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904.海の王Ⅳ

「迷子ちゃんナイスーっ!」

「お見事です」

「ありがとうございます!」


 見事に連携のきっかけを作った迷子ちゃんは、前衛組とハイタッチ。

 だが、これだけでは終わらない。


「……パーティメンバーを欠如させる攻撃を持つ敵は、『常に誰かを失ってる状況』を作らせようとするはずです」


 まだ海の王の攻撃のやっかいさを、ほとんど知らない迷子ちゃん。

 ここでなんと、大きく前に出た。


「隙、作りますっ!」

「……まさか!」

「【スリップ・フット】!」


 戦いは大詰め。

 隙を作るという言葉を聞いたレンが、その狙いに思い至る。

 迫る海の王コピーの体当たりをかわした迷子ちゃんは、尾の振り払いを潜って直進。

 すると本体は予想通り、回避の直後を狙いにきた。


「勝負です! 【ジェット・ナックル】!」


 真正面から放つ拳撃。

 しかし海の王は、飛び上がりからの【喰らいつき】を放った。

 上方から来る海の王に拳は外れ、迷子ちゃんが再び飲み込まれる。


「迷子ちゃんさん!?」


 まさかの事態に、思わず悲鳴を上げるツバメ。


「メイっ!」


 一方【低空高速飛行】で飛び込んできたレンは、すでにメイの左手を握っていた。

 飲み込まれても『死に戻り』にはならない。

 迷子ちゃんはあえてその攻撃を受けることで、隙を作り出した。


「ここ、絶対に外せないわ! 【増幅のルーン】!」

「りょうかいですっ!」


 メイはレンの手を握ったまま、右手を突き上げる。


「それでは皆さんご一緒に! ――――狼さん、ケツァールさん、クマさん、よろしくお願いいたしますっ!」


 ルーンの効果によって、現れた魔法陣は三つ。

 白煙の中から現れた狼と、海賊スタイルのクマ。

 そしてその背後から飛来した巨鳥ケツァールは、迷子ちゃんを飲み込んだばかりの海の王の真横を通り過ぎて翻弄。

 そこに駆け込んできた狼が喰らいつき、白煙を炸裂させると、その巨体の六割が凍結した。

 すかさず旋回して戻ってきたケツァールが叩き込む、滑空蹴り。

 床を転がる巨体に狙いを付けた海賊クマが、走り出す。

 見ればその右手は、海賊船長のごときフックに変わっている。

 大きな跳躍からフックを残忍そうにぺろりと舐め、ギラリと鈍い輝きを放たせたところで――。

 左手の【グレート・ベアクロー】を叩き込む。

 派手に床を跳ね転がった海の王、ついに残りHPは1割強。


「――――――ォォォォォォ!!」


 体勢を整えた海の王は、身体を震わせるほどの咆哮を上げ、猛然と突進してくる。


「いきますっ!」


 しかしメイの手にはバナナ。

【蓄食】でステータス上げを行うと、正面から向かい合う。

 海の王は宇宙戦艦の全弾発射を思わせる、水魚の弾幕で勝負をかけにきた。


「【装備変更】【バンビステップ】!」


 怒涛の勢いで迫るトビウオ型を【鹿角】の加速でかわし、視界の外から来る熱帯魚型を置き去りにする。


「【装備変更】【アクロバット】! 【裸足の女神】!」


 喰らいつきにくるサメ型を、前方への伸身宙返りで避けたところで超加速をかける。

 8体で取り囲むように迫って来ていたイルカ型は、メイが通り過ぎた後でぶつかり爆発。

 背中に届く衝撃を感じながら突き進む。

 しかし海の王は、ここでメイを強制的に止めにかかる。


「――――――ォォォォォォ!!」


 三枚の水球の守りを高速で粉砕し、飛び散る圧倒的な数の水散弾。

 回避など絶対に許さない、壁のごとき全方位攻撃だ。


「がおおおおおお――――っ!」


 だが強化された【雄叫び】の前に、水弾は消し飛ばされた。

 するとそこに続くのは、新たに二体追加され、四体に戻った海の王コピーの連携。


「【フルスイング】! もう一回【フルスイング】!」


 先行してきた二体を、全力の振り払いで飛沫に変える。


「からの【ソードバッシュ】だああああ――――っ!」


 後方二体の同時特攻を、吹き荒れる衝撃波の一撃で粉々に吹き飛ばす。

 四体の海の王コピーを吹き飛ばしたメイはもう、誰にも止められない。

 しかし海の王の長角は、煌々と輝いていた。

 地面から突き立ったのは、巨大な水牢。

『固定』された直方体の牢は、長さも高さも数十メートル級。

 メイたち四人を一瞬で飲み込み、フィールドを『水中』に変えてしまう。


「最後の最後に、プレイヤーが圧倒的な不利を背負う空間……非情です……っ!」


 9割9分のプレイヤーが大幅なマイナスを背負う空間の創出には、ツバメも驚愕する。


「た、戦いが一気に不利になりました……っ」


 まもりも状況の変化を見て、息を飲む。

 だがこの酷い状況下だからこそ思いつく、一つの可能性。


「レ、レンさんっ! 攻撃お願いしますっ!」

「考えは同じみたいね! まかせて! 高速【誘導弾】【フリーズボルト】!」


 放たれた氷弾は水中を跳び、弧を描いて海の王に着弾。

 ダメージは僅少だが、確かにその気を引いた。

 水中という圧倒的有利の中、海の王は豪速で迫り来る。


「【かばう】! 【地壁の盾】っ!」


 まもりは水中移動で、一気にレンの前へ。

 しかしその速度は低下し、【不動】がギリギリ間に合わない。


「きゃああああっ」


 海の王の突撃を肩代わりしたまもりは、そのまま床に激しくすり付けられ3割のダメージを負った。


「【紫電】!」


 そこへすかさずやってきたのはツバメ。

 場が水中になったことで感電の効果が広がり、離れた位置から硬直を奪うことに成功。


「おそらく時間で解けるスキルなんだと思うけど、場の変更は――――悪手よ!」

「その通りです! 時は来ました!」

「はひっ!」


 レンの予想通り、水中で一定時間『守り抜く』戦いが求められる巨大水牢。

 この時すでにメイは、【ドルフィンスイム】で上方へと移動済みだ。


「みんな、ありがとうっ! 【装備変更】!」


 時間を稼いでくれたレンたちにそう言って、その手に【海皇の槍】を取る。

 ここでようやく上方のメイに気づいた海の王は、即座に転身して特攻。

 そのまま角を煌々と輝かせて放つのは、得意の【エレメンタルスピア】

 煌々と輝くダイヤの角。

 猛スピードで迫る海の王に向け、メイは大きく振りかぶる。


「せーのっ!」


 そして、全力の投擲。


「飛んでけええええええ――――っ!!」


 海中とは思えぬ速度で射出された槍は、水中に大きな衝撃紋を残して一直線に飛来。

 迫り来る海の王をそのまま貫き、石床に突き刺さって炸裂。


「「「ッ!!」」」


 石床の舞台に、深いクレーターを生み出した。

 こうして海の王のHPゲージは全損し、巨大水牢が豪快に砕け散る。


「やったー! 皆ありがとうー!」


 ラストアタックへの道筋を作ったまもりたちの攻勢に、感謝の声を上げるメイ。

 駆けつけてくると、そのまま手前にいたレンに飛びついた。


「やっぱり最後はメイの一撃ね!」

「お見事でした!」

「す、すごかったです!」


 ツバメとまもりも駆けつけてきて、歓喜の輪ができる。


「あとは迷子ちゃんの無事だけだねっ!」


 見上げる四人。

 HPゲージが全損した海の王は、戦いの終わりを宣言するかのように潮を吹き上げた。

 キラキラと輝く飛沫の中、メイは上方を見ながら待機。


「見つけたっ!」


 落下してきた迷子ちゃんを、再びキャッチした。


「迷子ちゃんありがとーっ!」

「パーティメンバー欠如攻撃をあえて喰らって、そこを狙わせるなんて、とんでもないことするわね!」

「意外な決断、驚きました!」

「す、すごかったですっ!」

「いえいえ、ありがとうございますっ!」


【喰らいつき】を受けても、死に戻るわけではない。

 ならば海の王が使うスキルを知らないまま戦ってメイたちに助けられるより、オトリになる方が役に立てる。

 そんな戦い方を見せた迷子ちゃんは笑顔の四人を見て、海の王への勝利を確信。

 こうして五人は見事、全員で勝利をあげたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 論理クイズですが質問文は全部二重構文になります。
[良い点] ま、迷子ちゃーん!? よかった、食われたまま倒したら違うとこに出てそのまま行方不明にならなくて… もしくは食われてる最中は海の王の中にいて、海皇の槍に貫かれなくて! [気になる点] これ…
[一言] 陸海空を制覇した野生の王に隙はなかった
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