92.地元へ帰りましょう
クラーケンを倒したメイたちは、クジラの背に乗って無人島を出た。
そして通りがかりの船に、お姉さんNPCを送り届ける。
「ありがとう。君たちのおかげであの島から抜け出すことができたよ」
「これで文明社会に帰れますね! 野生化する前で良かった……本当に良かった……っ」
本気で喜ぶメイに、NPCの方がちょっと困惑する。
「それじゃ私は失礼するよ。これはお礼だ、受け取ってちょうだい」
そう言ってお姉さんNPCは、スキルブックを渡して去って行く。
メイはぶんぶんと、大きく手を振る。
「三年間……お勤めご苦労様でした……っ」
お姉さんNPCの姿が見えなくなるまで、何度でも。
「それにしてもメイ、今回は凄まじい勢いだったわね。最後はクラーケンが可哀想になってきたわ」
武器破壊の可能性もある【トカゲの尻尾切り】で敵の最終奥義を回避。
続いて召喚からの召喚、さらに攻撃魔法を続けた上で【ソードバッシュ】まで。
その怒涛の攻勢に、レンですら驚いてしまっていた。
「野生の魔の手から、みんなを守りたくて精一杯だったんだよー」
「てへへ」と笑うメイ。
「でもこれで本当に、サン・ルルタンはクリアねぇ」
「ああー、海の冒険……楽しかったなぁ」
「またみんなで遊びたいです」
「それがいいよ! 他にも海のマップはあるんだよね?」
「もちろんあるわよ。目撃はされてるけど見つかってないことでお馴染みの、幽霊船なんかを探すのも面白そうよね」
「幽霊船……ドキドキしちゃうなぁ」
「カジノの街もあります」
「それも楽しそうっ!」
早くも、新たな冒険に思いをはせるメイ。
「次はどんな冒険になるのかなぁ」
「いつだって、どこにだって行けるわよ。それが『星屑』の魅力だもの」
「うんっ」
「それに、たとえどこであってもメイさんやレンさんが一緒であれば楽しいんだと思います」
ツバメはそう言って、水平線に視線を向ける。
「太陽まぶしい海で、めったに着ることのなかった水着を着て。私は……とても楽しかったです」
「ツバメちゃーん!」
ツバメの背に抱き着いて、うれしそうに笑うメイ。
恥ずかしそうにしながらも、ツバメもほほえみ返す。
「レンちゃんとツバメちゃんがいてくれれば、本当はそれだけで十分なんだね。ジャングルだって楽しかったんだから」
そう言ってメイはまた、ツバメの背を抱きしめる腕にギュッと力を入れる。
どこまでも広がる海。
ほほ笑み合う二人を、照らす夕日がまぶしい。
「しまった! 浄化の……ひ、光が……っ!」
そして最後の最後で油断したレンは、うっかり浄化されてしまうのだった。
◆
「今夜のご飯はなーにかなっ」
南国の群島サン・ルルタン。
仲間と海の冒険を終えたさつきは、鼻歌を口ずさみながらテンポよく階段を降りていく。
そしてリビングへたどり着いたところで、母やよいと出くわした。
「あら、なんだかご機嫌ねぇ」
「ふふふ、まあね。それより何か気づかない?」
そう言って、くるくると回って見せるさつき。
「何か……?」
てっきり今夜の夕食問答が始まると思っていたところを逆に質問されて、やよいはじっとさつきを見る。
しかし、どこも変わっているようには見えない。
「何かしら……」
とはいえ、年頃の女子がうれしそうに問いかけてくる話といえばあれしかない。
やよいは自信をもって回答を口にする。
「少しやせた?」
「残念、ちがいますっ」
「それなら何?」
やよいは、いつもさつきがやっているのと同じ角度で首を傾げる。
するとさつきは、うれしそうに顔を近づけてきた。
「見て見て、なんと今年は……ヘッドギア焼けをしていませんっ!」
「……そもそも海に行ってないんだから、日焼けなんてしないと思うけど……」
なぜだかすごく得意げなさつきに、ただただ困惑するやよいだった。
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