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893.もっと争え!

 凍結し、砕け散ったヤドリサンゴ。

 美しい海洋兵器たちの中でも特にやっかいな個体を打破したメイたちは、兵器倉庫と化していたサンゴ地帯を抜けた。

 奥にある円形の『ナディカ紋』の上に乗ると床が降り、そのままさらに地下階へ。


「見た目にそぐわず、恐ろしいマップでしたね」

「本当だねぇ」


 つぶやくツバメに、メイも大きくうなずく。


「以前は増殖をしっかりと抑えていたのですが……イルカの減少で情勢が変わってきてしまったようです」


 そう言って人魚は、付き添いのイルカをなでる。


「ここから先は、さきほどの兵器を作っていた先住の人間たちが使っていた区画です。そこを抜ければゲートへたどり着くことになるでしょう」


 エレベーターのような円形床がたどり着いた先は、シンプルな灰色ブロック造りの空間。

 広い通路の左右には、シンプルな造りのドアが並ぶ。


「っ!」


 静かな空間の中、メイの猫耳がぴくっと動く。

 自然と足が止まり、視線を付近に走らせていると――。


「アサシン」


 その姿を見つけたレンがつぶやいた。

 見つけたのは、先を進む五人組の姿。

 ゼティアの門に近づく者を排除する、非情な集団。

 アサシンたちは通路から一つ先のホールに入ったところで、不意にその足を止める。

 そして、その手に武器を取った。


「せ、戦闘でしょうか」


 まもりがそっと盾を構えると、メイたちも自然と戦いの準備に入る。


「これ以上の詮索は認められない」


 放たれたアサシンの言葉。

 まだ通路にいるメイたちの方に、振り返りと同時に駆け出してくるのであれば一網打尽。

 レンが杖を構えたところで、動き出すアサシンたち。


「――――消えてもらうぞ」

「……あれっ!?」


 しかしその狙いは、メイたちではない。

 アサシンの言葉に応えるように、このフロアにやって来たのは――。


「て、帝国の……っ」


 まもりが思わず声を上げる。

 そこに現れたのは、フローリスを滅ぼした黒い仮面の者が四人。

 軍服を思わせる濃いグレー装備にマント、意匠の赤いラインが特徴的だ。


「容赦はいらぬ」


 駆け出したアサシンの一人は、黒仮面に狙いをつけ加速する。


「【疾走縮地】」


 そのまま一直線に距離を詰め、手にした短剣を引く。


「させるか……! 【烈風破】!」


 これに対して黒仮面は、けん制の振り払いで対抗。

 剣の描く弧に合わせて広がる衝撃が、アサシンを襲う。


「【伸身宙返り】」


 しかしこれを華麗な回転跳躍でかわしたアサシンは、そのまま空中で短剣を振るって攻撃。

 黒仮面の肩口を切り裂き着地する。

 さらに踏み込みから放つ剣撃で、早くも優位を奪った。


「【槍術の三・雷閃】!」


 その隣では二人目の黒仮面が、槍とは思えぬ高速の振り上げを放つ。


「【シャドウスライド】」


 青い閃光を描く一撃を、残像を残しながらの横移動で回避して反撃するアサシン。

 二本の短剣による三連撃を、黒仮面はしっかり槍で防御する。


「【背走の刃】」


 アサシンは二度のバックステップで距離を取り、右手の短剣を垂直に振り上げた。


「ッ!?」


 すると黒仮面の真後ろから突き上がった空刃が直進し、そのまま直撃。

 弾き飛ばされ転がった。


「【首狩り斬華】」


 三人目のアサシンが放つのは、一筋の水平剣閃。

 これを受けた黒仮面が、大きくバランスを崩したところに四人目のアサシンが迫る。


「【三剣殺】」


 魔力光で刃を延伸させ、大剣サイズになった光剣の高速三連撃。

 黒仮面はこれを、防御で受け止める。

 しかしそこから続く最後の叩きつけが、大きく魔力光を弾けさせた。


「…………ぐっ!」

「おおーっ……!」


 激しい戦いに、思わず感嘆するメイ。


「アサシンと帝国の黒仮面では、アサシンの方が上みたいね」

「そ、そうですね」


 アサシンと黒仮面がこちらに気づいて乱戦に……みたいな展開にならないよう、一応まもりの盾の背後で抱き合うように固まって観戦する四人。

 メイが尻尾をブンブンさせる度に鼻先をくすぐられて、ツバメがムズムズする。


「ゲーム中、三つ巴状態の時に敵の勢力が戦ってると、争え……もっと争えってなるわよね」

「分かります」

「は、はひっ、不思議なお得感があります……っ」

「そうなんだねっ」


 そんなゲームあるあるを共有していると、いよいよ黒仮面たちが追い詰められ始めた。


「ど、どうなっちゃうのかな……」


 緊迫感のある展開に、ドキドキするメイ。

 アサシンたちは黒仮面たちを取り囲み、あとは押し切るのみ。

 厳しすぎる状況下。

 だが黒仮面に、不思議と慌てる様子はない。


「我らの世界を守るためだ。こちらも容赦はしない」


 そう言って黒仮面が取り出したのは、橙色の結晶で作られた短剣。

 二刀流になった黒仮面が先行する。


「【異葬剣舞】」


 振るう二本の短剣から放たれる橙の十字エフェクトが、アサシンを弾いた。

 するとアサシンは、その場で突然硬直。


「終わりだ」


 あっという間に減っていくHP、さらに黒仮面の通常攻撃を回避することもできず、そのまま斬り倒された。


「あ、あれは、フローリスの毒です……っ」

「【麻痺】の状態異常に加えて【劇毒】って、とんでもない攻撃ね……!」


 ここから黒仮面の、反転攻勢が始まる。

 ブーツに付けられた緑の結晶を輝かせると、跳躍からそのまま一直線に飛行。

 アサシンのもとに滑空し、そのまま回し蹴りで蹴り飛ばす。


「あの感じは、天空遺跡の王みたいだわ」


 自在の動きを見せた空の王を思わせる空中移動を、結晶で可能にする。

 その戦い方に、レンも息を飲む。


「世界に同じ過ちは繰り返させない……!」


 一瞬でひっくり返された戦況。

 残った二人のアサシンは、同時に動き出す。


「【影走り】【アサシンクロス】」


 高速接近から放つのは、二本の短剣を身体の背後から前面へと、クロスさせながら振り上げる一撃。

 範囲も火力も高く、恐ろしい一撃だ。


「「【刺竜殺】」」


 さらにもう二人。

 手にした短剣で放つのは、高速の刺突撃。

 ツバメも思わず感嘆するほどの速さの一撃は、一瞬で黒仮面のもとへ。

 ここからの回避はあまりに難しい。


「決まりました……!」


 ツバメはつぶやき、その目をわずかに見開いた。

 黒仮面を挟む形で決めた三人の攻撃だが、ダメージは軽微。

 なんと狙われた黒仮面は、その身に紫色の結晶をまとっていた。


「あれは帝国皇帝が使ってたやつ……! あんなことまでできるの……っ!?」

「【紫刃突衝】!」


 結晶をまとった黒仮面がその手を振り下ろすと、床から一斉につき上がる紫結晶の刃。

 残ったアサシンたちもこの一撃に倒れ伏し、決着。

 遺跡の利器である結晶を使いこなした黒仮面たちは、見事な逆転勝利を飾ってみせた。

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