889.遺跡の憩い時間
「あなたたちの力、確かに見せていただきました」
与えられたクエストを、全て想定外の方法で攻略してきたメイたち。
「この先は戦いが厳しくなるでしょう。私はこの先でお待ちしていますので、準備が必要ならここで済ませてしまってください」
そう言って人魚は、たどり着いたフロアの紋様を発動。
床に開いた円形の穴に現れた『水柱』を、華麗な泳ぎで降りていく。
「RPG定番の準備タイムね」
見ればこのフロアにはいくつもドアがあり、各部屋では薬を作ったり、鍛冶や料理ができたりするようだ。
「ここは何かなー?」
近くの扉を開いたメイは、首と尻尾を傾げる。
そこは乳白色の金属石で作られているのであろう、広い空間。
大きな円形かつ、二段階のくぼみがある。
その大きさは八畳の部屋程度で、深さは60センチ、浅い段で30センチほどだ。
「ず、ずいぶんと汚れていますね」
足跡がつくくらい、黒ずんだ床と壁。
置かれた大きな白クジラのオブジェも、汚れてしまっている。
ツバメは反った体勢のクジラのオブジェに近づき、わずかに開いた口の中をのぞき込んでみる。
そこに、何かが薄く光ったように見えたからだ。
「……これは」
「どうしたの?」
レンがやって来てたずねる。
「いえ、このクジラの口内に宝珠が使われていまして、出がすごく悪いのですが……お湯が出ました」
「……お湯?」
星屑ではあまり聞かない、『お湯』という言葉。
レンも結晶に触れて、その感覚を確かめる。
「本当だ……これってもしかして」
振り返り、この空間の作りをあらためて確認。
「ここ、お風呂なんじゃない?」
「お風呂?」
メイが首と尻尾を傾げる。
「ヤマトの火山地帯とか、一部で実装されてるって聞いたけど……」
「あ、あの……っ」
まもりに呼ばれて振り返る。
するとこの空間を作るブロックの一つが開き、中からブラシと水宝珠が出てきた。
「間違いなさそうね……せっかくだし、お風呂掃除してみる?」
「掃除が終わったら、入れそうですね」
「いいと思いますっ!」
「お、お風呂システム……やはり『あれ』は必須ですね……!」
こうしてメイたちは、掃除クエストを始めることにした。
◆
「それそれそれーっ」
「これは気持ちいいです」
【腕力】と【技量】が関係しているのか、並んで駆けるメイとツバメのデッキブラシ部隊は、次々に汚れを落としていく。
通ったところがそのまま乳白色の床になっていくのは、単純に気持ちがいい。
「こっちは結構地道ね……!」
「はひぃっ」
一方のレンとまもりは手に持つタイプのブラシで、大きなクジラ像をゴシゴシと磨いていく。
水宝珠ですすげば、その部分は見違えるほどきれいになる。
レンはクジラが綺麗になったところで、口内の結晶もしっかり磨く。
「準備はいい?」
「どうぞっ!」
浴槽と思われるくぼみの掃除を終えたメイたちが、応える。
「それじゃ行くわよ」
さっそくレンが、宝珠に手を触れると――。
「おおーっ!」
クジラの口から、お湯が飛び出した。
あっという間に浴槽がいっぱいになり、あふれ出す状態はどこか贅沢に感じられるほどだ。
「すごーい! こんなに綺麗なお風呂だったんだね!」
乳白色の壁に、淡い水色の縁取りが見られる浴場は、見た目にも美しい。
あがる湯気が、なんとも良い雰囲気を出している。
「やっぱり、あると思ったわ」
さっそく異変に気付いたレンが、視界に現れたアイコンを確認。
「ここ専用の『インナー装備』に、変えられるみたい」
さっそく四人は、専用インナーに着替えてみる。
「はいっ!」
まずメイが装備を変更。
これまでの水着から一転、白のバスタオルを身体に巻いた姿になった。
それでも、耳と尻尾だけはそのままだ。
「おおーっ!」
そんなメイの姿を見て、歓喜のまもり。
その姿が変わる。
白のバスタオルは同じだが、長い金の髪をくるりと巻いて、頭頂部でお団子にした形だ。
「まもりちゃん可愛いーっ!」
「あ、ありがとうございますっ!」
ちょっと恥ずかしそうにするまもりだが、メイの笑顔に思わずはにかむ。
続けてツバメ。
白のタオルに、長い黒髪を後頭部でまとめた形。
ただし頭の上には、しっかりと小型のタオルを乗せている。
さらに、アイテムの【ヒヨコちゃん】まで小脇に抱えた状態だ。
「ツバメちゃん、日焼けしてる?」
「言われてみれば、水着の線がありますね……長らく海上で浮かんでいたからでしょうか……ひゃっ」
日焼けの線をなぞるようなメイの指の動きに、思わず驚きの声が出る。
運営の芸の細かい作りには、思わず感心してしまう。
そして最後はレン。
白銀の髪を真紅の花飾りで留め、一人だけ妙に毛足の長いダークグレーのバスタオルを巻いた姿になった。
「ふふ、無理しなくてもいいのよ?」
いくら中二病装備を勧めたくても、さすがに場所が風呂ではこれくらいが限界。
レンは、ちょっと勝ったくらいの気持ちで浴槽へ。
さっそく足をつけてみる。
「すごい……温泉システム、もっと早く試してみれば良かった」
星屑内でも設置数が多くないため、意外と使われていない温泉。
そのまま肩までしっかりつかってみるが、その感覚は現実の風呂と変わらない。
「わあ、本当だーっ! あったかい!」
「ほ、本当ですね、足を伸ばせるのが気持ち良いです……っ」
「このまま溶けてしまいそうです……ごぼぼぼぼ」
四人は思った以上に心地よい温泉システムに、皆ほっこり。
「なんだかこのまま、ずっとこうしていられそうだねぇ……」
「ほんとうですねぇ……」
「……あれ、何これ?」
突然湯船に浮かび始めた黒い何かに、首を傾げるレン。
取り出してみると、それは黒バラ。
「だからがんばらなくていいって言ってるでしょ! そもそもこれは中二病感で合ってるの!?」
「一気に組織の女幹部のお風呂シーンみたいになりました」
「おおーっ、レンちゃんカッコいい」
「はひっ、カッコいいです……!」
ちょっと色っぽくてカッコいいレンの姿に、感嘆する三人。
定番の花びらを黒にすることで生まれた演出に、笑いながらお風呂タイムを満喫する。
「考えてみれば水の感覚を完璧に再現できるうえに、料理や飲み物も再現できるんだもの。お風呂もできるわよね」
「ヤマトのお風呂も入りに行ってみたいな!」
「それもいいですね……雪景色なんかが見られると、なお良しです」
「そして風呂上りには……その土地の名産を使った夕食が……」
「それはもう、完全に旅館じゃない」
「た、たしかに……っ!」
すっかり宿泊気分だったまもりに、笑うレン。
温泉の思った以上の仕上がりに、四人は楽しい時間を過ごしたのだった。
そして風呂上り。
「み、皆さんこちらをどうぞ……っ」
まもりが取り出したのは、『あれ』ことコーヒー牛乳。
「本当に何でもあるのね……」
「ありがとうっ!」
「いただきます」
驚くレンに対して、メイとツバメはさっそく一口。
二人そろって、腰に手を当て豪快に行く。
「レンちゃん、どうかな?」
「それは大人のお姉さんというより、おじさんじゃない?」
「……おじさんならありかもっ」
渋い表情でコーヒーを飲むおじさんといえば、完璧な大人。
それなら全く問題なしというメイの判定に、笑うレン。
「……思いっきり満喫しちゃったわねぇ。そろそろ先に進んでみましょうか」
こうして四人は、温泉インナーから装備を戻して歩き出す。
「あれ……?」
「なんだか、足がふらつきます」
「こ、これはどういうことでしょう」
急な事態に、驚くメイたち。
「ステータスを見て。状態異常『のぼせ』だって」
長湯をするとかかる、遊び心の状態異常。
四人は肩をぶつけ合い、笑いながら進むのだった。
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