84.マップは埋めたい派なの
「レンちゃん、どうしたの?」
「……別れ道があるのよ」
海中へと踏み出した三人が、神殿のような形状をした建物へと向かう途中。
枝のように別れた、一本の細い路があった。
「進むべきは真っすぐなんだろうけど、こういうの気になるのよね……マップは埋めたい派だし」
「分かります」
うなずくツバメ。
「もしかして……こういうところにもクエストとか、アイテムがあったりするの?」
「多くはないんだけど、時々は」
「何もないことを確認だけしておきたいという、気分の問題でもあります」
「そうなんだぁ……それなら行ってみようよ」
さっそくメイは、跳ねるような足取りで先を行く。
細路は、崖に作られた洞窟へと繋がっていた。
「うわあ」
洞窟内はまた、空気のある通常の空間。
その広さに、メイが思わず感嘆の声を上げる。
どうやらここは、遺跡の船着き場のようだ。
「どうしてこんなに海賊船が……?」
しかしそこにはなぜか、海賊船が詰め込まれていた。
奥にある石造りの建造物は、この場所と海上を結ぶ船のエレベーター。
海水の出し入れによって、船体を上げ下げするもののようだ。
エレベーターの操作に使われる台座には、やはり宝珠が埋め込まれている。
船はたくさん泊まっているのに、人の気配はなし。
奇妙な雰囲気の停船場を、三人は並んで進んで行く。
「この仕掛けで、船に乗ったまま海上と遺跡を行き来するのね」
自分たちが通って来た水路を思い出しながら、エレベーターを見上げる。
「なるほど、メイの手に入れたカギがここで役に立つわけね。とりあえず動かしてみましょうか」
「うんっ」
台座にカギを差して回す。
すると宝珠に光が灯り、石造りのエレベーターがゆっくりと動き出した。
「わあ! すごーい!」
船たちの巨大な秘密基地。
排出されていく大量の海水と、動き出す大きなギミックを前にメイは目を輝かせた。
◆
「ここは……水路か?」
「そうみたいだな。なんかいよいよ遺跡の深部に迫って来たって感じがするな」
「思ったより順調にきましたねぇ」
大きなクエストがなく地味だったサン・ルルタン。
サービス開始以来の大きな展開に、意気込むプレイヤー。
メイたちとは違う道を進んで来たことでたどり着いたのは、やはり水路だった。
「……なんだ、この音?」
ルルタンプレイヤーたちが足を止める。
この水路は、船のエレベーターの上下に使われるものだ。
「お、おい、あれ見ろ! 水だ! 水だぁぁぁぁ!」
「うおおおおおお――――ッ!!」
どこからか流れ込んできた大量の海水。
その怒涛の勢いに、プレイヤーたちは大慌てで走り出す。
「お、おいこっちだ! 脇道に逃げるんだッ!」
迫る激流。
ルルタン仲間たちは脇道に殺到し、どうにか飲み込まれずに済んだ。
「あ、あぶなかった……」
「脇道があって良かったな……あのまま真っすぐ逃げてたら全員まとめて即死だった」
「しかもこっちの路は水路を抜けるっぽいぞ。ルートはこれが正解なんだろうな」
「よし、このまま遺跡の奥まで行っちまおう! ……おっと悪い」
そう言ってぶつかった相手を見上げる、ルルタンの剣士。
「…………えっ?」
そこには通常の数十倍の体格を誇る、巨大サザンガニ。
「……サ、サザンガニ自体は、モンスターではなかったよな?」
「あ、ああ。でも海の生き物が悪さをしてるって話があるし、油断はしない方が……」
言い終わる直前に、現れるHPゲージ。
鮮やかな水色の巨ガニが、硬いハサミを振り下ろす。
「うわああああっ!」
横にいた剣士が弾き飛ばされた。
「横に立つな! 相手はカニなんだから横に立たなきゃおぶしっ!」
「前にも行けるタイプのヤツーっ!!」
突然襲いかかってきたモンスターに、浮足立つルルタンプレイヤーたち。
倒れ込んでいる剣士に、巨大サザンガニは再びそのハサミを振り下ろしにいく。
「う、うおおおおっ!!」
「【エーテルジャベリン】!」
浮足立つルルタンプレイヤーたちの前に飛び出して来たのは、淡い橙の髪を冠のようにした白い水着の少女。
「ようやくの出番ですわね。あなたのお相手は、このわたくしですわ」
盛り上がるルルタンプレイヤーたちを見つけて付いてきた、九条院白夜だ。
◆
「…………」
「どうしたの?」
「なんか叫び声が聞こえたような……」
「他にもプレイヤーがいるのでしょうか」
「もしかして、また海水ドバーッて流れ込んでくるのかな?」
「ここに関しては、そういうことはないんじゃないかしら」
これだけの船着場だ。
全てを流してしまう水のトラップよりも、情報やアイテムが隠されている可能性が高いとレンは予想する。
「ほら、エレベーターが降りて来たわよ」
鉄扉が開いていく。
エレベーターから流水と共に滑り降りて来たのは、砲台を並べた一艘の海賊船。
「すごーい……っ!」
その荘厳さに、ピーンと尻尾を立てるメイ。
「遺跡に来る途中でエレベーターが止まっちゃったのか、それともここから出て行く最中だったのか」
「何かありますね」
「間違いないわね。ただ、ここまでの流れを考えると……」
そう言ってレンは【銀閃の杖】を取り出す。
「そろそろ、戦闘の一つもありそうね」
レンの予想通り、海賊船に乗っていたのであろうスケルトンたちが一斉に姿を現した。
数十体にも及ぶ、なかなかの大部隊だ。
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