751.中距離戦と近距離戦
「【十字刺突】【火閃珠】!」
「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
左右から飛来する鎖鎌の攻撃を、レンは速いホバー移動で抜けていく。
「――――いけ」
ここで黒仮面が獅子型召喚獣に与えた命令は、猛烈な飛び掛かりからの爪攻撃。
「左右への回避も、後方への回避も許さない。いい攻撃だけど……っ!」
レンはここで一度足を突き、【旋回飛行】をカット。
【低空高速飛行】だけで、今まさに飛び掛かってくる召喚獣の方へ向けて突き進む。
「メイのおかげで、四足歩行型の飛び掛かりは意外と『前進』で潜れることを知ってるわ!」
豪快な風切り音と共に放たれる爪の一撃は空をなぎ、盛大なエフェクトを放つ。
しかし思い切ったレンの行動は、召喚獣のわずかに下をすり抜けていく。
「さあ、今度はそっちの回避力が試されるわよ! 【魔力剣】!」
一気に距離を詰めに行くレンに対し、黒仮面は瞬間移動で姿を消す。
だがこれは予想通りの動き。
すでにレンの手は【ヘクセンナハト】に持ち換え済みだ。
「避けられるものなら避けてみなさいっ! 【フレアバースト】!」
「ッ!?」
放つ魔法は範囲を広げ、瞬間移動先もその爆炎の効果内に収める。
最初に『逃げられた時』の移動距離と『鎖鎌の有効範囲』から割り出した『逃避先』の予想は、見事に正解だ。
吹き飛ばされ、転がる黒仮面。
足を止めたレンにかかる影は、起き上がった召喚獣のもの。
しかしレンは慌てない。
「今回の正解が【飛び掛かり】よ。真っ直ぐ体当たりに来ちゃったら、『踏んじゃう』でしょう?」
そうつぶやいた次の瞬間、【設置魔法】【フレアストライク】が火を噴いた。
召喚獣は炎砲弾の炸裂に、足元をすくわれひっくり返る。
「すげえ、使徒長ちゃんが場を支配し出した……」
「あれが『先』を行く魔導士です……っ!」
流れは完全にレンの物。
しかしこの一撃で黒仮面も召喚獣もHPが半分を割り、どちらも奥義の使用体勢に入る。
「狩れ! 【チェーンイェーガー】!」
同時に放たれる十字刃と魔法珠。
「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
その軌道は一見変わらず、レンは引きつけてからの回避を選択するが。
「ッ!?」
二つの『獲物』は角度を鋭角に変えレンを追う。
しかも十字刃はレンの移動範囲を絞り込むようにやや大きめの三角形を描くような軌道で飛び、その間をさらに魔法珠が狙いにくる形だ。
「もう一回! 【低空高速飛行】っ!」
レンは一度足を着け、止まることで魔法珠を回避。
そこから再び【旋回飛行】で距離を取る。
「まずっ!」
しかし、折り返してきた十字刃が腕を斬っていく。
この間にも魔法珠は、その輝きを大きく増している。
レンを取り囲んだ十字刃は一度緩やかに天を目指し、一気に下降する形でレンを突き刺しにくる。
「囲まれた時点で私の移動力じゃ逃げ切れない。でもこの布陣。狙いは魔法珠の方で間違いないわ!」
せまる十字刃を前にあえて足を止め、杖を構える。
「ぐっ」
左の肩口に深々と突き刺さる十字刃。
「【超高速魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
十字刃のダメージは1割強ほど。
迫り来る魔法珠。
レンは、のけ反りが終わるのと同時に魔法を発動。
初級魔法であるファイアボルトは、レンが持つ魔法の中で最速。
さらに速度上昇のスキルを乗せたことで加速。
ダメージは低いが確かに黒仮面を撃ち、体勢を崩させた。
それに合わせて、ビキッと鎖鎌の動きが止まる。
魔法珠はレンの、目と鼻の先まで迫っていた。
「狙い通り! 【低空高速飛行】ッ!」
レンは低空飛行で、一気に距離を詰める。
奥義を強制停止させられた黒仮面の、瞬間移動はもう間に合わない。
「ッ!!」
しかし黒仮面との間に、身を挺して飛び込んでくる召喚獣。
「自らを盾にする姿勢は立派ね! でも今回は相手が悪かったみたいよ! 【ペネトレーション】【フレアバースト】!」
放った爆炎は召喚獣を貫通し、黒仮面を吹き飛ばす。
しかし狙いは、これだけではない。
低空移動しながら、すでに『流れ』は作ってある。
魔法で吹き飛ばした先には【フレアストライク】の【設置魔法】
爆発によって吹き飛び宙に浮いたところに、レンはバトンの様に【銀閃の杖】を回転させながら照準を合わせる。
「【超高速魔法】【フリーズストライク】」
宙に舞った黒仮面に向けて一直線に飛ぶ、高速の氷砲弾が炸裂。
空中に氷雪の爆発を起こして落下、倒れる黒仮面。
それに合わせて召喚獣も消えていく。
レンが杖を払って敵に背を向けると、遅れて雪片がキラキラと舞い落ちてきた。
「「「おおおおおおおお――――っ!!」」」
レンの戦い方は最後の『キメ』がカッコ良いことが多く、それを期待してきた連中が歓喜の声を揚げる。
「「「さ、さすが闇の使徒長ちゃんだぁぁぁぁっ!」」」
そしてわき立つ観戦者たちを見たレンは――。
「しまった……! 【眼帯】と【包帯】さっさと使っちゃえばよかった……!」
このまま戦い続けると、眼帯包帯装備のフルアーマー闇の使徒をお披露目し続けることになる。
見事な戦いの直後だというのに、悔しそうに唇を噛むのだった。
◆
「――――風は微弱、風向は東から西。天候等による条件はなし」
ツバメの前に立ちはだかった黒仮面はなぜか、気候を確かめる。
そして最後に足元を確認すると、静かに構えを取った。
「……格闘型ですか」
その手には、短い金属の爪が付いたナックル。
「【獅子爪拳】」
スキルの発動と共に、右の拳が輝き出す。
「【転歩】」
「ッ!!」
ボクシングのように常時ステップを踏む、細かく速い移動法。
距離を詰めてきた黒仮面は、光る右の拳打を放つとそのまま回転蹴りへとつなぐ。
これを冷静に回避したツバメは、一歩下がって様子をうかがう。
すると黒仮面は踏み込み、右の爪の振り上げから左の爪の突き出しへと続ける。
だがこれもツバメは下がりつつ回避し、反撃へ。
「【電光石火】!」
黒仮面はこれに対して防御を選択し、5%弱ほどのダメージを受けた。
このわずかな打ち合いだけで分かる。
ツバメの方が速さも、攻撃能力も上だ。
それでも黒仮面は攻める。
速い接近から放つ拳打の三連発。
「【タイガークロー】!」
三本の空刃を生み出す、爪の一撃。
これもツバメは難なくサイドステップ一つで回避。
反撃の体勢に入ると、黒仮面がこちらに向き直った。
「【禍花粉】」
「ッ!?」
その手から、弧を描くような軌道でまいた粉。
ツバメはこれもギリギリでとどまり回避した。しかし。
「【風駆】」
「なっ!?」
まかれた粉末が風に舞い飛び、ツバメを【視界狭窄】に陥れる。
狭まる視界にツバメは慌てて距離を取り、視野を確認。
上下左右共に1/4ほどが、黒塗り状態だ。
「【ダッキングスウェー】」
ここで黒仮面は、上半身をかなり低くした体勢で移動。
ツバメは突然足元から現れたかのように見えた黒仮面の引いた手を見て、爪での攻撃と判断。
防御に回るが――。
「【猛毒針】」
下手投げで投じられた手りゅう弾のようなものが炸裂。
飛び散った針が刺さり、視野の削られたツバメをさらに【猛毒】に追い込んだ。
「状態異常の上乗せですか……!!」
「【鮮烈脚】!」
黒仮面はさらに攻め、派手なエフェクトを弾けさせる回転蹴りを放つ。
ツバメはこの状況でもしっかり敵を見ている。
大きなバックステップ一つで蹴りをかすめる程度に抑え、反撃へ。
「【加速】」
「【包身チャクラ】」
迫るツバメに対し、黒仮面の身体からわき立つオーラ。
それを見て攻め方を変更。
「【紫電】【八連剣舞】!」
電撃で敵の動きを硬直させ、放った八連続の剣撃は全て黒仮面を捉えた。
「……物理ダメージ軽減ですか」
しかしそのダメージは、1割にも満たなかった。
「あ、あれってヤバくないですか?」
「アサシンちゃん……ピンチだな」
おもわず息を飲む観戦者たち。
こうしてツバメは二つの状態異常を背負ったまま、物理攻撃耐性を持つ敵に立ち向かうことになってしまった。
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