70.秘密基地と謎の船
サン・ルルタン島の隠し洞窟内には、船着き場があった。
長らく放置されているのであろう停船場には、積まれたままの酒樽や木箱の数々。
停泊している謎の船は、定員にして十数名ほどのやや小型の帆船だ。
破けたマストや船体の傷が、その歴史を物語っている。
「何があるのかなぁ……っ」
冒険の気配しかない状況。
メイの尻尾が期待にブンブンと震える。
そして同時にその耳が、いち早く異音を聞き取った。
「レンちゃん!」
その手を引くと、レンの身体のすぐ隣を火球が通り過ぎていった。
すぐさま構えを取る三人。
積まれた木箱の陰から現れたのは、三体の海賊スケルトン。
軽鎧に湾曲した剣を持った、剣士のスケルトンが高い跳躍で飛び掛かって来る。
「ッ!!」
これをツバメがかわすと、ローブ姿に杖を持った魔術師のスケルトンが炎の魔法を放つ。
「【跳躍】」
ギリギリのところで炎をかわすツバメ。
その隙に海賊剣士は、距離をつめて来る。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
対応したのはレン。
早い三連発の魔法は、最後の一つが剣士に直撃。
二割ほどその体力を削った。
「たどり着くのに高い【耐久】が必要なだけあって、なかなかの強敵ね」
コンビネーションで戦う海賊スケルトンたちに、楽し気に笑うレン。
「レンちゃん! しゃがんで!」
メイの言葉に、疑問も挟まず頭を下げる。
するとその頭の上を、一本の矢が通り過ぎて行った。
「【投石】!」
すぐさま反撃に出るメイ。
後方に隠れていた弓使いスケルトンが砕けて消える。
「ありがとメイ!」
「どういたしましてっ!」
メイは笑って、最奥に構えた海賊船長のもとへと駆け込んで行く。
船長スケルトンが手を掲げると、足元から猛烈な水柱がいくつも吹き上がった。
「ッ! 【バンビステップ】!」
派手な攻撃に驚きつつも、メイは早いステップで水柱の隙間を駆け抜けていく。
そのまま肉薄し、振り下ろす剣。
船長はこれをスキル【ソードバリア】で弾くと、豪華な装飾が施された曲剣を振り払う。
広がるエフェクト。
次の瞬間、剣の軌道を追うようにして生まれた水の刃が駆け抜けていく。
「【ラビットジャンプ】!」
これを高い跳躍でかわすメイ。
すると海賊魔術師が、その狙いを空中のメイに変えた。
「させません」
【電光石火】による連撃。
海賊魔術師の詠唱を途切れさせたツバメは、即座に【跳躍】で距離を取る。
「【フレアストライク】!」
トドメはレンの魔法だ。
「ありがとうツバメちゃん! レンちゃん!」
空中を舞うメイは、そのまま海賊船長に向き直る。
「がおおおおーっ!」
放つ【雄たけび】が、ビシッと音を鳴らして船長スケルトンの動きを止める。
着地したメイは、そのまま剣を握り直した。
「いくよー! 【ソードバッシュ】だああああっ!」
駆け抜けていく衝撃波が、マストを大きく揺らす。
「やっぱり、【野生回帰】で威力が上がってるわね……」
崩れ落ち、粒子となって消えていく海賊船長。
残った海賊剣士は、強引な特攻を仕掛けて来るが――。
「【電光石火】」
「【ソードバッシュ】!」
二人の放った斬撃によって消し飛ばされた。
「……ふふ、コンビネーションなら私たちも得意なの」
そう言ってレンは、少し得意げな顔をして見せた。
「ここを基地にしていた海賊たちってところかしらね」
「冒険の雰囲気ありましたね」
「さあ、船をのぞいてみましょう」
三人はそのまま、置き去りの木造船の甲板に上がる。
もちろん、向かう先は船内だ。
「ああー、わくわくしちゃうよぉ」
「本当です」
メイはレンの左腕に抱き着き、ツバメはそんなメイの左腕に抱き着く。
レンがそっと扉を開けると、まずは食堂かつ遊戯場なのであろう大部屋。
テーブルやイス、置きっぱなしのカードやジョッキなど、当時の様子がうかがえる。
だが目的はその先。
これ見よがしに続いている船長室だ。
すぐにメイが目を輝かせながらレンの腕をつかみ、ツバメがメイの腕を取る。
三人くっつき合うようにしたまま扉を開くと、豪華なチェアと共に置かれた船長のデスクには、一枚の海図が残されていた。
「何の地図かしら」
海図に描かれた情報から、レンはこれがサン・ルルタン近海のものだと当たりつけた。
一方メイは、開けっ放しの宝箱をのぞいてみる。
「宝箱は空っぽだ……あれ、これはなんだろう」
財宝は残っていなかったものの、そこには一冊の本。
さっそく広げてみると、どうやらスキルブックのようだった。
【アメンボステップ】:水上を駆けることができるようになる。
「メイ……ついに水の上を走るの?」
「ど、どうなんだろう……」
早くもメイは、常識を超えていきそうだ。
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