885.突き進みます!
「なるほど……水壁を破るくらいの力は持っているようですね」
水の壁を貫いてみせると、人魚は華麗な泳ぎで次のフロアへ。
つなぐ道は比重の重い水でできており、乗ってもなかなか沈まない。
道の下には、魚が泳ぐ普通の通路もあり。
ただ歩いて進むだけでも、楽しめてしまう造りになっている。
人魚は、たどり着いた新フロアの奥で振り返った。
「なんだか綺麗な部屋だねぇ」
広いフロアに浮かぶ大量の雫は、全て直径40センチほど。
密度が濃いのか、ゆらゆらと揺れているように見える美しい雫に、メイは感嘆する。
「あなたたちに、このフロアを抜けることができますか?」
人魚がそう言うと、天井に突き刺さった水色の結晶塊に光が灯る。
そして、雫が怒涛の勢いで飛来。
「「「「っ!!」」」」
これをメイとツバメがかわすと、雫は潰れて足元に広がる。
どうやらかなり粘度の高い、重たい水滴になっているようだ。
さらにこの雫は、放たれたそばから再生。
同じ場所に、新たな雫が充填されていく。
「っ!」
高低関係なく迫る無数の雫は、あまりに回避が難しい。
ツバメは前方から迫る四つの雫を見事にかわすが、斜め上方からの一撃に気づくのが遅れて体勢を崩した。
そこに迫る一発が、ツバメの肩を弾いていく。
「なっ!?」
肩に受けただけで、空中で三回転するほど大きく弾かれる。
「雫の重さのせいで、受けるダメージより前に進めない方が問題になるんだわ! しかもこの雫、総数は同じなのに人数で割り振られてる。少人数だと圧倒的に不利よ……っ!」
レンはまもりの背後から状況を説明。
雫弾は次々に生まれ、容赦なく飛来する。
「うわっ! うわわわっと!」
その勢いにはメイですら回避が中心となり、ゆっくりと進むことしかできない。
「ひゃあっ!」
響き渡る派手な衝突音。
まもりも普通の防御では、一撃ごとに大きく弾かれ後退。
「【不動】【クイックガード】【天雲の盾】!」
【不動】を使い、とにかくきっちりガードする形に切り替えた。
「この場所では、速い判断からの回避と前進が重要です。守りながら進もうなどという考えでは……永遠に越えることはできません」
すると人魚は、一向に進めずにいるメイたちにそう言った。
頬をかすめていく雫に、ツバメが再び弾かれ体勢を崩す。
身体を低くしてかわすメイも、じりじりとした進行にとどまる。
「……残念ですが、ここまでのようですね」
そんなメイたちを見て、人魚はため息をついた。
そしてそのまま振り返り、すげなく立ち去ろうとする。
このクエスト、やはり長く待ってはもらえないようだ。
「レンちゃん」
「……待って」
速度と回避が重要なこの試練。
メイは【蓄食】によるステータス上げから、【鹿角】と【四足歩行】でいくべきかと確認。
しかしレンは、首を振った。
「まもりならいけると思うんだけど……どう?」
「あ、あの……がんばりますっ」
相変わらずの、自信のなさを見せるまもり。
「それじゃあお願い。私も後ろに続くから」
「は、はひっ」
それでも肩に手を置いたレンの「大丈夫」という言葉に、ちょっと安心する。
「い、いきますっ!」
「守りながら進もうなんていう考えで、この難所を越えちゃうプレイヤーがいるってことを教えてあげましょう!」
「はひっ! 【クイックガード】【天雲の盾】!」
迫る二つの雫を弾き飛ばし、スキルを発動する。
「――――【チャリオット】【天雲の盾】!」
そして、走り出す。
この雫は特に、『最前を進む者』に集中する特性を持つ。
迫る雫は、まさに怒涛の勢い。
粘性の高い雫は容赦なくまもりの盾を叩いて、爆音を響かせる。
この威力ではたとえ優秀な耐久型の前衛でも、進むどころかドンドン後退させられてしまうだろう。だが。
重たい衝突音を響かせながら、まもりは一直線に駆けていく。
「やああああああ――――っ!」
砕け散った雫が飛ぶ距離と、その驚異的な潰れ方に、どれだけの威力なのかが見て取れる。
それでも、まもりは止まらない。
「いける! まもりの盾を止められるものなんて、何もないわ!」
「は、はひっ!」
まもりの背中を押し、そのまま駆けるレン。
「まもりちゃん! がんばれーっ!」
「二人とも、あと少しですっ!」
あがるメイとツバメの声、いよいよ踏破は目前だ。
「……そうくるわけね」
しかし勢いよく駆ける二人の前に迫るのは、いくつもの雫が融合してできた水塊弾。
その大きさは、両手で抱えるのも難しいほど。
速さに至っては、目で追うのがやっとというレベルだ。
「いきますっ!」
迫る一撃に、それでもまもりは足を止めることなく突撃。
轟音と共に巨大な雫が粉砕し、付近に飛沫が弾け飛ぶ。
ウォータースライダーのような凄まじい飛沫がまき散らされる中でも、まもりは止まらない。
そのまま真っ直ぐに、人魚の目前まで駆け抜けた。
「これくらいじゃ、私たちの盾は止められないわ……ね?」
「は、はひっ」
後ろから抱きついて問うレンに、ちょっと恥ずかしそうに答えるまもり。
「……このフロアを耐久力で押し通るなんて、信じられません……っ」
ここでも聞くことができた『想定外用』のセリフに、レンは思わず得意げに笑う。
「おおーっ! まもりちゃんすごーい!」
「お見事ですっ!」
すぐさま笑顔で駆けつけてくる、メイとツバメ。
「わわわわっ」
これまで一度の転倒も取られなかったまもりだが、二人の飛びつきに、思わず倒れ込んでしまうのだった。
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