538.錬金術師の秘密基地
「森の罠の解除、無事に完了しましたっ!」
敬礼ポーズで、神官にクエスト完了を伝えるメイ。
「ありがとうございます。これであの森には自由に出入りできますね」
穏やかな顔つきでそう言った神官。
急に複雑そうな顔に変わる。
「これ、次のクエストへの分岐がどこか別のルートで確定して、それに合わせて態度が急変した感じっぽいわね」
NPC特有の『話の飛び方』に、目ざとく気づくレン。
「見事な力量を持つ皆様に、新たな依頼をお願いしてもよろしいでしょうか」
「構わないわよ」
「ありがとうございます。次の依頼は『偽命の石』を持ち帰ること」
「ぎめいのいし?」
「とある錬金術師が遺した、仮の命を与えるアイテムです。放置されたままでは、どのような事件に発展するか分かりません」
「面白そうね、行ってみましょうか」
「行ってみましょう!」
「興味深いクエストです」
地図で場所の説明を受けた三人は、神殿を出る。
向かうはアルティシアの隅にある、錬金術師の研究施設だ。
「表向きは石造りの……階段といった感じでしょうか」
そこには崩れかけた石積みの出入り口だけが、ポツンと口を開けていた。
いつも通りレンの腕を取って、寄り添って進む三人。
階段から続く部屋と廊下には、ややぼやけた明かりを灯す魔法石灯が輝いている。
一番手前の部屋にはほとんど物がなく、雑に置かれたデスクとイス。
いくつかの本棚にも、乱雑に本が並べられている。
「火風水土の四元素を以て進むなり……ね」
デスクに残されたメモには、かすれた文字でヒントらしき文字が書かれている。
メイたちはそのまま部屋を出て、廊下を進む。
長い長い廊下には、等間隔で置かれた魔法石灯。
一部崩れた箇所から土壁がのぞく光景は、ただただ不気味な気配だ。
「……あれ?」
しばらく進んでいくと、不意にメイが足を止めた。
「ここ、さっきも通った気がする」
「それに、いくらなんでも廊下が長すぎますね」
「一度戻ってみる? ツバメ、その壁にダガーを立てかけてみて」
「はい」
言われるまま【黒曜石のダガー】壁に立てかける。
これで【黒曜石のダガー】は、この場所に置かれたままになるはずだ。
「それじゃ、行きましょう」
引き返すレンたち。
しばらく廊下を進むと――。
「ああーっ!」
気づいたメイが走り出す。
「これ、さっき置いていったダガーだよ!」
この手の定番トラップもメイにとっては新鮮で、思わず驚きの声を上げた。
「閉じ込められたというわけですね」
「ええっ! そうなのっ!?」
「メイ、【投石】を廊下の先目がけて使ってみて」
「りょうかいですっ! 【投石】!」
メイが投じた石は、すさまじい速度で飛んで行く。
「「「…………」」」
するとわずかな時間をおいて、投げた方向とは反対側から飛んできた。
「ええーっ!? どうなってるのー!?」
「……【投石】の石が、三周目に入っています」
何度も同じところを行ったり来たりするトラップより、【投石】の飛距離の方がとんでもないのだが、ゲーム経験の少ないメイは素直に仕掛けに驚いていた。
まるで地球を一周して戻って来たかのような石に、興味深そうに「おおーっ」と目を輝かせる。
「お互いに反対方向に走ったらどうなるのでしょうか」
「走ってみようよ!」
「それでは」
「またあとで!」
「【加速】!」
「【バンビステップ】!」
互いに反対方向へ走り出したメイたち。
予想通り、やがて二人はすれ違う。
「すごーい!」
「このトラップをこれだけ素直に楽しむプレイヤーは、他にいないでしょうね」
すれ違うたびにハイタッチして、「きゃあきゃあ」と盛り上がるメイに、レンはくすくすと笑う。
「どうやって、出ればいいのでしょうか」
「壁を壊してみるっていうのはどうかな!」
キキーッ! と急停止したメイは、そう言ってさっそく剣を掲げる。
「【フルスイング】!」
降り下ろされる剣に、巻き起こる猛烈なエフェクト。
「……あれーっ?」
しかし壁は無傷。
土がむき出しになっているところですら、全く変化なし。
「魔法でないとダメージにならないとかでしょうか」
「【連続魔法】【フレアアロー】」
レンが放つ炎の矢。
炸裂して大きく火花を上げるが、それでも壁は無傷のままだ。
「どういうことでしょうか……」
「も、もしかして、本当に出られないの?」
まさかの事態に、尻尾をブルブルさせ始めるメイ。
「この迷宮はおそらく制限時間で強制退出か……死に戻りになるんでしょうね」
「ええーっ! それは大変だあ!」
メイは「大変だー!」と言いながら駆け出して、そのまま「大変だー!」と言いながら戻ってくる。
そこそこ怖いマップだというのに、その動きはものすごくコミカルだ。
「ふふ。属性がそろっていてよかったわ。ツバメ、【アクアエッジ】で土の部分を叩いてみて」
レンは安堵の息をつきつつ、ツバメにそう提案した。
「分かりました【アクアエッジ】【四連剣舞】!」
なぜ【アクアエッジ】なのかは分からないが、水の刃で放つ四連続の剣撃。
土壁を斬り付け飛沫が跳ねる。すると――。
「土が……なくなりました」
「どういうことー?」
その光景をメイも、興味深そうに見つめる。
「古い錬金術だと『土』は『乾』『冷』の属性なのよ。これが『湿』『冷』になれば『水』になる。今回は土壁を湿らせて同じ『湿』『冷』にしたことで、『水』に転化して流れ落ちたって感じね」
「なかなか難しい仕掛けですね……土が水になってしまうというのは少し独特な感じがします」
炎や雷、風の呪文でもこの壁は崩れない。
そう考えると、『偶然』は起きにくい仕掛けと言えるだろう。
「何となくでここにやって来たプレイヤーを、帰らせるためのトラップなのよきっと。本来ならあのメモの内容を神殿あたりの書庫で調べるなりして、その上で気づけるかどうかっていう仕掛けなんでしょうね」
「レンちゃんすごーい!」
「過去の遺産は意外なところで役に立つわねぇ……」
闇の使徒全盛期に得た知識が、意外な形で役に立つ。
そんな状況にレンは、思わず苦笑いするのだった。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




