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913.たまちゃん

「本当に綺麗だねーっ」

「はい、これは見事です」


 たどり着いたヤマトは、『京』の町。

 ここは夜が映えるように設計されており、提灯と灯篭によるライトアップは明るく感じるほど。

 満開の桜と朱色の橋、石畳に並ぶ木造の建物には独特な格子戸。

 京都の八坂神社から清水寺付近の町の作りを、参考にした感じだろうか。

 その雰囲気の良さのためか、たくさんのプレイヤーが歩いている。


「……なるほどです」

「どうしたの?」


 大通りを歩いていると、不意にまもりがつぶやいた。


「や、やはりヤマト。抹茶を使ったスイーツ系メニューが豊富のようです」


 見れば並ぶ店には飲食の店も多く、各所に抹茶スイーツの看板が見られる。


「確かに多いですね。どれも美味しそうです」

「せっかくだし、何か食べてみる?」

「そ、そういうことでしたら、この通りの裏に隠しのお店があるようなので、そちらに行ってみましょう!」

「さすがヤマトねぇ……隠れ家的なお店があるなんて」

「こういうのは少し、ワクワクしてしまいますね」


 いつの間に調べていたのか、目を輝かせるまもりと共に京の裏通りへ。

 そこは一見、意味のない建物が並ぶだけの通路にしか見えない。

 しかしその一角に、看板のない店が確かにあった。

 席もなく、ただ店主が出窓から商品を出してくれるという形らしい。


「私はきな粉と抹茶のお団子をお願いします」

「それなら抹茶アイスにしようかしら」

「ぜんざいパフェをお願いしますっ」

「では私は皆さんが選んだものと、それ以外を全部――――20個ずつ下さい」

「業者なの?」


 さすがに言わずにはいられなかったレン、苦笑い。

 どうやらいつでもどこでも出てくるまもりの飲食系アイテムは、仕入れがかなり強力なようだ。


「濃厚でおいしいわね」


 さっそくレンが団子を食べて、感想を述べた。


「抹茶のお団子も濃い口ですね。甘味が強くないので純粋に風味を楽しめます」

「パフェも美味しいよーっ」


 全員オーダーが別々なのはもう、いつものこと。


「はいっ、ツバメちゃん」


 メイが始める「あーん」で、各自が頼んだものを食べてみる流れが始まるからだ。


「あ、あああ、ありがとうございますっ」


 ツバメは思い切ってメイの出したスプーンを口に入れるが、相変わらず顔が熱いし、緊張で味が分からない。


「本当、ぜんざいパフェもいいわね」


 一方レンは妹がいるためか、こういう形にも耐性があるが――。


「あっ、レンちゃん」


 そう言ってメイが、レンの手をぎゅっと引く。

 すると何やら慌てたパーティが角から飛び出してきて、そのまま駆けていった。

 メイが手を引かなければ、ぶつかってしまっていただろう。


「あ、ありがと」

「いえいえー」


「あーん」は平気。

 でもちょっと強引に手を引かれたりすると、そわそわしてしまうレンなのだった。


「あぶなきゃったでふね」

「そんなに口に詰め込んで、味分かるの?」

「あはははは」


 そんな中、夢中で食べるまもり。

 メイたちはその幸せそうな表情を見ながら、大通りを抜ける。

 そしてたどり着いた広場。

 提灯の道に導かれるように進んで行くと、そこには巨大な枝垂れ桜があった。


「すごーい……」

「綺麗ねぇ」

「これはヤマトならではの光景ですね……」

「す、すごいですっ」


 月明かりと灯篭によって照らされた桜が作る幻想的な雰囲気に、思わず四人息を飲む。


「あれ……誰かいるよ」


 枝垂れ桜の根元には、何者かの姿。

 黄色にオレンジの和服と、ブラウンのショートカットからつながる長い耳。

 そして大きな尻尾。

 この雰囲気は明らかに、何かが始まる気配だ。


「キツネ……?」


 満開の枝垂れ桜の下。

 思わず口にすると、和服の少女がゆっくりと振り返る。


「その通りじゃ。たまちゃんと呼んでくれっ」


 たまちゃんと名乗る狐耳に尻尾の少女は、どうやらNPCのようだ。

 可愛くウィンクを決めると、「ほう?」と目を見開いた。


「その耳と尻尾……九尾を退けたか。大したものじゃのう」


 どうやら九尾に勝利していると見られる特殊セリフらしきものを言いながら、ふむふむとうなずく。


「たまちゃんは何をしてたのー?」


 メイが聞くと、たまちゃんは「うむ!」と自慢げに尻尾を立てた。


「つい先刻、ちょっと京の街で異変があっての。その調査をしているところじゃ」

「街を守る、正義の狐さんといったところでしょうか」

「むふふ、そう思ってくれていいぞ!」

「あ、赤い草履が厚底なのが可愛いです……っ」

「むっふふ、はいからじゃろう?」


 まもりの言葉に、今度は得意げに胸を張る。


「……ぬしら、どうやらかなりの力を持つ冒険者と見える。もしも京の町で異変を見つけた時は、是非ともその力を貸してほしいのじゃ。わらわはこの街に詳しく、独自のねっとわーくによる情報集めも可能じゃからな。ぬしらの力になれることもあるじゃろう」

「なるほど、そういうことならいくらでも」

「よろしくおねがいいたしますっ」

「うむ、それではまたな!」


 たまちゃんがそう言うと、吹き抜ける風が桜の花びらを巻き上げた。

 そして風が落ち着くと、その姿は消えていた。


「わあ……! なんだかワクワクしちゃうよー!」

「こっち側のヤマトも、楽しくなりそうね!」

「はい、さっそく冒険を始めましょう!」

「はひっ!」


 こうして四人は、祭りの夜のような賑やかさを見せる夜の『京』に、繰り出していくのだった。

脱字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大丈夫? 玉藻とか妲己は九尾の狐の名称なんだが… また、騙されない? [一言] もし、召喚に登録されて召喚されたら掲示板組は 獣型ならメイちゃんと会話して 「キェェェェェェアァァァァァ…
[一言] まもりはその飲食物に対する行動力を戦闘時に活かせればなぁ
[良い点] しょ、初見で見抜くだと!?(スイーツ隠れ家を) まもりちゃん、恐ろしい子っ!! まもりちゃんの軍資金は盾と飲食物だけしか使ってなさそう。 [気になる点] たまちゃん! 前回のお狐様とは別…
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