753.黒仮面のリーダー
「……生きて我が前にたどり着く者がいようとはな」
『兵器』の池へと向かう道の目前。
言葉のわりには驚いた様子もない口調で、黒仮面のリーダーはそう言った。
その声は無表情なのに、どこか嘲笑を含んでいる。
「この街は今日という日をもって、完全に消滅する」
「そんなのダメですっ!」
「いずれ我らが世界を手にするのだ。ならばこの街を、その住人を活かすも殺すも、我らの判断一つでいい」
「皆で一緒に直した街を、これ以上壊させませんっ!」
自らの傲慢さに、何一つ疑問を持っていないその態度。
メイは尻尾をピンと立てて反論。
「そこに貴様の意思が介在する余地はない。我らが覇道の前に立った虫けら、駆除を開始する」
黒仮面のリーダーは、静かに右手を上げる。
すると魔法陣から現れたのは、黒色の葉と茎を持った大型の植物塊。
バラの葉のように見るからに硬質な見ためだが、生き物のように揺れ動いている。
「我らが生み出した戦術プラント【悪魔の樹】だ」
そう言ってリーダーは、掲げた手を真っすぐメイに向けた。
「贄となれ、今はなき花に集る虫けらよ」
飛び来る無数の枝は刃。
「【バンビステップ】!」
次々に迫る刃の枝は斬撃となるが、植物型の攻撃パターンも身体に染み付いているメイは、これを踊るようなステップで回避。
「【アクロバット】!」
一直線に飛んでくる刺突も、バク転一つでやり過ごす。
すると悪魔の樹に一斉に花弁が生まれ、成り出す『トゲの実』
全てがメイの方を向き、連続発射。
「【装備変更】!」
メイはここで装備を鹿角に替え、走り出す。
一秒前に駆け抜けた場所に実が炸裂し、弾け散る。
そこに続くのは、集まった枝による叩きつけだ。
「よっ、はっ、それっ!」
これを鹿のように右へ左への軽いステップでかわして、悪魔の樹へと接近。
「【フルスイング】!」
ド派手なエフェクトと共に振るわれる剣は、悪魔の樹を真っ二つに割る一撃。
「あれれっ!?」
HPゲージは一瞬で消し飛んだが、すぐに木と根が集結し、茂みのような塊に戻る。
「飲み込め」
「ッ!」
黒仮面リーダーの言葉に、悪魔の樹が応える。
地面から一斉に根が突きあがり、そのまま覆いかぶさってくる。
それはサーフィンの映像でしか見ない大波のような軌道で、メイを飲み込みにきた。
「【裸足の女神】っ!」
しかしメイも超加速で、覆いかぶさりにくる根の隙間をそれこそサーフィンのように駆け抜けていく。
「つかめ」
ようやく危機を抜けたところに、今度は地面から天に向けて突き出す壁のごとき根たち。
「【モンキークライム】!」
メイはこれをスレスレでかわし、突き出した枝の壁を斜めに駆け上がる。
「【ラビットジャンプ】からのーっ! 【ソードバッシュ】だーっ!」
「盾となれ」
唸る衝撃波。
枝々を厚い壁にすることで大きな盾とするが、メイの一撃に砕け散り枝々が大きく舞い散った。
ここで両者は一度、動きを止めた。
「悪魔の樹……変化だ」
これまでの戦法では、メイを脅かすことはできない。
すると黒仮面のリーダーは短くそう命じた。
悪魔の樹は形態を変えていく。
枝々が集まり身体を作り、根が脚部を形作る。
生まれたのは、枝と根で作られた大虎。
大虎は走り出すと、その鋭い爪を降り下ろしてくる。
だがいかに速くとも、四足獣の攻撃は知り尽くしている。
メイはこれを軽くかわす。しかし。
「わわっ!?」
爪を降り下ろした大虎はそのまま崩れ落ち、変わって地面に現れたのは巨大なサメ。
そのまま大きな口を開き、トゲだらけの枝で作られた牙で喰らいつく。
「っ!!」
まさかの攻撃は、メイをかすめていく。
初見であることはもちろん、その圧倒的に速い『変化』は脅威の一言。
悪魔の樹は、さらに変化を遂げる。
枝が組み合い大きな翼となり、できあがった巨鳥が翼で風を起こした。
「うわわわわっ!」
そしてメイの体勢を、わずかに崩した。
「【シュネルフォイヤー】」
ここで黒仮面のリーダーが動き出す。
手にした濃灰色の槍で、攻撃を仕掛けにきた。
速い踏み込みから放つのは、高速の連続突きだ。
「うわっととと!」
風にあおられる中、黒仮面のリーダーは容赦なく突きを繰り出してくる。
そしてメイが大きく下がったのを見て放つ、強い突き出し。
「【カノーネ】!」
穂先から衝撃波が放たれる。
「【装備変更】【アクロバット】!」
駆け抜けていく衝撃を、メイは側転で回避。
すると巨鳥と化した悪魔の樹は滑空で飛来し、そのままリーダーの背をつかんで上昇。
「【ヴァルツェン】!」
落下しながら、大きな横の三回転斬りでメイを狙う。
三連続のバックステップによる回避、槍は目前数センチを通り過ぎていく。
さらに着地したところに迫る大虎の爪を、メイがしゃがんでかわすと――。
「撃ち抜け【ツェアシュテーレン】!」
リーダーが投じた禍々しい槍が、轟音とともに飛来する。
「もう一回! 【アクロバット】!」
それでもメイは、投じられた槍を胸をそらして回避。
そのままバク転することで、かすめるに留めた。
「【装備変更】!」
両者再び向き合う状況。
二者を同時に相手にしなくてはいけないメイは、ここで空いている左手を突き出した。
「【すっごい火炎魔法】!」
メイが伸ばした手から巻き起こる、地獄の火炎。
地を駆ける恐ろしい猛火の威力は、上位の上級魔法すら上回る。
「盾となれ!」
慌てて悪魔の樹を、身代わりにする黒仮面リーダー。
「……ッ!?」
しかし、ダメージなし。
炎は何事もなかったのように消えていく。
そしてその先に立っていたのは【狸耳】を付けたメイ。
メイの放った業火の魔法は、【まやかし】による演出だ。
「いきますっ! こっちは本物! 必殺の【ソードバッシュ】だあああ――っ!!」
駆け抜ける衝撃波は、悪魔の樹を消し飛ばして炸裂。
「くっ……!」
悪魔の樹を盾にしたことでどうにか直撃を免れたものの、荒れる衝撃波に4割のダメージを受け転がった。
それでも転がりながら体勢を整え、リーダーは槍を持って振りかぶる。
「撃ち抜け【ツェアシュテーレン】!」
「それならっ! 【投石】ーっ!」
両者が同時に投擲を放つという、意外な状況。
しかし【投石】は硬直が少ない。
いち早く動けるようになったメイは、迫る槍を首の動き一つで回避。
「ぐっ……」
一方額に石が直撃し、【投石】を喰らったとは思えない転がり方を見せたリーダーは、どうにかヒザを突く形で身体を起こす。
すると再び悪魔の樹が、その隣に侍った。
植物の敵が動物型へと変化。
そして共に戦う。
「一緒に戦う…………なるほどっ!」
そしてそんな戦い方を見たメイは、何かを思いついたかのように、大きく一度手を叩いたのだった。
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