917.オーバーテイクです!
「それではごきげんよう、雑魚の皆さん」
細剣の麗人によるフラッシュ攻撃で、大きくバランスを崩した人力車。
巻き込まれたツバメとまもりは、転倒して3割のダメージ。
トップ5まで上げた順位を、大きく落とすことになってしまった。
「今回はメイちゃんたちでも、巻き返しは難しいぞ……!」
聞こえてくる沿道からの声。
「すみません。あと、お願いします……!」
「おまかせくださいっ! 【バンビステップ】!」
レンを乗せ、40台中32位という位置から高速移動スキルで走り出すメイ。
「こうなった以上、容赦はしないわ!」
レンも気合を入れ直す。
「【誘導弾】【フレアストライク】! 【フリーズストライク】!」
誘導をかけることで、前方のライバルたちに次々上級魔法を直撃させる。
これによってメイは一直線で進むことが可能となり、二人は幸先よく順位を上げていく。
「ッ!! レンちゃん!」
メイの耳が、左右を挟む様にして迫ってきた人力車たちに気づく。
その距離をドンドン詰めてくるのは、どちらも武闘家だ。
「いくぞ!」
「おうっ!」
「「【ショルダープレス】!」」
そして左右から一気に、挟む形での攻撃に入った。
「そうはさせないわ! 【悪魔の腕】!」
しかし、レンの魔法が間に合う。
「ぐあああああっ!!」
左側の武闘家を叩き潰して攻撃を回避し、そのまま三つ目のコーナーへ。
「ははははは! かかったな! その速度じゃ、ここを曲がり切るのは不可能だ!」
残った右側の武闘家は笑いながら、見事なドリフトで切り抜けていく。
つられる形で高速のコーナーへ飛び込んだメイ。
こちらはなんと【腕力】で、人力車を強引に振り回す。
「ええええええいっ!」
「なにっ!? うおおおおおお――っ!?」
砂煙を上がながらコーナーを曲がり、その勢いで右側の武闘家を隣接する川に弾き飛ばした。
「あははははっ! とんでもない力技ね!」
舞い上がる飛沫に思わず笑い合った二人は、そのまま直線区間を突き進む。
「来たぞ、メイちゃんだ! 追え追えー!」
するとメイたちに追い抜かれた人力車たちは小競り合いをやめ、狙いを変更。
客席の弓術師や魔導士が、後方から攻撃体勢に入る。
人力車は、後方からの攻撃が最大の弱点だ。
「いくぞ! 【サンダークラップ】!」
メイたちに狙いを定めた魔導士が、先行して雷撃魔法を放つその瞬間。
「うわああああああ――っ!?」
乗った人力車が、炎と共に突然高々と舞い上がった。
見ればレンは前方の人力車を攻撃しつつも、同時に杖を石畳につくことで【設置魔法】を残していた。
「ぎゃああああああ――っ!!」
さらに弓術師の乗った人力車が、二個目の陣を踏んで氷嵐に弾き飛ばされる。
「……今だ」
しかし設置魔法の陣がなくなったのを見て、盗賊の引く人力車がこっそりとメイたちの真後ろにつけた。
「【ラピッドステップ】」
そしてそのままスキルを発動。
風の加護を受けた車夫が猛スピードで追従し、客席の弓術師が矢をつがえる。
「メイ、お願い」
するとレンはそう言って、『それ』を後方へ放り投げた。
メイはすぐさま、スキルを発動する。
「大きくなーれ!」
「……な!? う、うわああああああああ――――っ!?」
【密林の巫女】が【豊樹の種】を目覚めさせる。
一気に伸びた木々が自然の網を生み出し、後方から攻撃を仕掛けた人力車を絡め捕った。
ダメージこそないが、完全停止で勝負からは脱落だ。
「し、使徒長ちゃん……鬼だ」
「あの二人の連携、ヤバすぎだろ!」
怒涛の追い上げに、驚愕する観戦者たち。
勢いに乗るメイたちは、早くも15位前後の中堅集団に入り込んだ。
「ここからは入り乱れてるわね」
「駆け抜けますっ! 【装備変更】!」
メイは頭を【鹿角】に替え、ライバルたちの隙間を縫うようにして駆け上がっていく。
「すげえ、さすがメイちゃんたちだ……」
「こうなったら俺たちでやるんだ! チームでぶつければ、さすがにいけるだろ!」
「行くぞ! メイちゃんは『こんなのやり過ぎだろ!』でも足りないくらいだ! 容赦はいらない!」
「「「「おうっ!!」」」」
四台の人力車が自然と集まり、メイたちを取り囲む。
「囲まれた!?」
「わあ! 本当だあっ!」
「くくく、マシンを粉々にぶっ壊してやるぜぇぇぇぇ!」
「俺たちの前に現れたことを、後悔するんだなぁ!」
「いくぞ!」
「おう!」
「「「「【体当たり】だああああーっ!」」」」
四台の人力車による完全包囲。
それは前後左右、回避方向を全て埋め尽くした反則級の連携攻撃。
避けることは物理的に不可能だ。しかし。
「……ゴ……【ゴリラアーム】」
ここでメイは、【腕力】をフル回転。
「いきますっ! 【ラビットジャンプ】だああああーっ!」
人力車を引きながら、大きく跳躍した。
「と、飛んだぁぁぁぁぁぁ――っ!?」
「【装備変更】からの【アクロバット】ォォォォォォ――――っ!!」
さらにここで回転まで追加。
「こ、これがメイちゃんトルネードか!」
「「「いっけええええええ――――!」」」
ミニ四駆漫画のような空中回転に、沿道から気合の入った掛け声が上がる。
「お礼はこれくらいでいい? 【ブリザード】!」
「う、うお……っ」
「「「「うおおおおおお――――っ!?」」」」
四台は同時に攻撃を仕掛けたため、互いにぶつかり合ってバランスを崩した。
そこへすかさずレンが氷嵐を起こし、巻き込まれた4台はそのまま民家に突撃して姿を消した。
「「「すっげええええええ――――っ!!」」」
恐ろしい連携で駆けるメイとレンに、いよいよ熱くなり始める観客たち。
最後のコーナーを曲がったところで、メイはさらに速度を上げる。
「一気に行きます! 【裸足の女神】!」
「メイちゃんの、オーバーテイクショーだ!」
メイたちは直線を駆け抜けトップ集団に並び、そのままトップ3に躍り出る。
「へえ、まさか君たちがまた上がってくるとはね……だが所詮、雑魚は雑魚」
そう言って笑うのは、ツバメを下位に落とした細剣の麗人。
「僕は召喚士。そして複数型なんだよ――――サモン!」
「ワイバーンを、同時に4体!?」
「残念だね、君たちにはここで消えてもらうよ! このレースではボク以外、みんな雑魚なんだってことを思い知るがいい!」
メイたちの進む先に現れた魔法陣から、飛び出したのは四体の中型飛竜。
複数型の召喚としては、これ以上ない強力な布陣だ。
「これはさすがに厳しいか!?」
「四体同時に相手にするのは無理だろ……!」
「一発直撃をもらったら、即失格もあるぞ!」
魔法攻撃でも四体同時打倒は厳しく、メイも両手が塞がっている。
沿道の見学者たちも、メイの状況に諦観の息をつく。しかし。
「メイ、荷車はオブジェクトよ。それにまだ……耐久ゲージは残ってる」
「っ! りょうかいですっ!」
その言葉にメイは目を輝かせ、レンはしっかりと人力車にしがみつく。
「いきますっ!」
一斉に飛び掛かってくる、四体のワイバーン。
しっかりと引き付けたところで、メイは人力車の取っ手を強く握った。
「せーのっ! 【大旋風】だああああああ――――っ!」
一回転、先頭のワイバーンが弾け飛ぶ。
二回転、続くワイバーンが叩かれ床石にバウンドする。
三回転、残る二体のワイバーンが弾かれ民家の壁にめり込んだ。
「な、にいいいい――――っ!?」
驚愕する細剣の麗人。
だがメイは、ここでさらにもう一回転。
「それええええええええ――――っ!!」
最後の回転撃によって、麗人の人力車が消し飛び転がる。
そのまま壁に激突した麗人コンビ、乗客NPCが席から転がり落ちた。
「そんな……この僕が敗れるなんて……」
「うおおおおおお――っ! 王者が倒れたぞォォォォ!!」
「やっぱメイちゃんはこれよ! 圧倒的不利をひっくり返すのが醍醐味なんだよなぁ!」
こうなればもはや敵はなし。
細剣の麗人の妨害を振り払ったメイたちは、そのまま1位でゴールを駆け抜けた。
「やったー! レンちゃんないすーっ!」
「しがみつくのがやっとだったわ! でも上手くいって良かったわね!」
「お見事でした!」
「と、とても爽快でしたっ」
ツバメとまもりも駆けてきて、生まれる歓喜の輪。
四人はハイタッチで、勝利を喜ぶのだった。
◆
「やっぱメイちゃんたちがいると、派手になって楽しいなぁ」
「囲み攻撃を、メイちゃんトルネードでかわしたのは熱かったな」
「これが生のメイちゃんたちか……熱いぜ!」
表彰台に上がったメイたちに、送られる拍手。
懐かしい雰囲気の装備をした青年も、感嘆の息をつく。
「こういう表彰型のクエストは久しぶりね」
「楽しかったー!」
「さすがメイさんレンさんコンビ。素晴らしい逆転劇でした」
「み、見ていてドキドキしましたっ」
激しいデッドヒートを見せた人力車レースに、会場の熱気が冷めやらぬ中、一人のプレイヤーが背後から近づいてくる。
それは、細剣の麗人だった。
盛り上がる観客や参加者たちの中を真っすぐ突き進み、メイたちのもとへ。そして。
「お疲れっした! いやー、熱いバトルでしたね! あの追い上げは間違いなく記録に残りますよ! メイちゃんたちと一緒で楽しかった……! また遊びましょう!」
「……さっきの細剣の麗人さんですね」
「彼もこのレースを、麗人キャラで盛り上げていたのね」
手を振りながら去っていく麗人。
終わったら爽やかに帰って行く姿に、四人は思わず笑ってしまうのだった。
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