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850.狂戦士乙女

「灰猫! 夜琉!」


 追い込まれていく二人の姿に、焦りを覚えるアーリィ。

 こちらのスキルへの対応はやはり、『知っている』かのように見事だ。

 その上、相手の方が一人多いという状況は厳しい。


「【彗星連射】!」


 迫るアサシンに放つスキルは、攻めのフェンシングを思わせる高速前進突き。

 怒涛の連続攻撃は、回避を許さない。

 防御してもアーリィの次撃が速く、目前で出されれば厳しい状況に追い詰められるスキルだ。


「まだまだっ! 白鳥――」

「チッ!」


 これを最低限のダメージに抑えたアサシンは、この位置取りから【白鳥乱舞】を出される展開を嫌って反転攻勢に出る。


「【リバースステップ】【旋天斬花】!」


 下がる高速移動から一転前方へ跳躍し、頭上を越えながら放つ斬撃。

 それは『空刃』による攻撃範囲延長で、広範囲に攻撃を届かせるものだ。


「やっぱり! そのスキルは知ってる!」


 ついに反撃に『本人の得意技』を使用してきたアサシン。

 だが『知っている』のは、アーリィとて同じこと。

 これをあえて前方に転がることで、完全回避とはいかないが、ダメージを1割強で抑えてみせた。


「間違いない……!」


 アーリィは確信する。

 アサシンの中に紛れる、元攻略組の存在に。


「【リバースステップ】でかわしてからの反撃は得意の戦法だったよね? どうかな、ハリー・レインさん」

「……組織のために、世界のために」


 そんなアーリィの言葉は、すげなくかわされた。

 相手は長らく行動を共にした、攻略組のプレイヤー。

 そして以前までのスキルに加えて、アサシンとしての戦い方も身に付けている。

 戦闘の有利は完全に、アサシンたちにある。


「……それなら、まだ見せてない攻撃が大きな武器になるね」


 それを人数の多いパーティで使えば統制が取れなくなってしまい、身勝手な戦い方が迷惑をかける可能性がある。

 だから攻略中には、使うことのなかったスキル。

 アーリィは大きく足を左右に開き、右手を地面につく。


「みんな、行くよ」

「ああ!」

「了解したにゃん……!」


 敵に押される仲間たちに短く合図して、アーリィは大きく息を吸った。


「――――【バーサーカー】」


 スキルの発動と同時に、髪が開き、両目が赤く光る。


「ウォオオオオオオオオ――――――ッ!!」


 穏やかなアーリィのものとは思えない、化物のような咆哮が上がる。

 魔法とアイテムの使用に加えて防御の類も使えなくなる代わりに、【腕力】と【敏捷】を爆発的に向上させるそのスキル。


「【リトルウィング】【エアダッシュ】!」

「ッ!?」


 暴れ馬と化したアーリィが、空中を猛スピードで駆けてくる。


「【リバースステップ】!」


 空中からの振り降ろしを、慌てて後方への移動スキルで回避する。

 狙うはもちろん、ここからの反撃だ。しかし。


「【ヴァルキリーストライク】【クロスエッジ】!」


 獣のような特攻から放たれる振り降ろしに、思わず防御を選んでしまう。

 続く払いによって描かれる十字は荒々しく、アサシンを大きく弾き飛ばす。


「【影風刃】!」


 アサシンはとにかくこの流れを一度切ろうと、六連の風刃を飛ばしてけん制。

 しかしアーリィは止まらない。

 肩を斬り、頬を斬り、髪が舞い散る。

 迫る風刃の間を、『多少のダメージは構わない』という最低限の回避行動で突き進む。


「【彗星連射】!」


 放つのは、猛獣がその牙で敵に喰らいつきに来たかのような刺突の猛襲。

 一撃ごとに激しいエフェクトが起こる怒涛の連打は、もはや回避など選べる状況ではない。

 防御を選択してダメージを抑えるが、冗談のような勢いで削られていくHP。

 アサシンはどうにか耐え切り、両者がここから再始動という流れに引き戻した。


「【白鳥乱舞】」


 しかしアーリィは、容赦なくスキルを叩き込んでいく。


「なんだ、これは……っ!?」


【バーサーカー】中の【白鳥乱舞】は、かつての美しい剣舞の面影などなく、回避を許さぬ刃の暴風だ。

 範囲は広く、エフェクトは荒々しく、火力も大幅向上。

 一段目の跳躍乱舞が、敵を切り刻み一気に瀕死に追い込む。

 二段目の跳躍乱舞が、そのまま残りのHPを削り取る。

 三段目の跳躍乱舞は、もはやリスポーンすらできないのではないかというほどの酷薄な追撃。


「ぐああああああ――――っ!!」


 容赦なくアサシンを斬り飛ばしたアーリィは、すぐさま次の獲物に向けて駆ける。


「ウォオオオオオオオオ――――ッ!!」

「っ!!」


 暴走という表現しかできないその走り方は、怒る蛮神を思わせる。

 まるで巨人が大剣でも振っているのかという風切り音。

 その都度生まれる斬撃エフェクトは攻撃の範囲を広げ、かわし切れないアサシンのHPが削られていく。


「くっ! 【バックストライド】【フレアマイン】!」


 怒涛の攻めを受けたアサシンは、慌てて後方への大きな低空跳躍で狂戦士の侵攻から距離を取った。

 するとアーリィは足を大きく引き、剣を持った手を下げる。

 噴き出す猛烈な魔力光が、爆発する。


「【雷霆】」

「ッ!!」


 雷のごとき速度で迫る一撃は、地雷型の攻撃スキルである【フレアマイン】の爆発を置き去りにして地を駆け抜ける。


「化……物め……っ!」


 目を煌々と輝かせた狂戦士の一撃は、残りHPの減っていたアサシンを容赦なく切り飛ばして打倒。

 さらに駆け抜けた後に吹き抜ける暴風に、他のアサシンたちまで体勢を崩す。

 もちろんこの状況を『知っている』夜琉は、生まれた隙を逃さない。


「【爆歩】【月穿ち】!」

「くっ!」


 とっさの防御も、夜琉の大太刀の前には効果なし。

 大きく弾かれたアサシンが隙を晒したところを、さらに追いかけていく。


「【爆歩】【焔狩り】!」


 起き上がったアサシンの目前に迫る豪快な回転斬りは、もう回避も防御も不可能。


「ぐああああああ――――っ!!」


 そのまま派手に地を跳ね転がり、打倒。

 たとえ見知ったスキルであっても、狂化アーリィという化物が暴れ狂っている状況下では、集中力が保てない。

 場がめちゃくちゃにされてしまう前に、少しでも早く敵数を減らして集中したい。

 そんな思考のもと、一番早く落とせそうな灰猫のもとに駆ける、残り二人のアサシン。

 その考えは間違っていない。しかし。


「そんな分かりやすい考えじゃ、いい的だにゃん」


 そう言って灰猫が、掲げた杖を強く地面に突く。


「【聖十字乱槍】」


 すると足元から、十本ほどの大きな黄金の十字架が乱雑に突き上がった。

 荒々しくも神々しくもある、光十字の乱立。


「「ッ!?」」


 これに巻き込まれた二体のアサシンは、まとめて突き上げられた。

 一体はそのまま倒れ、もう一体はドット残しのHPで着地。

 再び灰猫を狙って駆け出すが――。


「アアアアアアアア――――ッ!!」


 その背中に迫る、赤い目の化物剣士。

 一切の容赦がない強烈な刺突に貫かれ、そのまま消し飛ばされた。


「終わったか」

「……うん」


 戦いが終わり、【バーサーカー】の解けたアーリィも息をつく。そして。


「やっぱりこれ、恥ずかしいよ……!」


 顔を隠しながら、足をパタパタさせるアーリィ。


「相変わらず、使用中と前後の差が大きいスキルだな」

「まったくだにゃん」


 全ての火力が向上する以上、効果の持続中にできるだけ全ての攻撃スキルを使っておきたい。

 そんなタイプの技。

 しかし強化の大きさゆえに、MPの減りも尋常ではない。

 アーリィは消耗の激しさに、大きく息をつく。


「だがやはり、消えた攻略組はアサシンとして動いているということでいいのだろうか」

「そう考えていいと思うにゃん」

「そうだね……バニー、大丈夫かな」


 隔壁に近づき、バニーの動向を探るように耳を澄ますアーリィ。

 だがここで、この空間に残された仕掛けが作動する。


「……そうくるか」

「この厳しさ。ここが正式なルートであることは間違いなさそうにゃん」


 思わずつぶやいた夜琉の視線の先には、天井から降りてくるブロック。

 その上には、新たなアサシンたちの姿があった。


「とにかく、最後まであがきましょう。今回はできれば……死に戻りじゃなく再会したいな。この冒険の最後を、メイちゃんたちと迎えたい」

「それだけは間違いないな」

「その通りだにゃん」


 前回は壊滅だった攻略組。

 今回は攻略どうこうではなく、メイたちと一緒に最後まで進みたい。

 三人は武器を構え、迫る新手のアサシンたちに立ち向かうのだった。

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【メシマズ大国の料理店~キッチン・みけの店ごと転移譚】~
― 新着の感想 ―
どうも、最近毎日感想書いてる獅子之王です。 ふと思ったんですよ。もし自分がこのゲームやってて、魔物化、魔獣化みたいなスキルを手に入れたらまずメイちゃん達を襲います→倒されます→スキル解除で人に戻ります…
[一言] 思ったより厳しいかもね
[一言] 論理クイズ「幼女と72の年齢当て」 行きますね 問題 3人の幼女がいる。 探偵は彼女たちからヒントをもらい、全員の年齢を当てるゲームを始める。 1番目の幼女「全員の年齢をかけると72に…
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