55.引っ越しも大づめです!
「ああもう! しつこいわね……っ」
追って来る野盗に、しかたなくレンは【浮遊】で宙に舞い上がる。
「逃がすかっ!」
しかしそれを見た野盗NPCは、弓矢を取り出した。
始まる容赦のない連射。
「矢とか使うのっ!? このままじゃいい的だわ!」
そのうえ、空中では回避がほとんど不可能だ。
「【アローレイン】」
しかし野盗NPCは、スキルを発動しかけたところで突然倒れ込んだ。
「レンちゃーん! 大丈夫ー?」
オシャレなデスクを担いだメイが、空いた手で投げた【投石】によるものだ。
「メイー、ありがとうー!」
「どういたしまして!」
二人はそのまま引っ越し先の邸宅に、荷を降ろす。
続けてそこに、両脇に絵画を抱えて裏通りを抜けてきたツバメがたどり着いた。
「ツバメはミスあった?」
「はい、一つ」
「へえ、結構やっかいなのがいたのね」
「いえ、途中で子猫に見とれて手を滑らせました」
「それは運営側も予期してない壊し方でしょうね……」
三人は一緒に豪邸へ戻る。
するとちょうど剣士三人組も戻って来たところだった。
残りの荷物はもうわずかだ。
「どうにか四つ運べたあー」
「ふむ。私は失ったものとトントンと言ったところだな」
「私も失敗の方が多いかもぉ」
「時間もないし、ここからラストスパートでいきましょう。残りはポイントの高いものばかりだし、特に高ポイントのものを私たちが持って野盗を引き寄せる形ね」
「りょーかいですっ!」
レンの言う通り、残った物品の中には『特別高ポイント』な物もある。
当然、野盗NPCは群がってくるだろう。
「その隙に剣士チームはドンドン運んじゃって」
「ふむ、そうさせてもらおう」
メイたちはそれぞれ高ポイントの等身大銅像、アンティークの和ダンス、高級ティーセットを手に豪邸を出る。
「……え? ええっ?」
さっそく集まって来る野盗たちに、メイが思わず声をあげた。
「かかれー!」
「ええええーっ!?」
「待ちなさいよ! さすがに人数多くない!?」
「すごい数です」
いよいよ野盗陣営は、大挙して押し寄せてきた。
どうやらクエスト自体も盛り上がりどころのようだ。
「メイ、おねがいっ!」
「まかせてっ! がおおおおーっ!」
銅像を抱えたまま放つ猛烈な【雄たけび】が、集まってきた野盗たちをまとめて転がした。
それでも迫り来る者に、メイは空いている手を振り上げる。
「【キャットパンチ】!」
「ぐへっ!」
倒れ込む野盗。
「【バンビステップ】!」
そのまま、あえて野盗たちを引き連れる形でメイが先行する。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
続くレンも、肩にオシャレな小型の和ダンスを乗せたまま魔法を放つ。
三連発の炎が、見事に野盗たちを打ち倒す。
すると街角から突然、野盗の魔術師が。
「【ウィンドストライク】!」
「ちょ、ちょっと! きゃああああーっ!」
和ダンスを抱えたまま吹き飛ばされる、黒ずくめのレン。
「あ、あぶなかった……」
どうにか和ダンスは死守。しかしその隙を突いて飛び掛かって来る野盗。
「【魔力剣】!」
和ダンスを抱えたまま近接用攻撃魔法で斬り倒す。さらに。
「【フレアストライク】!」
魔術師野盗もキッチリ魔法で片付けた。
「……くすくす」
バリバリの中二病が和ダンスを肩に乗せて戦う姿に、さすがに笑う近隣プレイヤーたち。
「笑ってんじゃないわよー!」
即座に逃げ出すレン。
もちろん和ダンスは、しっかり肩に乗せたままだ。
そしてどうにか運搬を終えたレンが戻ってくると、そこには剣士組の姿。
「ちょうどいいわね。これ……四人がかりでいきましょう」
そこにあるのは最重量級の天蓋付きベッド。そのポイントは『240』だ。
そこそこ【腕力】のある剣士たちと一緒に、レンもその一角を担う。
何が起こるか分からない大通りは避け、今回はあえて裏通りへ。
「レンさぁん、敵が来ましたぁ」
「240ポイントは絶対に譲れないわ! 【連続魔法】【ファイアボルト】!」
迫り来る野盗に、ベッドを運びながら魔法を放つ。
裏通りなら、敵の攻撃にだけ集中すればいいと考えるレン。
「……え?」
その顔が、驚愕に固まる。
「モ、モンスターまで出てくるの!?」
押し寄せてくる野盗の一団。そこには共に駆けて来る巨犬の姿。
「もうなりふり構わないってわけね! 【フレアアロー】!」
放った魔法は野盗に直撃。しかし特攻してくる巨犬はその隙間をすり抜けて来る。
慌てて狙いを付け直すも、その距離はあっという間に詰まってしまう。
「まずっ! 間に合わない……っ」
「とつげきー!」
巨犬は、高く宙を舞った。
「メイーっ!」
思わず歓喜の声をあげるレンと「おおーっ!」と歓声をあげる剣士たち。しかし。
「な、何よこの数……」
この間に集まってきた野盗の数は、もはや一人で裁けるレベルではない。
引っ越しクエストは、いよいよ最終局面だ。
だがメイは「チャンス」とばかりに笑って右手を突き上げる。
「それでは、よろしくお願いいたしまーす!」
足元に現れる魔法陣。
ジャングルで出会った巨大クマが、ゆっくりとせり上がって来て――――むぎゅ。
「あ、あれ?」
そのまま、通り道に身体がはさまった。
「「「「…………」」」」
まさかの事態にレンたちも唖然とする。しかし。
通りにギュッと詰め込まれた感じになっているクマのせいで、誰も道を通れない。
「な、なによそれー! いいじゃないっ!」
まさかの展開も、「すごーい!」と笑うメイ。
ぎゅうぎゅうのクマは、押し出そうにもビクともしない。
「さあ行きましょう! 引っ越しを終わらせるのよ!」
剣士組も気合を入れ直す。
こうしてほとんどの増援はクマとメイに止められ、四人は天蓋付ベッドの運搬に成功したのだった。
「……ふむ、終わったか」
最後の物品を新居に運び終え、息をつく侍剣士。
「んー……」
一応全ての荷物を運び出したものの、駆けつけてきたマダムの表情は何とも言えないところ。
「クリアにゃ、ちょっと自信がないなー」
「私たちが足を引っ張ってしまってそうですねぇ」
「その点なら、大丈夫だと思いますっ」
しかしメイは、余裕のまま。
「いいわよ、ツバメ」
「うわっ!」
西洋剣士が驚きの声をあげる。
目の前に突然、【隠密】を解いたツバメが現れた。
その手には美麗な宝石箱。
そう、『特別高ポイント』のそれは『500』ポイントの品物だ。
「それは……っ! 皆さん大したものですわ!」
マダムは跳び上がって大喜び。クエストも無事クリアだ。
「一番高い物は、【隠密】でゆっくり持って来てもらったのよ」
楽しみながらも、しっかり締めるところは締めているレンなのだった。
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