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9.野生児と新装備

「何が入ってるのかなぁ」


 大盛り上がりだったイベントが終わり、メイはMVP賞品のプレゼント箱を手にワクワクしていた。


「さっそく開けてみよう!」


 プレゼント箱を使用すると、ボン! とファンシーな煙があがる。


「わー! なにこれ可愛いー!」


 その手に現れたのは、メイの髪色と同じ黒の猫耳と尻尾のセット。


「ええと、アイテムスキルに【アクロバット】だって!」


 セットの装備枠は、アクセサリー。

 アイテム欄の説明を見ながら、さっそく装備してみる。


「……宙返りとかができるようになるって書いてあるけど、本当かな?」


 スキル【アクロバット】は、体操選手並みのモーションを可能にする。


「よいしょっ」


 その場であっさりと後方宙返りを決めるメイ。


「すごーい!」


 思わず感動の声をあげた。

 システムによる補正で、自在な空中回転が決められる。


「わー! すごいすごい!」


 そのまま何度もぴょんぴょんしていると、酒場のガラスに映った自分の姿に目が留まった。


「あっ」


 思わぬ発見をして、メイはまじまじとガラスをのぞき込む。


「耳と尻尾、動かせるんだ!」


 獣耳と尻尾は、思うがままに動かすことができる。

 つい楽しくなって、尻尾をぶんぶん振り回しながら動物っぽいポーズを取りまくっていると――。


「……うん?」


 酒場の出入り口に、運営がゲーム内外で出している広報誌が置かれているのが見えた。

 近々行われる大型イベントの情報と共に、そこには見覚えのある顔が。


「な、なにこれー!?」


 その表紙を飾っていたのはなんと、他ならぬメイ自身だった。

 ジャングルにこもり続けていた美少女。

 こんな最高の逸材を、運営が大きく扱わないはずがない。


「野生児メイ……?」


 そこには、色あせたマフラーをなびかせてジャングルの木に飛び乗るメイの姿。


「ちょ、ちょっとジャングルにいたってだけなのに、野生児だなんてー!」


 普段のさつきは、むしろ身だしなみに気を使う年頃の女の子である。


「失礼しちゃうよぉ」


 ほおをふくらませながら、あらためてガラス越しに自身を見返してみる。

 そこには、破け放題汚れまくりの装備に、獣耳と尻尾をつけた少女の姿。


「や、野生児だあーっ!」


 これが野生児でなくて誰を野生児と呼ぶのかというくらい、野生そのものだった。

 街ゆくプレイヤーたちは皆、綺麗な装備をしている。

 さすがに一人の女子としてどうかと感じたメイは、思い立つ。


「装備を替えよう! カッコいいやつに!」


 そう決意して、さっそく動き出す。

 二年ほど前からステータス欄の確認をほとんどしてないメイは、自身の『クラス』が変わっていることに気づいていないのだった。


「でも、お店ってどこにあるのかなぁ」


 店売りの装備品があることはぐらいは予想できるものの、店がどこにあるのか分からない。

 メイは辺りをキョロキョロしながら、街の奥地へと進んでいく。


「……なんだろう、いい匂い」


 不意に香って来た甘酸っぱい匂い。

 それを追うようにしてメイは足を進めていく。

 その姿は、残念ながら野生児以外の何物でもない。


「果樹園だ」


 港町の奥は山がちになっていて、その一部が柑橘類の果樹園になっていた。

 青々とした葉を付けた木々には、濃い黄色の実がたくさんなっている。


「ん、お前さんは……?」


 果樹園内に建てられたログハウスから、麦わら帽子にオールオーバー姿のおじさんが出て来た。


「こんにちは、メイです」

「ああ、冒険者か」


 ぺこりと頭を下げるメイに、おじさんは大きくため息を吐く。


「どうかしたんですか?」

「実はここ最近、うちの果物を食い荒らしてるヤツがいてな……」

「そうなんですか」

「そいつは夜中に来てるようなんだが……まあ、モンスターだろう」

「モンスター……」

「このままじゃうちの果物が食い尽くされちまう。なぁ冒険者さん、モンスターの討伐を頼めないか? もちろん礼はさせてもらう」

「分かりました、まかせてくださいっ!」


 クエストの発生。

 おじさんの頼みを引き受けたメイは、さっそくパトロールを開始する。

 暮れ始める空。

 何かヒントでもないかと、果樹園の周りを歩いていると――。


「あれ、この匂いは……」


 鼻をくんくんさせながら、歩くメイ。

 果物の香りが果樹園の外、山の方へと伸びているのに気づく。

 これはもちろん、メイが持つパッシブスキル【嗅覚向上】の効果である。

 そのままメイが、匂いをたどって山中に歩を進めていくと。


「……ウ……ウウ」


 陽光の届かない山の中。

 聞こえて来る奇妙な鳴き声。

 木々の影で身体を震わせる、黒ずくめの何かが見える。


「モ、モンスター?」


 メイはショートソードを手に、そーっと距離を詰めていく。

 すると黒ずくめの生き物が突然、ガバッとその顔を上げた。


「わあああああ!」

「きゃああああ!」


 重なる悲鳴。メイは思わず飛び退き剣を構える。


「……あれ?」


 しかしよく見れば、そこにいたのは見覚えのある魔法使い。

 バトルロワイアル時に股下を潜らせてもらった、黒ずくめの少女だった。

 年齢はメイと同じくらいか。

 銀色の長い髪が黒の装備にマッチして、かなり中二病的な雰囲気が出ている。

 どこか生意気そうな目が特徴の、可愛らしい少女だ。


「……あなた、イベントに出てた子よね?」


 問いかけてくる黒少女。

 だが、イベント時の余裕たっぷりな感じとはなんだか雰囲気が違う。


「うん。びっくりさせちゃってごめんね。真っ黒だったからモンスターかと思って」


 そう言うと中二病少女は、メイを足先から頭の先までじっくり眺めた後。


「……ボロ布に獣耳と尻尾の方が、よっぽどモンスターだと思うけど」

「うっ」


 もっともなカウンターを繰り出してきたのだった。

VRの日間・週間ランキングに載せていただきました! ありがとうございます!


これも皆様のおかげです。

ブックマークやポイント等々、応援よろしくお願いいたしますっ!

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― 新着の感想 ―
[一言] MMORPGとかしたことがない方のようですね。。。
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