723.最初の一歩
「もがごごーっ!」
「【浄化剤】、手に入れることができたんですね!」
猫まみれメイの言葉に、植物学者トミーが応える。
「材料の価格が高騰している状況下で、全てがそろったのは運がいいですね……いえ、メイさんたちですから、お見事という方が的確でしょうか」
そんなトミーの言葉に、一人うなずくまもり。
「まもりがいい商品を見つけてくれたおかげね」
「素晴らしい発見でした」
「もがが!」
「い、いえ、あれは本当に偶然で……っ」
「【浄化剤】の増量はお任せください。準備はできているので、すぐに始めます」
そう言ってトミーは、【浄化剤】の増加作業を開始。
大きな石鹸のような白い固体をいくつも作り、こちらに渡してきた。
「フローリスの三つの毒に、これで対応できますね」
フローリスを蝕む三つの毒。
これらの毒性の除去は、集めたアイテムで可能になるはずだ。
「さて、これでフローリスに戻る形になるんだけど……」
レンはそう言って、トレーダにもらった【可変の鍵】を取り出す。
「その前にまもりがもらった箱を開けてみましょうか」
「は、はいっ」
鍵を失った箱を取り出すまもり。
受け取った【可変の鍵】を使うと、カギの先が液体金属のようになり形状を変えた。
錠に差し込むと、あっさり箱が開く。
中に入っていたのは、スキルブックだった。
【かばうⅢ】:味方をかばう。そのために速く大きな一歩から短い一歩まで、ステップが可能。
「……まもりさんが鉄壁になりそうです」
「範囲はそこまで長くないだろうけど、長短速い一歩のステップで味方のもとに飛び込める。そこから盾で防御開始。いいじゃない」
「おおーっ! 仲間のところに飛び込む一歩って面白いね!」
「勢い余って味方をタックルで吹き飛ばしてしまう展開も楽しそうです」
「吹き飛ばされるの、多分私になるんだけど」
いいスキルが出てきて楽しそうにするメイたちに、思わぬ形でスキルをもらってしまって恐縮していたまもりも笑う。
「それじゃあ一度、フローリスへ戻りましょうか」
「ありがとうございました」
トミーに礼を言い、メイの身体にしがみついている猫たちを下ろしてからポータルへ。
一度の乗り継ぎで戻ってきたフローリスは、変わらずどんよりとした空気をしている。
プレイヤーもNPCも多い王都ロマリアからフローリスへ来ると、いやでもその閑散ぶりを感じてしまう。
メイたちは三つの解毒薬を手に、フローリスの復活を図る老人のもとへ。
「解毒薬、三つ全部持って来ましたっ!」
「おおっ! 本当か!」
歓喜に駆け出す老人。
その勢いに、思わず足をフラつかせる。
「わあ! あぶなーい!」
思わず声をあげるメイ。
老人はそのまま顔から小さな毒だまりに突っ込もうとして、ギリギリでこらえてみせた。
「おっと」
「「「「ッ!!」」」」
慌てて駆け出そうとした四人、全員ずっこけそうになる。
「うっかりこっちが転びそうだったわね……」
「本当だねー」
「そのまま毒だまりに突っ込みそうでした」
これには四人、苦笑いしながらテントの下へ。
「これで三種の毒を消せば、地面を健全なものに戻せるんだね」
「フローリス復活の第一歩じゃな!」
さっそく【毒食草】の種をまくと、紫色の毒素に反応して芽を出し成長。
足元に広がっていく鮮やかな緑の草が、毒素を吸い尽くしていく。
「おおーっ!」
「いい感じですね。続いて【清地薬】もいきましょう」
ツバメは走り、緑の毒溜まりに【清地薬】をまいていく。
すると緑の毒は、【清地薬】による浄化作用で蒸発し消えていく。
その際に生まれる輝きのエフェクトが綺麗で、思わず感嘆してしまう。
「いいじゃない!」
「それじゃ最後は【浄化剤】だね! それっ!」
メイがまもりと共に【浄化剤】をまくと、赤褐色の毒素に反応して泡が立ち、やがて空を映すほどに透き通った真水に変わる。
すると雲間からわずかに入ってきた陽光が、水たまりに反射してキラキラと輝き出した。
「毒が消えていく……雨も今は止んでおる。この隙に天幕の範囲を広げ、土を運び込んでしまおう!」
そう言って老人は、荷車を引いて走り出す。
まだ全ての場所の毒を排除したわけではなく、噴き出す煙や黒い雨水もなくなったわけではないが、三つの毒素が減っただけで見た目が全然違う。
【劇毒】でHPを奪われることがなくなったことで、様々な対処にかかる時間や手間も減るだろう。
「……こういうの、なんだか良いですね」
「これまで、復活させていくクエストはあまりなかったものね」
「なんだか楽しいねぇ」
「は、はいっ」
うれしそうに笑うメイに、まもりもブンブンとうなずいてみせる。
畳にしてわずか八枚ほどだった安全地帯は、その範囲を広げることに成功した。
これで『街を歩くことすらままならない』という状況も改善だ。
「今日のところは、ここまでにしましょうか」
「そうですね、そろそろよい時間です」
「りょうかいですっ」
最初の試練を乗り越えたところでおとずれる、中断の時間。
気づけば現実の時刻は、すっかり夜になっていた。
「……あっ、あの」
そんな中まもりは緊張の面持ちで、メイたちに声をかけた。
「つ……次も、その、ご、ご、ご一緒してもよろしいのでしょうか……っ!」
必死の表情で問いかける。
ギュッと目を閉じたまま審判を待つまもりに、メイが応える。
「もちろんだよっ」
「後衛の守りが硬くなれば、もっとメイたちが自由に動けるもの」
「まもりちゃんがいてくれれば、大きな攻撃とか後衛への攻撃にも対応できちゃうからね」
「難しいクエストですし、よろしくお願いします」
そう真面目に言うツバメの頭の上にはヒヨコ。
「それじゃあまた明日ね」
「明日もよろしくお願いしますっ!」
「よろしくお願いします」
手を振り、ログアウトしていくメイたち。
「…………へへ」
三人を見送ったまもりは、嬉しそうに盾の取っ手を握ると、わずかにほほ笑んだ。
まともにパーティを組んで大型クエストに参加するのはもちろん、自分から「明日も」なんて言ったのはこれが初めてのことだ。
「楽しかった……」
拠点の街は、未だ惨状の中にある。
しかしメイたちと挑むクエストは、まもりにとって今までにないほど楽しい時間になったのだった。
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