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895.驚異の記憶力

 ツバメは早い足取りで、メイと共に先行する。

 付近の状況を把握するのが得意なメイは、最奥区画を担当。

 そう考えると、そろそろか。


「それではここで曲がります」

「りょうかいですっ」


 笑顔のメイに手を振り返し、ツバメは途中で右折。

 こういう時にメイだけでなく、自分も軽く笑みを浮かべられるようになったのは、このパーティを組んでから生まれた変化だ。

 そのまま【加速】の速度に任せて廊下を進行。

 この付近にあるのは、細かな間隔で置かれた扉。

 各研究者が、個人的に利用していた区画なのだろう。

 扉には開くものもあれば、壊れて動かないものもある。


「とにかく順に当たってみましょう」


 ツバメは手前から順に紋様に触れ、開けられる部屋は中を確認。

 ゲームではこういう状況ならほぼ、分かりやすく目印になるものがある。

 そんな経験から次々に部屋の確認をしていく。

 そんな中、見つけた一つの部屋は、扉の紋様が点滅を繰り返していた。


「……っ!」


 そして、出会う。

 同じ部屋を目指していた、一人の黒仮面と。

 二人は自然と、向かい合う形になった。


「貴様は――――フローリスのアサシンか」

「っ!?」


 フローリスから続けて参加している者だけにぶつけられる言葉に、まもり同様に驚くツバメ。


「お、覚えていて頂けたのですか……」


 ただしその驚きは、一度会っただけの自分を覚えているという奇跡のような出来事に対してだった。


「どうやら、恐ろしいほど記憶力の良い方のようです……」


 敵の強さや能力とは一切関係のない部分に、脅威を覚えるツバメ。


「求めるはゲートか兵器か……どちらであれ我らの邪魔はさせぬ。仲間共々ここで消してくれよう」

「そうはいきません」


 長い通路の途中で、火花を散らし始める二人。

 黒仮面は橙の結晶でできた短剣を逆手に構えると、腰を低くする。


「【疾駆】」


 いきなりの走り出し。

 高速移動から繰り出されるのは、短剣による振り払い。

 これをバックステップでかわし、続く振り上げを右へのステップで避ける。


「【斬毒剣】」

「ッ!?」


 放たれる橙色の輝きは、液体を放つ一撃。

 とっさにしゃがむと、頭上スレスレを水刃のような液体が通り過ぎていった。

 大きな回避と攻撃スキルの直後、両者の動き出しに遅れが生じる。


「【烈破】」


 黒仮面は高速移動突きを放ち、先手を取った。


「【跳躍】!」


 嫌な予感に前方への跳躍で対応するツバメ。

 すると予感通り、突きの直後に前方へ毒液の飛沫が噴射された。

 後方はもちろん、左右への小さな回避では毒液を喰らっていただろう。


「【反転】【電光石火】!」


 ツバメは着地と同時に斬り抜けを放ち、2割弱ほどのダメージを与えた。

 再び向かい合う両者、黒仮面はすぐさま再動。


「【疾駆】」


 三度の速い剣撃を放ち、ツバメはこれに回避で対応。


「【振り降ろし斬り】」


 続く基礎スキルである振り降ろしを、バックステップでかわす。


「【背走の水刃】」

「この攻撃は確か……っ!!」


 攻めに転じようとしたツバメは一転して急停止、大慌てで横っ飛び。

 背後から迫る水刃の攻撃は、先ほどの黒仮面とアサシンの戦いで見かけたもの。

 予想通りこれを【毒液】に変えたものが、ツバメの背中に迫っていた。


「くっ!」


 見事な回避だが、わずかに残った片手が引っかかった。


「【劇毒】ですか……!」


 フローリスで散々手を焼いた、異常な速度でHPを減らしていく状態異常。

 ツバメはすぐさま距離を取り、【毒消し】の使用を図るが――。


「【麻痺剣】【閃剣】【疾駆】」


 一瞬で距離を詰めてきた黒仮面が、そのまま短剣による攻撃に入る。

 橙色の結晶剣に宿る光が、凄まじい速度の振りで迫る。


「【振り払い】」

「【加速】【リブースト】【反転】っ!」


【閃剣】という単純に『剣の振りを速くする』だけのスキルも、『麻痺』を乗せれば一気に大きな脅威に変わる。

 ツバメは超高速移動で払いをかわしつつ距離を取り、反転。


「なるほど……! 状態異常の回復をさせない戦い方なのですか……っ!」


 劇毒は他の状態異常と重複し、【複合毒】になるのが恐ろしい点だ。

 ツバメはこの黒仮面が、【劇毒】にどう対応するかを決めさせる敵なのだと判断。

【毒消し】を使おうとすれば、高速移動からの【複合毒】を狙う。

 使わなければ、HPは高速で減っていく。


「私よりよっぽどアサシンしていますね」


 そうつぶやいて、ツバメは残りHPを確認。

 早くも5割強まできていることを見て、息をつく。


「我が結晶兵器は、全てを狂わす魔性の剣。貴様の余命は……あと何秒だ?」


 広くはない廊下で、向き合う二人。

 黒仮面はそう言って、短剣を構え直す。

 対してツバメも、【アクアエッジ】を【デッドライン】に交換。


「……それなら、命が尽きる前に攻め切りましょう」


 二本の短剣を構え、わずかに体勢を低くする。


「【加速】【リブースト】!」

「ッ!!」


 超加速による直線移動。

 放つはシンプルな斬り抜け。

 これを黒仮面は、ギリギリで防御する。


「【反転】【加速】」

「【麻痺剣】【飛沫払い】」

「【壁走り】【天井走り】!」


 黒仮面より早く振り返ったツバメは、敵の攻撃を見て壁から天井へ。

 敵のほぼ真上に来たところで、スキルをカットして落下。


「【跳弾投擲】」


 同時に投じた四本の【雷ダガー】はなんと、床にぶつかり上昇する形の跳弾となる。


「くっ!」


 想定しない角度からの攻撃を、再び防御してしまった黒仮面。

 駆け抜ける雷撃に、硬直を奪われる。


「【加速】」


 ツバメは着地と同時に走り出し、硬直状態の黒仮面に三発の連撃を叩き込む。

 しかしわずかに一瞬だけ、硬直からの復帰の方が早かった。


「【麻痺剣】【閃剣】【振り払い】」

「【スライディング】【反転】!」


 迫るツバメを迎撃するための高速振り払いを、足もとを潜り抜けて回避する。

 すぐさま振り返って放つ四連撃で、さらに黒仮面を斬る。


「【振り降ろし】」


 しかし欲張り過ぎ。

 四発目を入れたことで、ついに黒仮面の攻撃がツバメを捉えた。


「それは【残像】です」


 だがこれは、攻撃を振らせて隙を作るための罠。


「【電光石火】!」


 消えていくツバメの残像。

 その後方から迫る本物のツバメが、斬り抜けを再び決める。


「【反転】」


 即座に振り返り、さらに追撃をかけようと走り出したところに、黒仮面がエフェクトを輝かせる。


「――――【異葬乱舞】」


 振り返りと同時に繰り出したのは、高い火力に複数の状態異常を乗せた乱舞奥義。

 どれを喰らっても何かしらの状態異常を押し付けられるという脅威の八連剣舞が、今度こそツバメを切り裂いた。

 しかし。


「それは【ヒヨコ】ちゃんです」

「ッ!?」


 廊下という空間で一対一という状況。

 駆けるツバメはもう、手が付けられない。


「――――【雷光閃火】」


 生まれた隙。

 駆けるツバメに、黒仮面も遅れて結晶剣を突き出す。

 交差する刃。

 それはツバメの肩に触れ【劇毒】と【視野狭窄】の複合を引き起こすが、すでに時遅し。

 砂煙を上げながらの突進から突き刺された【デッドライン】は、激しい火花を散らして爆発。

 黒仮面を、HPゲージごと吹き飛ばした。

 宙を舞い、戻ってきた【デッドライン】を受け取ったツバメは、ようやく息をつく。


「間に合ってくれました」


 そして取り出した【毒消し草】をもしゃもしゃ。

 紋様の点滅する部屋の扉を開き、そこにあった宝珠を点灯させた。


「変化はないようですね。一度皆さんのもとに戻りましょう」


 狭くなった視界で付近を確認したツバメは、三人との再会のために走り出す。


「……記憶力対決でなくて良かったです」


 自分を覚えていた黒仮面の驚異の記憶力に、安堵の息をつきながら。

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【メシマズ大国の料理店~キッチン・みけの店ごと転移譚】~
― 新着の感想 ―
[良い点] 〜集合したあと〜 「ツバメちゃんの相手も強かったの?」 「はい、私の相手もかなり厄介でした」 「私の相手が空中だったから、ツバメは毒か水晶?」 「いえ、厄介なのは凄まじい記憶力でして……
[一言] その黒仮面がツバメちゃんを覚えていたのは、もしかすると、彼も良く仲間から気づかれなかったりするくらい影が薄いタイプだったから……… そう考えると切ないなぁ(笑) 黒仮面『そんな事実は無い…
[良い点] タイトルそこに繋がるんかーいw ツバメちゃーんw [気になる点] に、二重残像(ひよこちゃん)だと?! 星屑の毒消し草は食べるタイプなんだなー・・・まもりちゃん、店毎で食べ比べとかしてな…
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