64.大混戦です!
「レンちゃーん!」
「メイー!」
「会いたかったー!」
散開から一時間。
無事再会したレンに、メイは屋根の上から飛びつきにいく。
「えっ!? ちょっと!」
その勢いに、そのまま押し倒される。
「やっぱりレンちゃんがいると頼もしいなぁ」
「そ、そうかしら?」
真正面から言われて、ちょっと恥ずかしそうにするレン。
「あ、ツバメも来たみたいね」
「本当だ! ツバメちゃーん! 会いたかったよー!」
同じくツバメも、メイに全力で抱き着かれて赤面する。
「あ、あの、わ、私も……です」
しどろもどろになりながらも、どうにか応えるツバメ。
「宝珠は集まった?」
「私は4つ、1セットがギリギリでした」
「1セットそろえたのね、やるじゃない」
「やったー!」
素直に褒めてくれるレンと喜ぶメイに、ちょっと照れるツバメ。
「メイさんはどうでしたか」
「10個!」
樹を伐るか否か。
そんな精神攻撃を乗り越えたメイは、見事3セット分の宝珠を集めていた。
「さすがメイさんです」
「レンちゃんはー?」
「私はその……12個よ」
「すごーい! レンちゃんが一番だ!」
「さすがレンさんです」
「全部……黄色だけど」
ボロボロと足元にこぼす宝珠は、全てが黄色。
「レンちゃんは黄色が好きなんだね」
「違うのぉ……」
白目をむくレンに、メイは首と尻尾を傾げる。
「でも、こうやってあらためて集まるのも楽しいねぇ」
「はい。皆さんがどうしているか考えながら遊ぶのもいいものです」
「そうね。ただイベントの本番はここからよ。強奪狙いのプレイヤーをかわすだけならツバメの【隠密】が安全策だけど……どうする?」
「せっかくのイベントだし、楽しもうよ!」
「私もそれがいいです」
「メイならそう言うと思ったわ。それならこれを持って行って」
レンが渡したのは、引っ越しクエストの時にもらった『種』の一つ。
ハウジング要素に使われる、庭木のものだ。
「大きな木だから、メイなら面白くなると思うわ」
「ありがとうレンちゃん! よーし、目指すは01番倉庫。真正面から突撃だー!」
「ふふ、あえて真正面から行くのね」
「さすがメイさんです」
メイたちは並んで、宝珠の提出場所である01番倉庫へ向かう。
そこにはすでに、猛者たちが待ち構えていた。
言葉などない。
メイたち目掛けて、イベント参加者たちが一斉に襲い掛かって来る。
「【雄たけび】には気をつけろよ!」
「……まさか、メイ対策?」
意外な言葉に驚くレン。
猛者たちは初手【雄たけび】を警戒している。
メイはそんな一団に、真正面から接近していく。そして。
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】」
そのまま猛者たちの頭上を飛び越えた。
「なっ!?」
予想外の動きに、困惑する猛者たち。
「よそ見していていいの?」
メイの跳躍のあと、その後ろにいたのは杖を掲げたレン。
「しまった!」
「【フレアバースト】!」
だが時すでに遅し。放たれた爆炎に十人がまとめて吹き飛ばされる。
そんなレンを狙う、四人の魔導士。
「【加速】」
その存在に気づいたツバメは、早い移動で魔導士たちのもとに駆け付ける。
「【紫電】【電光石火】」
まず敵の足を止め、続いて連撃を叩き込む。
「【跳躍】」
そして後方へのジャンプ。
続くのは、クールタイムを終えたレン。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
三発全てを喰らった魔導士たちは、そのままリスポーンとなった。
見事な連携を見せるレンとツバメ。
一方先頭を行くメイには、猛者たちが襲い掛かってくる。
「【アクセルスピア】!」
早い刺突を、身体をわずかにそらすことでかわす。
「【ソードバッシュ】!」
反撃をもらい、吹き飛ぶ槍使い。
すると次の瞬間。
「今だ! この隙を狙ええええー!」
十人を超える『速さ』に自信のあるプレイヤーたちが、「待ってました」とばかりに『高速移動スキル』で飛び掛かって来た。
全方位からこの人数を特攻させれば、次の【ソードバッシュ】は間に合わない。
レンの予想通り、メイ対策を講じた上での戦い方だ。
しかし。
「そういうことならっ!」
それが効くのは、以前のメイ。
手にした剣をしまったメイは――。
「【キャットパンチ】!」
「ぐはあっ!?」
「パンチ! パンチパンチ! 【キャットパンチ】からの――――【キャットパンチ】だー!」
複数人でも関係なし。
敵の攻撃をその身軽さで回避しながら、早い連打が可能な新スキルで次々にカウンターを取っていく。
「お、おい、話と違うぞ!」
「なんだよあれはー!?」
見た目は軽いのに、喰らえば大ダメージ。
そんな連続攻撃スキルに、次々と倒れていくプレイヤーたち。
「やったあ!」
こうして見事、メイは猛者たちを打ち倒した。
「まだ、だ」
とっさの防御スキルでどうにか生き残った槍使いも――ぺし!
ピンと伸ばした尻尾でとどめ。
「おいアイツだ! アイツを出せ!」
だが攻勢は止まらない。
メイの前に立ちふさがったのは、従魔士と炎をまとった巨犬。
「ヘルハウンドだ! 大型魔獣とプレイヤーの同時攻撃ならさすがにいけるだろ!」
威圧感全開の猛犬は、咆哮を上げて飛び掛かって来る。
「こっちだって負けないよー!」
しかしメイはそう叫ぶと、右手を突き上げた。
「よろしくお願いいたしまーす!」
「……お、おいおいおい。なんだよ、あのクマはー!?」
ヘルハウンドを余裕で超える巨体。
魔法陣から現れた巨グマの一撃が、炎の魔犬を叩き落す。
「ウソだろ……」
どうだ。とばかりに胸を張るクマ。
そんな見たこともない巨グマに、驚いてしまったのが失敗だった。
「ありがとー!」
そう言いながらメイは、クマの背を飛び越えてくる。
「えっ?」
意外な形の連携に、猛者たちもさすがに慌てふためく。
「に、逃げろ! 来るぞ! 爆発する【ソードバッシュ】だ!」
大急ぎで逃げようとする猛者たち。しかし。
「ううおっ!? なんだ!? なんか木が! 木が倒れて来る……ッ!?」
【密林の巫女】の効果によって、倒れた街路樹が道をふさぐ。
「いくよー! 【ソードバッシュ】っ!」
「う、うおおおおおおっ――――!!」
まとめて十五人ほどのプレイヤーが吹き飛んだ。
「ありがとー!」
ゆっくりと起き上がっていく街路樹に触れて、ほほ笑むメイ。
「な、なんだあの子、すっげえ……」
その凄まじさに、集まって来る観戦者。
「……これだけの人数でもこのザマか」
戦況を見守っていた一人の全身鎧が、ゆっくりと立ち上がる。
「だが、今回は勝たせてもらうぞ」
そうつぶやいて、新たな剣を手に歩き出す。
現れたのは、前回のバトルロワイアルでメイに敗れた前々大会優勝者だ。
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