか」

「わ、わくわくしますね……っ」


 四人もさっそく、たまちゃんの後を追う。

 そのまま五階にたどり着き、目的の浴室へ。

 両開きの戸を開くと、目につくのは綺麗な石床と、置かれた灯篭が照らす橙の光。

 そしてヒノキの湯船。

 駆けて行ったたまちゃんが、奥の木製格子戸を開くと――。


「おおおおーっ! すごーい!」

「いいじゃない!」

「これは素晴らしいですね」

「はひっ」


 露店モードになった五階『特別浴場』からは、夜の京が見渡せる。

 夜景を眺めながらの入浴は、ここまで完璧にクエストをクリアしたからこその特権だ。

 四人は思わず、その光景に目を奪われる。

 すると装備が外れ、インナー変更が始まる。


「わー! だからこの柄はやめてーっ!」


 メイは身体に巻かれたタオルの柄がトラ模様で、一瞬で原始人のようになってしまった。


「これは、どういうことかしら……?」


 なぜかレンだけはタオルではなく、『手ぬぐい』のような素材。

 その意図に、首を傾げる。


「今回は髪を止めるのに使う物が、かんざしになっているのが特徴ですね」

「わ、私のは緑の宝石です」

「私のは刺客が、悪代官の首に刺す針のようになっています」


 まもりは緑の宝石の金の意匠が施された、洋風のかんざし。

 ツバメは朱色の組みひもがついた、和のかんざし。

 どちらもよく似合っている。


「うわー! よく見たら骨だよこれーっ!」


 一方メイはトラの毛皮に動物の骨かんざしで、完璧な原始人少女に。


「牡丹はいいけど、黒の牡丹はやめなさいよ! それとこの手ぬぐい、狙いは悪の女幹部のお風呂シーンにすることだったのね!」


 黒牡丹のかんざしを着けた瞬間、手ぬぐいは一瞬でサラシに見え始める。

 どうやら今回のレンは、和の女幹部にされてしまったようだ。

 四人は賑やかにしながら、ヒノキ風呂に並んでつかる。


「……和のお風呂はいいわねぇ」

「本当ですねぇ」


 頭の上にタオル、さらにその上にヒヨコちゃんスタイルでくつろぐツバメ。


「……実は先ほど、【スティール】を二度成功させてしまいました」

「「「「ええっ!?」」」


 そのうれしさに、ついそんな話を披露する。


「二度続けてはすごいわね……」


 これにはメイも、こくこくと大きくうなずく。

 するとツバメはちょっと得意げな顔をした後、すぐ我に返った。


「多分次の【スティール】は、耐久になると思います……」

「覚悟が必要だわ……」


 すでに白目状態のツバメに、レンもゴクリと息を飲む。


「……このアイコンは?」


 一方まもりは、視界に『着替え』以外のアイコンが増えていることに気づいた。


「これは……っ!」


 そしてすぐに確認。

 選択すると、湯に木桶が浮き出した。

 そこに入っていたのは、徳利とお猪口のセット。


「み、皆さんもどうぞ……っ」


 さっそく傾けるお猪口。

 よく冷えた果実水は、温まった体に染みる。


「「「「はぁぁぁぁ」」」」


 思わず四人、並んでもらす息。

 見れば桶に張った湯で、いーちゃんもくつろぎ中だ。


「レンちゃん、本当に組織の幹部みたいだねぇ」

「そりゃ黒い牡丹のかんざしに『さらし』みたいな布を巻いて、お猪口で何か飲んでたら組織の幹部『和』バージョンにもなるわよ……」


 そんなレンのため息に、思わず笑う三人。

 前回の広報誌の影響で、実は出来が良いのに思ったより使われていない『温泉』の人気が高まっている。

 今回の夜景を眺めるメイたちの姿も、またヤマトの温泉人気を呼びそうだ。


「ごくらくだねぇ」

「本当ですねぇ」


 いよいよ身体も温まって、身体の力が抜ける。

 メイはそのまま自然と身体を倒し、頭がツバメの肩に乗った。


「ッ!?」


 一瞬で身体を硬直させ、ドキドキのツバメ。

 少しでも動けば、メイが身体を起こしてしまうかもしれない。

 ならば自分がするべきことは、柱になることだ。

 ツバメは石像のように動きを止める。しかし。


「待たせたの!」


 そこに飛び出してきたのはたまちゃん。


「それーっ!」

「うわはーっ!」


 たまちゃんは、ダッシュからそのまま湯船にダイブ。

 大きく飛沫を上げた後、それを浴びたメイと共に並んでブルブルと水を弾く。

 狐娘のたまちゃんと同じ動きをするメイに、思わず笑うレンとまもり。

 そんな中ツバメだけが、メイが離れて残念なような安心したような、不思議な感情を覚える。


「すまぬ。わらわが感じた妖しい気配は、ガシャドクロと……彼女のものだったようじゃ」

「彼女?」


 たまちゃんの言葉に応えるように現れたのは、一人のNPC少女。

 13、14歳くらいだろうか。

 綺麗な黒髪を背中まで伸ばした少女は、落ち着いた歩き姿でやって来る。


「どうやら女将が指定を間違えた様だな。二組が同じ浴室でかち合う形になってしまったようだ」


 幼いながらに凛々しい瞳をした少女は、そう言って笑う。


「すまぬな、我らが後乗りしてしまったようじゃ」

「構わない。賑やかなのは嫌いではないぞ」

「この子は?」


 レンがたずねると、応えようとするたまちゃんの口を少女が塞ぐ。


「ここでは気楽でいたい。アカリとだけ呼んでくれ」

「りょうかいですっ」


 どうやらアカリの予約していた浴室を、女将のミスで使ってしまっていたらしいメイたち。

 少女の許可を得て、あらためて六人で湯につかる。


「という感じでの、どうやら嵐山郷温泉が異変の元凶というわけではないようじゃ」

「そうだったのですね」

「じゃが、京の町で起きた異変は確かじゃ。そこでぬしたちにはこのまま探索を手伝ってもらいたい。すでに仲間の陰陽師には話をつけてあるぞ!」

「もちろんですっ」

「うむ、ではさっそくゆくぞ!」

「「「「…………」」」」

「どうしたのじゃ?」

「もうしばらく、つかってからでもいいかしら」

「うん、もうちょっと入ってたいかも……」

「このまま溶けてしまいそうです」

「そうですねぇ……クセになってしまいそうです……」

「ふふ、やはりこういう楽しい入浴も良いな」


 そんなメイたちの会話に、楽しそうに笑うアカリ。


 入りたいだけ入っていられる、五階の特別浴場。

 その眺めは絶品だ。

 そしてまもりの持ってきた果実水を、飲みつつくつろぐ時間。

 気持ち良すぎて、抜け出せない。

 プカプカ浮かぶヒヨコちゃん。

 いよいよツバメの力が抜けて、ぶくぶくし始める。

 こうして今回もしっかり全員、状態異常『のぼせ』になるまで湯につかり続けたのだった。


「そ、それではゆくぞ……っ」


 温泉を上がった四人。

 気づけばたまちゃんも、しっかり『のぼせ』状態だ。さらに。


「こ、これは……っ」


 凛々しい目をしたアカリまで『のぼせ』状態。

 肩をぶつけながら歩くたまちゃんと少女の姿に、四人は笑うのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回の広報誌の見出しはこの風呂で確定
[良い点] 虎柄インナーとかある意味貴重なw だっちゃ!の子か昔話の鬼ぐらいしか記憶にない あと骨はみたこともないw [気になる点] 次なる敵「くくく、俺様に勝とうなんて・・・なっ、あれはまさか伝説の…
[一言] 論理クイズですがもう一息ですね。 基本的に騎士は二人で、残りは王女であっていますよ。 模範解法の一部を出しますね。 解説 「私の両隣はどちらも王女です」と言った2人の幼女を「A1」「A2…
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