908.報酬確認です!
「皆さんがこの伝言を聞いているということは、私はまた迷子になっているのでしょう」
「このタイプのメッセージで2度目って、聞いたことないんだけど」
「クエストで共に戦ったのは、最高の体験でした! またお会いしたいです! ……とのことです」
海の王を打倒した後、祝勝会の最中に残されたメッセージ。
それこそ幽霊のように消えてしまう迷子ちゃんには、メイすら感嘆する。
「またいつか、突然現れたりするのかもしれませんね」
「ちょっとフラグを先に立ててる感じね」
「海の王に飲み込まれた状態で見つけた錬金術スキルも、そこでお披露目でしょうか」
「おおーっ! それはカッコいいかも!」
「う、海の王様の中にあったスキルブックなら、期待できますね……!」
伝言を引き受けていたツバメに、ちょっと笑うレン。
ミューダスから帰ってきた四人は、いつも通りラフテリアの海を眺めながら堤防に腰かけていた。
「今回の広報誌……すごい人気なんだって」
レンがため息交じりに取り出したのは、冊子。
その表紙は四人の楽しげな水着姿だ。
「おおーっ! 賑やかな表紙だね! どんな風になってるのか楽しみかもっ!」
そう言って勢いよくページを開いたメイ、カメ島の住民や動物たちを従えている自分の姿を見て愕然とする。
「た、大変だぁぁぁぁーっ!」
水着のせいで肌面積が増え、より自然感が出たメイが棍棒を持つ姿は、見事な野生の王様だ。
「……なぜ私のパートは、イカダの方が中心になっているのでしょうか」
ツバメのページは、自動車雑誌のようにイカダがメイン。
ツバメと迷子ちゃんはそのドライバーくらいのサイズ感になっている。
「あんたたち……」
一方レンは、楽しい宴会シーンもたくさんあったはずなのに海賊船長になったレンがちょうど骸骨船員たちを率いた瞬間の絵だ。
これではいよいよ死霊術を使う闇の魔導士だ。
しかしレンはそんな事実より、二時間も粘ったけど降りることになった幽霊船を思って視線を遠くする。
「ひゃあっ」
そしてなんと言っても今回の一番は、温泉シーン。
まもりは顔を赤くして悲鳴を上げる。
そこには完全に溶けた表情のまもりが、しっかりアップで抜かれていた。
しかもちょうど前髪から落ちた雫が胸元に落ちて消えていく瞬間を抑えており、レンが「やるわね……」と思わずつぶやく。
「盛りだくさんですね……」
四人並んで湯に浸かっている見開きの絵は、ほのぼのしていて癒される。
とにかく様々なシーンが含まれた広報誌、人気になるのも当然だった。
「……さて、それじゃあとりあえずミューダスに戻りましょうか」
「報酬の確認ですね」
「でも報酬って、誰からもらうのかな」
メイが首と尻尾を傾げる。
「なんかミューダスに行くと、分かりやすい対応があるみたいよ」
「とりあえず、行くだけ行ってみましょう」
メイたちは並んでポータルに向かい、そのままミューダスへ。
海洋リゾートの街にたどり着くと、前回来た時に見なかったNPCがこちらにやってきた。
「……あれ?」
メイとまもりが、二人のNPC少女を見て首を傾げる。
「先日はありがとうございました。私たちは、ナディカの人魚です」
「やっぱり!」
「か、海賊から真珠を取り戻した時の……」
どうやら二人は、ナディカに住む仲間のようだ。
「一時的にですが、脚を生やす薬を飲んできました」
「皆さんのおかげで怪しい仮面の男たちも去り、海底に平和が戻ってきました」
「皆さんが世界のために戦っていると聞き、お礼に来たのです」
二人の人魚はそう言って四人を海沿いまで連れて行くと、海中から綺麗な宝箱を取り出した。
「どうぞ、世界のために役立ててください」
「やったー!」
「さて、今回はどんな感じかしら」
さっそくレンが、箱を開けてみる。
そこには黒地に金の飾りがついた、分厚いハードカバー。
【魔導経典】:世界の魔法が多数記された経典。開いたページに載っている魔法が発動する。【栞】があれば索引が便利になる。
「カッコいいー!」
メイが思わず歓喜の声を上げる。
「結構クセが強いわね……いざという時に必要なページを開くのは難しいけど、【栞】が見つかればある程度自在になるって感じかしら」
ランダムで魔法が出る形でも良し、【栞】で指定しても良しとなれば、なかなか面白くなりそうだ。
続いてまもり。
【水球の守り】:大きな水球の障壁で身を守る。足元からの突き上がる魔法にも対応可能。任意で割って攻撃することも可能だが、味方を巻き込む可能性がある。
「海の王のスキルの一つね。炎が燃え広がるブレスなんかにも使えそうね!」
「敵を集めて防御して、水球粉砕で隙を作るなんてこともできそうです」
「た、助かりますっ」
まもりの新スキルはさらに本人の強みを生かし、見た目にも楽しいものになりそうだ。
そして次はメイ。
【いたちごっこ】:使い魔スキル。直前に敵が放ったスキルをマネする。ただし装備、体型的に不可能なものもある。
「装備、体型的に不可能ってなんだろう?」
「大斧を振り回すとか、尻尾で竜を縛るとかはさすがに無理なんじゃない?」
「なるほどー」
「ちょっと失敗するところも見てみたいですね」
「か、可愛い姿が見られるかもしれませんっ」
「たしかに! それは可愛いかもっ!」
何ができて何ができないか。
そんな点も含めて楽しそうなスキルに、思わず笑みがこぼれるメイ。
最後はツバメだ。
【雷光双閃華】:三つの刃を敵に刺したところで発動する一撃。爆発のタイミングは任意にすることが可能。
「三本の短剣を突き刺して、まとめて爆発という形ですか」
「戦いながら一本ずつ刺していく形でも良し、高速移動で一気に三本刺しても良し。これは痺れる戦いが見られそうね」
「おおーっ! カッコいいかも!」
高速移動で翻弄し、一本ずつ剣を刺していく姿を想像して思わず盛り上がるメイとレン。
「……なるほど、高速の黒ひげ危機一髪ということでしょうか」
「そういう想像になる?」
一方のツバメは、三本の剣を刺すことで敵が吹き飛ぶという点からそんな想像をしていた。
これにはレンも苦笑いを浮かべる。
「海の王にも認められた皆さんの冒険が、良きものになりますように」
報酬タイムが終わると人魚たちはほほ笑み残し、海へと帰っていく。
メイは大きく手を振って、その後姿を見送った。
「さてと、報酬の確認も終わったし……」
「はい」
「うんっ」
「そろそろ――――お仕事に向かいましょうか」
「りょうかいですっ!」
四人はここで一度ログアウト。
『お仕事』のため、現実で再集合することにした。
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