911.結木家
「ちょっと急だけど、そのまま泊まることになったから。前の時と同じ感じ。え? やらないわよ! 人の家でなんて!」
「儀式の話ですね」
「儀式の話だ……っ!」
「とにかくそういうことだから! よろしくね!」
こうして可憐も無事自宅から了承を受け、全員が合宿への参加を決めた。
どうやらまだまだ星城家では、可憐が『他人の家で妖しい儀式を始める可能性がある』と思われているようだ。
「それにしても、とんでもない量になったわね」
可憐は、両手に持った袋を見てそう言った。
「はいっ! 皆さんご一緒ということで。奮発してしまいました!」
幹線駅の大型スーパーは、食料品売り場もお菓子売り場も大きく、結局全員の手がふさがるほどに買い込んだ。
『星屑』広報の仕事後ということもあって、余裕あり。
買い物はなかなか豪快だった。
「まもりさんが新発売のお菓子の成分表示を見ながらニコニコしている姿は、とても微笑ましかったです」
帰り際の電車内で、お菓子の箱を見ながらご機嫌だったまもりを思い出して笑うつばめ。
まもりの鼻歌には、さすがに少し驚いた。
こうして四人は幹線駅で合宿の準備を済ませ、そのまま結木家のある駅まで移動。
商店街を通る際も、何かの匂いに気づいては視線を向けるまもりを見ながら住宅地へ。
「ど、どうぞ……っ!」
たどり着いたのは、白壁に淡い緑色のドアをつけた、少し北欧風の雰囲気がある一軒家。
長方形の四面窓が可愛らしい。
また門は色あせたレンガ積みで、温かな雰囲気だ。
「ただいまぁ……」
まもりがドアを開けると、そこにやってきたのは一頭の真っ白な大型犬。
頭をなでると、その背後にいるさつきたちにも気づいた。
大型犬はやってきたさつきたちを見て、さらにテンションを上げる。
「ウキウキでメイさんのところへ……!」
「やっぱり動物値は、現実の好感度にも浸食しているの……?」
駆けてきた大型犬はさつきの前に座って、「わん」とひと鳴き。
「かわいいーっ!」
さっそく頭をなでるさつきと、尻尾をブンブンさせる大型犬。
「ほら、まもりが帰ってきたよ!」
「まあ! 本当にまもりが、お友達を!」
するとそこへさらに、先に帰ったまもり姉と母が飛び出してきた。
「「おめでとうまもり!」」
「や、やめてーっ」
どこから持ってきたのか紙製のパーティ帽をかぶったまもり姉と母は、盛大にクラッカーを鳴らす。
「クリスマスの時の残りがあってよかったね!」
「本当ね! とにかくおめでたいわ!」
「やんややんや」と盛り上がる二人の姿を見て、まもりはいよいよ顔を赤くする。
「ご、ごめんなさい……騒がしくて」
「なるほど、これは確かに全ての『ポジティブ力』を持っていかれてるわね……」
その盛り上がり様には、可憐もさすがに笑ってしまう。
「これが、ぱーてぃーぴーぽーというやつですか……」
そしてその勢いには、つばめすら呆気に取られていた。
「み、皆さん、どうぞこちらへ」
まもりは、これ以上おかしなテンションの家族を見せられないとばかりに階段を駆け上がる。
綺麗な白壁に、明るい色の木材のフローリング。
この雰囲気は、リビングには暖炉でもあるんじゃないかという感じだ。
そして、たどり着いたまもりの部屋。
「おおーっ!」
さつきが思わず声を上げたのは、明るい色使いの木製家具やデスクの綺麗さに比べて、明らかにおかしい『塔』を見て。
「こ、これは……」
つばめと可憐も、これには思わず目を奪われる。
なんとまもりの部屋には、お菓子箱の塔ができていた。
「右の塔はまだ中身があります。左は空箱です」
「積みゲームとか詰みプラモは聞いたことあるけど、詰みお菓子は初めてだわ……」
「三つ目の塔は何かな……あ! 季節限定商品だ!」
まもりの本気度に驚く三人。
一方で机には広報誌が並び、メイちゃんカフェのノベルティなんかも並んでいる。
「なんだか、まもりらしい感じね」
食べ歩きや料理関係の本の山と、お菓子箱タワーさえなければ、とても雰囲気の良い部屋。
可憐は楽しそうに笑う。
「まもりー!」
三人でお菓子タワーを眺めていると、いよいよパーティーサングラスまでかけた姉が突撃してきた。
「夕食はどうするのー?」
「それは任せるから、は、早く部屋を出て……っ」
そう言ってまもりは、グイグイとグラサン姉の背中を押す。
「今夜は記念すべき『まもりお泊り会』パーティーだからね!」
「は、早く出てっ」
「好きな物、なんでも頼んで良いって!」
「お姉ちゃん、その話詳しく聞かせて」
「えっ? あ、ちょっ」
今夜は出前の類も頼める。
そう聞いた瞬間、目をギラリと輝かせたまもり。
姉の腕をつかむと、そのまま引きずるようにして部屋を出ていった。
「『鍵』の青年の話、ちょっと思いついたことがあるんだけど……夕食の話がまとまってからにしましょうか」
「りょうかいですっ!」
「それが良さそうですね」
三人は一転目を輝かせたまもりと、勢いのまま連れて行かれた姉を思い出して笑うのだった。
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