53.貴族のお手伝いです!
港町ラフテリアには、各都市へと向かう船が集まる。
そのため漁港も併設されたこの港湾都市は、冒険者たちの拠点となっているのだ。
また『星屑のフロンティア』の南方に存在するこの街は規模も大きく、歩いて回るだけでも十分に楽しめる。
「まあ、貴方たくましそうね!」
「えっ?」
猫クエストをクリアした三人が街を歩いていると、突然メイが見知らぬマダムに腕をつかまれた。
「あなた方も!」
そう言ってマダムは、メイたちの背後にいた3人組の女子パーティにも目を付ける。
「メイの耐久値、腕力値辺りに目を付けた感じかしら」
3人パーティも皆剣士だったのを見て、レンが推察する。
「あなたたち、ちょっとこちらへ来てくださいまし!」
「ええっ!?」
強引にメイと剣士を引っ張っていくマダムNPC。
グイグイと連れられていくメイに、レンとツバメも続く。
「クエストでしょうか」
「間違いないわね。今回は2パーティ合同で何かをさせようって感じかしら」
「なんだー? なんのクエストだぁ?」
「ふむ、なんであろうな」
同じく、剣士の所属する女子パーティの顔ぶれもマダムの後に続く。
連れて行かれた先は、一軒の豪邸だった。
一階ロビーに通された、2つのパーティ。
目の前には積み置かれた家財道具や美術品、装飾品の数々。
「皆さんには、これを向こうの邸宅に運んで欲しいの。一秒でも早く!」
「お引越しですか?」
なぜだか慌てているマダムに、メイが問う。
「そのようなものですわ! とにかく早くお願いしますわね。お礼は向こうでいたしますから!」
そう言い残して、マダムはそそくさとこの場を離れていった。
「ふむ、ただ引っ越しをするだけのクエストとはな」
「こいつぁ楽そうだなー」
侍っぽい剣士の言葉に、同調する西洋剣士。
「余裕ですねぇ」
ふんわり剣士も、完全に気の抜けた感じだ。
マダムの指定した邸宅までは少し距離があるものの、往復すらだけならそう難しくはなさそうだ。
「失礼します」
そこへマダムと入れ替わるようにして、一人の使用人がやって来た。
「荷物の運搬ですが、大通りはどうしても人が多く手間がかかると思います。また最近野盗の一団がうろついていまして。物品を狙いに来る可能性もございます。裏の通りを使えば人は減り通行しやすくはなるのですが、その分野盗に目を付けられやすいので、その点にお気を付けください」
「ただ物を運ぶだけなんてずいぶん簡単なクエストだと思ったら、そういうことだったのね」
どうやら、各ルートに様々な障害が待ち受ける形の運搬クエストのようだ。
「ここの品物は奥様のムダ使いの結晶なので、旦那様の目から隠して運びたいのです。そのため本来の引っ越しとは別で皆様にお願いすることになりました」
「なるほどね」
「とにかく旦那様がお戻りになられるまでに、全ての物品を運び出してください」
「制限時間もあるってなると、意外とシビアね」
「レンちゃん、この数字はなに?」
置かれた品を眺めていたメイが、首を傾げる。
見れば各品物には、デジタルの数値が割り振られていた。
「向こうに運んだ時に、数値分のポイントが入る仕組みなのよ。その合計でクエストの成否が下されるのね」
「なるほど!」
「見た感じ高級品や重い物はポイント高いけど、その分野盗に狙われやすくなったり移動速度が遅くなる感じでしょうね。奪われたり壊されちゃったら減点。野盗を避けて遠回りすると時間がかかる。そんなところかしら」
「数値の高いものは、責任の重い物品なのですね」
「ふむ。ならばさっそく始めようではないか」
制限時間のあるクエスト。
一緒にいた剣士パーティの面々は、さっそく積み荷へと手を伸ばす。
「さぁ、行こうぜー」
「行きましょうかぁ」
各々の手には、ポット、図鑑、クッション。
「もう少しがんばりなさいよっ!」
思わずツッコミを入れてしまうレン。
それらのポイントは『2』『2』『1』
見事に三人全員が、持ちやすくてポイントの低いものを率先して手に持っていた。
「……メイ、あなたは本当に頼もしいわね」
「うん?」
そんな中、楽し気に振り返るメイ。
シャンデリア(ポイント30)を苦もなく抱えるたくましい姿に、レンは安堵の笑みを見せた。
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