75.海図のポイントへ向かいます!
「連れて行ってもらいたいところがあるんだけど、いいかしら」
レンはさっそく、サザンガニ漁のクエスト報酬である近海への出航を頼む。
「もちろんだ、どこに行きたいんだ?」
「普通ならこれで、ルルタン付近の島に行くんでしょうけど……」
取り出したのは、海賊基地で見つけた一枚の海図。
メイたちが狙うのは、こっちだ。
「ここに行きたいんですっ!」
この海図を手にしたのは、三人が初めてだ。
謎に満ちた『ポイント』に向かえることになって、いよいよメイは尻尾をはしゃがせる。
「……なるほど、この海域か」
しかしそんなメイとは打って変わって、漁師NPCは渋い顔をした。
「だが今回は特に危険な漁だったからな……多少やっかいな海域でも船を出させてもらおうじゃないか。クラーケンを追い返した君たちなら、大丈夫だろう」
「サザンガニ漁を制限時間内で片付けることで現れるクラーケン。そのクラーケンを倒すことでようやく行ける海域」
「間違いなく、何かありますね」
ゲーム慣れしているレンとツバメはうなずき合う。
「まあ問題はそれだけではないんだが……とりあえず向かってみよう」
こうしてメイたちは、再び漁船に乗り込み海へ出る。
「出航だー!」
進む漁船。
どこまでも続く海を、船の舳先から眺めるメイ。
「ふふ、さすがにこの広い海では何も見えないでしょう」
と、レンはまたも油断する。
「……メイ?」
「なんだろう、石でできた祠みたいなものがあるよ」
メイの【遠視】は、海上にあるそれをしっかりと捉えていた。
「この海の真ん中に、ポツンと祠だけ?」
「うん。島ってわけじゃなくて、ただ祠がある」
「……一体何なのでしょうか」
付近には目印や道しるべになるようなものは何もない。
そんな海域に突然現れた祠。
普通にルルタンを回っていたら、絶対に見つからない場所だ。
ワクワクに、メイの尻尾が震え出す。
「船長さん、このままあっちです! あっちにお願いしますっ!」
指と尻尾で、祠の方向を示すメイ。
「……あれ?」
しかしなぜか船は、祠の方向から離れていく。
「やはり簡単には行かないか……ここは海流がおかしくてな、迷路みたいになってるんだ」
「簡単にはたどり着けないってことかしら?」
「目標がこの海域を迂回した先にあるのなら問題ないが、その祠ってやつは海流のど真ん中にあるようだ。それこそ『潮目』が読めたりしない限りは無理だろう」
「さすがにこの距離だと【アメンボステップ】で行って戻ってくるのはむずかしいなぁ」
メイも、遠く祠を眺めたままつぶやいた。
「……まだ何か、足りないのかしら」
祠へと続く『要素』の不足を、レンが考えていると――。
「レンちゃんツバメちゃん! 何か来るよっ!」
再びメイが、海上を指さした。
やがてその目が、キラキラと輝き出す。
「イルカだー!」
「ッ!!」
ツバメもすぐに、メイの隣に駆け寄ってくる。
メイたちのいる船目がけて早いスピードでやって来たのは、白く輝く一頭のイルカ。
白イルカはそのまま、メイたちのいる船をかわしていく。
どこか必死にも見えるその様相。
すると、その後を追って迫る大きな魚影が見えた。
「わあ! 今度はクジラだよー!」
船体に迫るほどの大きさのクジラが、イルカを追ってきた。
はしゃぐメイの目が捉える。
さらにクジラの後を追ってくる、何者かの姿を。
「……大きなサメが、後を追ってきてる」
しかしサメの狙いはクジラではなく、白いイルカ。
凄まじい勢いでイルカへ迫ると、その恐ろしい牙で喰らい付きにいく。
しかしそんな喰らい付きに、クジラは身体を張って白イルカを守りに入った。
サメの牙が突き刺さり、苦悶の声をあげるクジラ。
こんな戦いを続けてきたのか、すでにその身体はボロボロだ。
「どうなって……いるのですか」
心配そうに、クジラたちを見るツバメ。
「……現れやがったな。あの巨大ザメはマッドシャーク。船ごと漁師を喰う海の脅威だ。とにかく獰猛で、俺たちがこの海域に船が近づけなくなったのも、あいつを怖れてのことなんだ!」
「あのイルカは?」
「イルカ……? あ、あれはまさか……っ!」
漁師が身を乗り出す。
「以前この海には、白く輝く一頭のイルカがいたんだが……ある日突然姿を消したんだ。光を放つ白イルカは、嵐や霧の発生を知らせてくれる『漁師たちの道標』でもあった」
大きく動き出す展開に、レンが息を飲む。
「白イルカが消えて以来だ。海を荒らす者たちが現れたのは。サザンガニもそうだが、最近海が荒れてるのは輝く白イルカを失ったせいだと言われているんだ。ただ……あの白イルカはまだ小さいな。ルルタンの海をこれから継いでいく子なのかもしれない」
白イルカに迫らんとするマッドシャーク。
ボロボロのクジラは、白イルカを守るために戦う。
しかし守ることが前提の戦いは、圧倒的に不利だ。
強烈な喰らい付きがまたも、クジラの身体に突き刺さる。
「助けよう!」
そう言って剣を取り出すメイ。
「ええ!」
「やりましょう」
レンとツバメもすでに、その手に武器を取っていた。
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