731.降りしきる雨
「間に合った……!」
ケガの身体を引きずるようにして、テントに転がり込むエンリケ。
メイたちもビルダ老人を抱えたまま、あとに続く。
するとその直後、毒の雨が急に強く降り始めた。
自然と皆、テントの外を眺める形になる。
「……酷いですね」
ツバメがつぶやく。
『兵器』の伸ばした根が、地面に再び痺れ霧を送り出す。
降り出した毒の雨が足元に溜まり、建物を再び浅黒く汚していく。
「あれは……?」
ようやく視力が戻ったメイが、首と尻尾を傾げる。
すると遅れて『兵器』から吐き出された『種』のようなものが飛んできて地面に刺さった。
直後、伸び出す不気味な植物。
伸びきり枯れるとそのまま毒液に混じり、その色が緑に変わる。
緑の【劇毒】は、後から放出した植物が溶けることで生まれるようだ。
これだけでは終わらない。
落ちた実は紫の毒になり、枯れずに残った植物は付近の毒を吸って赤錆色の毒を生み出す。
「「「「…………」」」」
復活目前まで来た街が崩壊していく様は、あまりに物悲しい。
毒にまみれていくフローリスを、哀しそうに見つめるまもり。
盾を持つ手から力が抜けていく。
ビルダ老人はもう耳を塞ぎ、顔を覆ったままだ。
だが今回は、これだけでは終わらない。
どうやら『兵器』と呼ばれた物体は、もう一段階出力を上げてきたようだ。
「あれは、新しい毒素かしら」
レンが指さした先には、鈍いピンクの毒液。
それは四つ目の【劇毒】だ。
やがて雨が止み、一通りの汚染が済むと、以前よりもいっそう毒々しい状態異常の街ができあがっていた。
「たったこれだけの時間で、街が……」
呆然とする老人たちを前に、レンがつぶやく。
そこにはもう、復活目前までたどり着いたフローリスの姿はなかった。
「っ!!」
そんな中、メイが異変に気づく。
「池の方に何か来てる! 【バンビステップ】!」
毒々しい液体が足元を染める中を、メイは走り出す。
【劇毒】を避けつつ池に向かうと、そこには『兵器』の効果を確認にきた、リーダー格が立っていた。
「やはり『兵器』は素晴らしい。わずかな時間で一つの街をこれだけの地獄に変えてしまうとは。これを使えば武力による侵略はもちろん、新たな『兵器』の入手も可能となる。そしてさらに我らは……『先』へと進むのだ」
「【裸足の女神】!」
メイは最速で毒溜まりをかわして駆け抜け、一気にリーダーの前へと向かう。
「【ソードバッシュ】!」
「……ほう」
振り抜く【蒼樹の白剣】に対してリーダーは姿を消し、少し離れた場所に現れた。
「生き残ったか。どうやら人間に対する威力は、もう少し研究の余地がありそうだ」
「これ以上、街を毒だらけにすることは許しませんっ!」
メイはリーダーを指さし告げる。
「我らの壮大な目的のためには、街の一つや二つ犠牲となって当然だ。貴様らのような無価値なものが、偉大な我らの『糧』となれることに感謝しろ」
しかしリーダーはメイを気に掛けることもなく、『取るに足らない』といった態度でそう言い放った。
「あとは、回収を残すのみ」
リーダー格の黒づくめは、ようやく駆動を停止した『兵器』を見て右手を上げる。
「【魔光の鎖】」
するとエネルギーを使い果たした『兵器』を魔力の鎖が再びつかみ、新たに鈍いピンクの【劇毒】液を湛えた池の深くに沈める。
「……時に、貴様が住む町はどこだ?」
「ラフテリア。青い海と空がきれいな、すっごく良い街ですっ!」
メイはすっかり『いつもの場所』になった港町を、思い出して告げる。
「それはいい」
リーダー格の黒仮面は、笑っているかのような声でそう言った。そして。
「ならば、次はその街を実験台とする」
「ッ!!」
ラフテリアが毒に沈む光景を想像して、思わず身震いするメイ。
リーダー格はそのまま【転移宝珠】を使用して姿を消した。
「回収……また、戻ってくるってことだよね?」
どうやら『兵器』の回収は、リーダー格一人で行うことはできないようだ。
『兵器』の存在は気になるが、【劇毒】池に沈んでしまっているためどうにもできない。
メイは一度テントに戻り、ことの顛末を説明する。
その間もビルダ老人は両手両ひざを地に突いたまま、再び毒にまみれたフローリスを見つめていた。
「あらためて見ると、本当に酷い状況ね」
「はい。前回もよりも見た目に凄惨です」
「こ、これで、終わりなのでしょうか」
まもりはうつむいたままでいる老人の方を見ながら、つぶやく。
その姿に皆言葉をなくしてしまうが、やがて老人はゆっくりと顔を上げた。
「……もう、一度じゃ」
そして今度は、その身体をメイたちの方へ向けた。
「君たちの助力をムダにしてしまって、本当に申し訳ない……! だがもう一度、もう一度だけ。恥を忍んで言う、君たちの力を貸してくれないだろうか!」
「俺からも頼む! 君たちでなければ、ここまでの復活はならなかっただろう! 頼む、もう一度だけ力を貸してくれ!」
「またこの美しい街に、皆が戻ってくる。その瞬間がどうしても見たい。この街ができた時は水やりしかできなかったワシが、この街と共に生きてきたワシが、今度は住人の笑顔を取り戻すのじゃ!」
「この街に再び、美しい花を取り戻すために! 頼む!」
頭を地面にめり込むほど下げる老人に、エンリケも続く。
「もちろんですっ!」
「ここまでされて、黙ってはいられないわね」
「はい、花の街を取り戻しましょう」
「わ、わわわたしも、がんばらせていただきますっ」
長らく拠点としていた街の華やかな光景を思い出し、まもりも一歩前に出る。
「メイの言葉を聞く限り、あの黒づくめたちはまた回収に戻ってくる。そこを叩くことができるんじゃないかしら。とにかく、このままじゃ終わらせないわ」
「その通りです」
「は、はひっ」
「もう一度、フローリスを立て直しましょう!」
降り続く黒い雨の中、四人は気合を入れ直すのだった。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




