906.帰り道
「ごちそうさまでしたーっ!」
神殿前に戻ってきたメイたちは、通り過ぎていく華麗な魚たちを見ながら、紅茶とお菓子を楽しんだ。
「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「りょうかいですっ!」
「まもりさんと迷子ちゃんさんのおかげで、楽しいアフタヌーンティーになりました」
「い、いえいえそんなっ」
「私もまた皆さんとご一緒できてよかったです!」
見上げればそこには、空を泳いでいく海の王の姿。
また世界中の海を泳いで回るのだろうか。
五人が壮大な光景に見惚れていると、途中までメイたちを案内してくれた人魚がやってきた。
「本当に海の王に認められるとは……貴方たちなら、この海だけでなく世界の海も守れるかもしれませんね」
そう言って、神殿前の紋様を指さした。
「ここからミューダス三角海域に戻ることができます。船を一艘用意しておいたので使ってください」
「ありがとーっ!」
「助かります」
こうして五人は、神殿前に刻まれたナディカの紋様の上に乗る。
するとまばゆい光が輝き出し、そのまま姿を消した。
「――――強き冒険者と、美しき海の平和が守られますように」
戻ってきたのは、ミューダス三角海域のガレキの上。
そこには人魚が用意してくれたという、小型船が置かれていた。
「それじゃあ帰りましょうか」
五人はそのまま船に乗り込み、帰途へつく。
まさにその時だった。
「あっ、帝国の船だよ!」
メイが見つけたのは、かつて北極へと向かった際に乗った帝国の研究船。
濃いグレーの、戦艦のような船がメイたちの横にやってきた。
「貴様たちは少々、踏み込み過ぎたようだ」
黒仮面はそう言って、その手に大きめの水色の結晶を取った。
「我らが大望の前に立ち塞がる邪魔者は、ここで消えるべきだ……さっそくこいつを試させてもらおう」
それは、手に入れたばかりの結晶兵器。
放たれる強烈な光。
黒仮面がそれを高く掲げると、途端に海が荒れ出した。
「悪くない。この結晶、研究のしがいがありそうだ」
そう言って船内に戻った黒仮面。
研究船はそのまま、遠ざかっていく。
「うわわわわっ!」
「このままでは、船がもちそうにありません!」
一方残されたメイたちは、ドンドン高ぶっていく波に揺られる。
ツバメが縁をつかんだ瞬間、現れる高波。
「きゃあああああっ!」
船がひっくり返され転覆。
ミューダス三角海域はすでに、酷い嵐になっていた。
足元のガレキが高波に飲み込まれては消え、全員が大海に放り出された形だ。
「ちょっと待って! 本当にボス戦後にもう一波乱入れてくるの!?」
これにはさすがに驚くレン。
黒仮面が新たに得た水色結晶の力によって、海面はすさまじい勢いで渦巻き、強烈な水流がメイたちを飲み込んでいく。
「この状況から、全員無事に帰る方法って何がある……!?」
【浮遊】では陸まで持たない。
メイでも、四人を抱えて陸まで走り切れるかどうかは分からない。
「召喚は!?」
「まだちょっとだけ足りないよーっ!」
クジラもギリギリ間に合わないようだ。
「私は【浮遊】で時間を稼いで……メイが三人を抱えて走って、間に合えばクジラ召喚。できるのはこれくらい?」
あまりに厳しい状況に、さすがに苦渋の表情を見せるレン。
まもりやツバメも、その強烈な渦に飲まれないようにするのが限界だ。
「きゃあッ!!」
そんな中、思った以上の波がきてレンがいよいよ溺れ出す。
こうなったら最悪、メイだけでも生き残ってもらおうと考えた、その瞬間。
「……うそ」
レンの目に見えたのは、淡い緑色の炎。
雲と霧を従えやってくるのは、一艘のオンボロ船。
甲板に駆け出してきた海賊たちには、確かに見覚えがある。
「あ、あんたたち……っ!」
渦に飲まれかけているメイたちを救いに現れたのはなんと、レンが行動を共にしていた幽霊船の面々だった。
リーダー骸骨の合図で、骸骨船員たちは一斉にロープを投じる。
メイたちがこれをつかむと一気に船に引き上げ、全力のオールさばきで渦を脱出。
「助けに来てくれたのね!」
レンの声に、敬礼で応える船員たち。
全員の無事が確定し、安全な海域へと出ることにも成功。
するとさっそく船員たちが楽器を鳴らし出し、空っぽのジョッキを掲げ始める。
「はじめましょう! 海底遺跡クリアの二次会を!」
メイたちが乗り込んだ幽霊船は、のんびりとミューダスの海を行く。
まだまだある、まもりのお菓子談義に迷子ちゃんの紅茶。
鳴り渡る陽気な音楽。
五人は賑やかに、帰り道を進んでいくのだった。
◆
「いやよ! この船は私が船長なの!」
帰り際の遭難危機。
実は各自が集合する前に達成したクエストから、ランダムで何かが助けにくるという形だ。
今回で言えば『イルカ少女』『人魚』『製作したイカダ』そして『幽霊船』の中から選ばれる。
その中から五人は、見事に幽霊船を引いたというわけだ。
「海賊旗と帆布には、デフォルメしたメイの顔を描くんだからー!」
無事ミューダスの街に、たどり着いたメイたち。
しかしレンはマストにしがみつき、一向に離れなかったという。そして。
「おかしいですね」
ツバメは辺りを見回す。
「……迷子ちゃんさんは一体どこへ?」
ミューダスの街にたどり着いた時、迷子ちゃんはしっかり姿を消していた。
こうしてナディカの物語は、最後まで賑やかなまま終わりを迎えたのだった。
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