875.メイと動く島
メイは大海に浮かぶ板切れの上で、猫みたいな伸びをした後、辺りを確かめる。
「やっぱり何もないなぁ」
【遠視】でも何も見当たらないとなると、レンの言う通り『ひたすら待つ』か『海中を探す』べきだろう。
ケツァールで一気に離れてしまうと、クエストを見落としてしまう可能性がある。
スタート地点を離れるなら、やはり何かしらの『流れ』でというのがベストだ。
「泳いでみようかなっ」
特に必要はないが、軽く準備運動。
大きく息を吸い、頬をぷくっとさせた状態で海中へ潜る。
そしてその目を見開いた。
「海の中もキラキラだーっ」
メイのたどり着いた場所は、サンゴも魚も美しい。
近くをウミガメが通り過ぎ、青や黄色の熱帯魚が気持ちよさそうに泳いでいる。
メイもサンゴの隙間を抜けるように、【ドルフィンスイム】で華麗に進む。
海中はとにかく鮮やか。
橙色の魚の群れと一緒に、メイも泳ぎを満喫する。
「……ん?」
するとそこに、一頭のイルカが泳いできた。
そこには背ビレにつかまり進む、少女の姿。
「どこに行くのかな」
メイは【ドルフィンスイム】で後を追う。
急いでいるのか、サンゴの隙間を高速で進んでいく少女。
見失ってしまいそうな速さだが、メイの泳ぎは人魚の様に華麗で、しっかり後をついていく。
本来なら『あっちの方』という情報だけで、呼吸ゲージとにらめっこしながら探す仕掛け。
メイは、少女が消える瞬間をしっかり目撃した。
サンゴの隙間に隠されていたのは、古いブロックの床に刻まれた宝珠と魔法陣。
その輝きか消える前に、メイも突入。
転移法陣によって飛ばされた先は、同じく海中だった。
少女は一気に海面を目指して、イルカと共に上昇。
メイもそのまま、水面に顔を出す。
「ぷはっ」
そして、その光景に感嘆する。
「すごーい……!」
そこにあったのは動く島。
移動している理由は、巨大なカメの背の上に大地が広がり、木々が茂っているからだ。
島の中へと駆けていく少女を追いかけて、メイも島に上陸する。
広がる砂浜と草原、そして中央に向かって森と丘。
身体をブルブルさせて水気を飛ばしたメイは、ワクワクしながら島内を進んでいく。
「ん……?」
すると猪の親子が、木になった実を見つめていた。
二頭はぴょんぴょんと飛び跳ねるが、全然届いていない。
「わあーっ、かわいいっ」
それを見て、ほほ笑むメイ。
「ちょっと待っててね」
声をかけると、猪親子はその場で大人しく待ち始めた。
本来であれば逃げられてしまわないよう音を立てず、そーっと実を取って渡さないといけないのだが、動物値が高ければそれだけ余裕ができる。
「よいしょっ」
メイは【ラビットジャンプ】一つで二個の実を取ると、仔猪はうれしそうにメイの手に身体を寄せてくる。
「わあー! かわいいーっ!」
夢中で食べる猪親子の頭を撫でて、歩き出すメイ。
するとそのまま、猪親子もついてくる。
「……ん?」
森に入るとすぐに、バサバサと騒がしい音が聞こえてきた。
【聴覚向上】による『きっかけ』の発見。
メイは猪親子と一緒に、音のする方へ。
見れば数羽の猛禽類が、クモの巣のように張った植物のツルに捕らえられていた。
どうやら二枚の葉で獲物を『挟んで食う』タイプの植物型モンスターに、捕まってしまったようだ。
「ちょっと待っててね 【バンビステップ】!」
メイは剣を手に走り出す。
するとその接近に気づいた植物型モンスターは、伸びるツルで応戦。
「【装備変更】っ」
ここでメイも【狐耳】に装備を換え、【狐火】を発動。
青炎を灯した剣で、迫るツルをかわしては斬り、一気に猛禽のもとへ。
「それっ!」
絡まったツルを斬り飛ばして、一羽また一羽と解放。
ここでついに、本体が動き出す。
だが先手を取ったのはなんと、背後から駆けてきた親猪だった。
植物型の本体に突撃し、体勢を崩したところにメイが剣を振り下ろす。
「猪さん、ありがとーっ!」
青炎に焼かれた植物型は、多くのツルを失い崩れ落ちていく。
しかしその『巣』にはまだ、数羽のウサギ。
植物型は『これだけは譲らない』と、捕えていたウサギに残ったツルを伸ばす。
「いーちゃん、おねがいしますっ!」
メイの肩から現れた白いイタチが、飛び出して暴風を放出。
迫るツルを吹き飛ばした。
「【バンビステップ】っ!」
この隙にウサギたちをひろって両手で抱え、猪親子のもとへ帰還するメイ。
足りない手数は、助けたばかりの猛禽たちが手伝ってくれた。
「鳥さんたちも、ありがとうございますっ!」
見事な救出劇に一息つくメイだが、これでもまだ終わらない。
聞こえてきた悲鳴に視線を上げると、木々の上を逃げてくる猿の一団。
後を追ってくるのは、目を赤く輝かせた巨大な蛇型モンスター。
さらに、先ほどの植物型も後を追ってきた。
「こうなったら、まとめて相手しますっ!」
飛び掛かってきたヘビの毒液を、軽やかなステップで回避。
そこから続く喰らいつきをかわしたメイは、そのまま長い尾をつかんだ。
「【ゴリラアーム】!」
そしてそのまま、ハンマー投げの動きで三回転
巨大ヘビをぶん投げ、植物型に叩き込んだ。
「ふー、なんだか忙しかったなぁ」
絡み合い、森の中を跳ね転がっていく二体のモンスター。
慌ただしい展開がようやく終わり、今度こそ一段落だ。
集まってきた猛禽たちが肩に乗り、猿もメイの首元に。
急に混雑を始めた肩の上、いーちゃんはおしくらまんじゅう状態になりながら必死にポジションをキープする。
「あの女の子は、どこに行ったのかな」
沢山の動物たちに囲まれながら、メイはイルカに乗っていた少女を探して森を進む。すると。
ついに【遠視】が、人影を捉えた。
さっそく駆けつけてみると、そこにあったのは小さな村。
集会でもしていたのか、焚火の前には何やら真剣に語り合っている村人たち。
その中には、イルカ少女の姿もある。
「すみませーんっ」
「「「ッ!?」」」
メイが声をかけると、村の誰もが驚きの表情を向けた。
中には、顔を押さえながら崩れ落ちる者もいる。
「お、おお……言い伝えは本当じゃった……!」
「いいつたえ?」
突然の事態に、首と尻尾を傾げるメイ。
「亀甲の大地に住まう者たちに危機おとずれし時、友たる動物たちを連れた、王が現れる」
「……おう?」
「あなたこそ、我らが待ち望んでいた――――野生の王に違いない!」
「ち、ちがいますっ!」
ブンブンと頭と手と尻尾を振って、否定するメイ王。
しかしその装備は、水着に猫耳と尻尾を着けただけ。
猪に鳥に、ウサギに猿にイタチを率いたその姿は、どう見ても完全な野生児。
どうやら助けた動物たちを引き連れた状態で村にたどり着くことが、クエストを動かす条件になっていたようだ。
島民たちは一斉に、動物を連れてやって来たメイに土下座する。
「実はこの大亀の大地を、風や雨を操ることで豊かにする【大自然の宝珠】が、海賊に狙われているんです!」
語り出したのは、イルカに乗っていた少女。
肩口で切りそろえた髪と、よく日に焼けた褐色の肌が、少年のような雰囲気を醸し出している。
「もし宝珠を奪われたら、大亀の大地は枯れ果ててしまいます! おねがいします! アタシたちを助けてくださいっ!」
「なるほど……!」
動物たちと暮らす者たちの生活を、欲望のために奪おうとする海賊。
そんな話を聞いて、メイは気合十分。
「わかりました! わたしにおまかせくださいっ!」
胸を叩いて宣言。
そして不意に「あっ」と声を出し、問いかける。
「……そ、その海賊たちは、何万回倒しても復活するとかではないですよね……?」
「はい?」
「そういうことは、ないはずですが……」
かつて密林の村を助けようとしてトカゲと7年間戦い続けたメイ、今回はしっかりと確認しておくのだった。
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