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919.お仕事開始です!

「あんた達には、別々に仕事についてもらうよ」


 女将はそう言って、三階に向かう。


「わあ!」


 ふすまを開くと、そこにあったのは宴会場。

 畳の上には、ズラリと並んだ黒塗りに金意匠の座卓。


「ここでは注文を受けた料理を、隣の部屋から運んでもらうよ。とにかくしっかり誰が何を頼んだかを覚えて、配膳を続けるんだ」


 そう言って女将は振り返る。


「ここは他にも手伝いがいるからね、一人いてくれれば十分だ。誰にするんだい?」

「動きの速さでいえば、メイかツバメなんだろうけど……」

「覚えて配膳と言っていましたね……」


 そう言いながら、担当決めを開始する四人。

 見ればまもりは「温泉の食事ですかぁ」と、ほんわりとした笑みを浮かべている。


「あんまりつまみ食いするんじゃないよ」


 しかしそんな女将の言葉に、突然目を輝かせた。


「あんまり……?」

「仕事さえすれば、多少は好きにしたらいいさ」

「は、はひっ! がんばりますっ!」

「……それじゃあ、ここはまもりに任せましょうか」


 俄然やる気を見せ出したまもりに、笑いながら任せるレン。


「それじゃあ、ここはアンタに任せるよ。準備ができたら向こうのふすまを開きな。そこに料理の『受け渡し役』がいるから、注文を伝えて、受け取った料理を配膳していくんだ」

「まもりちゃん、がんばってね!」

「はひっ!」


 そう言い残して、女将はメイたちを連れて先へ行く。


「「「宴会だーっ!」」」


 すると頭に葉っぱを乗せた団体客が、次々に宴会場へ入ってきた。

 まもりが奥のふすまを開けると、そこには受け渡しNPCたちと、並んだ料理の数々。


「おーい! こっち注文頼む!」

「こっちもだ!」

「ここも頼む!」

「は、はひっ!」


 さっそく早足で動き出す配膳NPCたち。

 後を追うようにして、まもりも走り出す。


「おーい! こっち『だし巻き卵』頼む!」

「はひっ!」

「こっちは『西京焼き』だ!」

「はひっ!」

「こっちは『ポテトサラダ』と『高野豆腐』あと……『カレイの煮つけ』を頼む!」

「は、はひぃぃっ!」


 怒涛の注文に、まもりは大急ぎで受け渡し役のもとへ。


「あ、ちょっといい? こっちに『茶碗蒸し』よろしくね」

「……は、はひっ」


 引き留めからの追加注文。

 まもりは瞬きを繰り返しながら、受け渡しNPCのもとへ。


「次の注文はなんだい!?」


 受けた注文をここで伝え、それを持っていくというのが、このクエストのシステムだ。


「え、ええと……『だし巻き卵』と『西京焼き』、『ポテトサラダ』と『高野豆腐』『カレイの煮つけ』あと『茶碗蒸し』お願いしますっ!」


 まもり、慌てているがノーミス。

 見事に最初の注文をクリアして、つまみ食いを我慢しながら客のもとへ。

 集まった客たちは盛り上がり、注文は加速する。


「ああ『カニ殻グラタン』と『えび天』を頼む」

「こっちは『お吸い物』と『冷奴』、あと『レンコンの天ぷら』ね」

「『揚げ豆腐』を3つと『刺身』、あと『焼き鳥』を2つよろしく」

「は、はひっ!」


 注文が複数になり、覚えることが一回り難しくなった。さらに。


「あ、やっぱ『冷奴』なしで代わりに『卵豆腐』を頼むわ」

「じゃあこっちも2つだったのを、3つで頼むー!」

「は、は、はひっ!」


 ここでまさかの、注文の取消しと追加が入る。さらに。


「あ、『えび天』を『エビフライ』に変えて、あっちの席に持っていってやってくれる?」

「ひええっ!? ほほほ他の席のパターンもあるんですかっ!?」


 いよいよ頭ピヨピヨ状態のまもりは、足をフラつかせながら受け渡しNPCのいる部屋に向かう。

 しかしそこには、並んで待つ配膳NPCの姿。


「うええええええ――っ!?」


 面倒なメニューに、さらに時間を稼がれるという恐ろしい展開。


「はい次、何がいくつ必要なんだい!?」


 ようやく回ってきた順番。

 間違えて持っていけば『満足度ゲージ』が下がってしまう。

 急なメニュー変更と時間稼ぎを受けたまもりは、慌てながらも応える。


「カ、カ、『カニ殻グラタン』『お吸い物』『レンコンの天ぷら』『揚げ豆腐』3つ『刺身』『焼き鳥』3つ『卵豆腐』『エビフライ』お願いしますっ!」

「あんた、できるね!」


 なんと今回も、全問正解。

 これだけ焦っていても、注文されるたびに脳裏に料理が浮かんでくるほどの、食べ物への執着がミスを許さない。

 ……しかし。

 ここまで完璧だったことが、クエストの難度を上げてしまう。


「おーい! 次は『高野豆腐』『鮎の塩焼き』『イカ刺』を頼む!」

「はひっ!」

「こっちは『レバ刺し』と『卵豆腐』と『エビ天』だ!」

「はひっ!」

「あー、僕は『茶碗蒸し』『カニ殻グラタン』『西京焼き』を2つずつね」

「はひっ!」

「あ、さっきの『高野豆腐』なしで、やっぱり『椎茸の天ぷら』ちょうだい」

「ははははひぃっ!」


 マシンガンのような注文からのオーダー変更。

 それでもまもりは、気合で覚えて踵を返す。すると。


「うわっと」

「きゃあっ」


 もう頭の葉っぱが落ちてタヌキ姿を晒している客が、酔って体当たり。

 思わず転がるまもり。


「おっと、すまないね……あ、『とうもろこしのかき揚げ』を頼むよ」

「……は、はひっ」


 ぶつかり倒した上に、さらにオーダーを追加。

 地獄の記憶失わせ攻撃を喰らったまもりは、受け渡しNPCのもとへ。


「あー、君ちょっといいかな?」


 その途中で、新たな酔っ払いタヌキに捕まった。


「これちょっと苦手でさぁ……代わりに食べてもらえないかな」

「…………っ!?」


 まもり、まさかの展開に硬直。


「どうしたんだい? アタシの『ポテトサラダ』が食べられないとか言わないよねぇ」

「い……いいんですかっ!? ありがとうございますっ!」


 目を輝かせたまもり、頼まれた『ポテトサラダ』を食べ尽くした上に、別に頼まれていない『だし巻き卵』までうっかり頬張り立ち上がる。


「おいひいですっ!」

「あーさっきの『甘辛角煮』、『カボチャのてんぷら』に変えて」


 そこにぶち込まれる、まさかの『別のNPCが受けた』オーダーの変更。


「は、はひっ! お行儀悪くてごめんなさい……っ!」


 そして食べつつ走る形で、今度こそ受け渡し係のもとへ。


「料理は?」

「とっても美味しかったです!」

「味の話じゃないよ。料理の注文は? まさか忘れたんじゃないだろうね?」

「は、はひ……」


 鋭い目で詰めてくる受け渡し係に、気押される。

 当然『苦手だから食べて』も、クエストの罠だ。

 恐ろしい仕掛けの数々を前に、まもりは目を閉じて集中。


「『高野豆腐』『鮎の塩焼き』『イカ刺』『レバ刺し』『卵豆腐』『エビ天』、『茶碗蒸し』『カニ殻グラタン』『西京焼き』は2つずつ、『椎茸の天ぷら』『とうもろこしのかき揚げ』『カボチャのてんぷら』を、お願いしますっ!」


 しかし、奇跡の完全オーダー。


「……あのお客さん、脂っこいものからさっぱり系に変更しました。おそらく薄味のものから段々濃いものを食べていくことにしたんですね……!」


 このクエストは多少間違えても良いのだが、食べ物の選び方や流れで「食通に違いない!」みたいなことまで想像した結果、驚異のノーミス。


「あんた臨時で入ったんだろ? 大したもんだねぇ。おかげでこの宴会、ずいぶん楽になったよ」


 レンがいたら「どういう記憶力してるのよ……」と、驚きそうな食べ物系記録力を見せたまもり。


「宴もたけなわではございますが、今回のぽんぽこ大宴会。ここまでとさせていただきます」


 すると宴会部長タヌキがやってきて、始まる締めのあいさつ。


「最後はいつも通り、一本締めで。それではお腹を拝借。よおーっ!」


 ぽん! と気持ち良い腹鼓で、宴会は終了となった。


「お疲れ様。ずいぶんつまみ食いしてたみたいだけど……残った料理、食べていくかい?」

「はひっ!」


 クエストは見事達成。

 かけられた魅力的な提案に、まもりはその目をキラキラと輝かせる。


「ほら、好きな物を頼みな」

「はひっ!」


 そして注文を受けてくれた受け渡し係に、笑顔のまま応える。


「『だし巻き卵』『ポテトサラダ』『カレイの煮つけ』『お吸い物』『レンコンの天ぷら』『揚げ豆腐』『刺身』『焼き鳥』『卵豆腐』『エビフライ』『高野豆腐』『鮎の塩焼き』『イカ刺』『レバ刺し』『卵豆腐』『エビ天』『茶碗蒸し』『カニ殻グラタン』『西京焼き』『椎茸の天ぷら』『とうもろこしのかき揚げ』『カボチャのてんぷら』で、お願いしますっ!」

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[一言] 絶対守護の食狂少女まもり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ オマケで絶対厨ニ詠唱の魔道少女聖城レン・…
[良い点] まぁまもりちゃんなら料理を覚えるのは大丈夫だろうな! ・・・大丈夫とかいうレベルじゃなかったw [気になる点] つまみ食い全種、入りましたー!(おなかの中に) [一言] 興味のある事に対す…
[一言] 次はレベルをあげてサブウェイみたいにカスタム系の店の給仕に挑戦だ。
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