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52.猫の王様

 足の速い銀猫に連れて行かれた先は、人の住まなくなった家々の隙間。

 そこにはたくさんの猫たちがくつろいでいた。


「レンちゃんツバメちゃん。いつの間にか夜になってるよ!」

「雰囲気あるわねぇ」


 クエスト用の不思議な演出に、思わずはしゃぐメイ。

 その尻尾は、他のどの猫よりも大きく振られている。

 そんな中、現れる一匹の巨大な白猫。

 大きさは、通常の猫の数十倍。

 揺れる長い毛並みと、煌々と輝く両眼。


「最後はこの化け猫と戦って、力試し終了ってところかしら?」

「ッ!!」


 レンがそういうや否や、化け猫が飛び掛かって来た。

 これを先頭にいたメイがかわすと、化け猫はそのまま壁を蹴って飛び上がり空中で一回転。

 前足をメイに叩きつけにくる。


「おっと!」


 わずか二歩分の後退で回避を決め、剣を抜く。


「【ソードバッシュ】!」


 走る衝撃波と共に、メイの反撃が見事に決まった。しかし。


「あ、あれ?」


 いつもとは、明確に違っている点がある。


「ゲージがないよ!」


 なんと化け猫には、HPゲージが存在しなかった。

 あらためて確認してみるが、やはり化け猫にはゲージが確認できない。


「【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 即座に続くレンの追撃。

 動きの速い化け猫は放たれた炎弾の二発をかわすも、最後の一発が身体をかすめた。

 しかし変化なし。


「本当ね。しかも剣と魔法のどちらでもゲージが出てこない」


 レンは状況をあらためて見直してみる。


「……メイ、回避に専念できる? これ、どれだけ攻撃してもダメージは与えられないと思う」

「そうなの?」

「たぶんね。そしておそらく、こういうのには『術者』が……あっ」


 レンの頭脳に、走る閃き。


「さっきの黒猫よ! 間違いないわ、あのオッドアイはそういうことなんだわ!」


 鋭い感覚で『術者』を名指ししてみせた。

 そこへ、「わたし?」とばかりにオッドアイの黒猫がやって来る。


「……ち、違ったみたいね」


 ここぞばかりに決めた名推理が外れて、ちょっと恥ずかしいレン。


「と、とにかく、周りで観戦してる猫たちの中に『術者』がいるはずだから、私とツバメでその子を探しましょう! メイは引き付けに専念でお願い!」

「りょーかいですっ!」

「分かりました」


 各自の役割を決め、動き出す三人。

 トカゲとは動きが違うものの、四足獣の相手はもう慣れ切っている。

 まして回避に専念、攻撃の必要がないとなれば。


「【アクロバット】からの【アクロバット】!」


 それこそ猫にも負けない身軽さで、攻撃をかわし続ける。

 飛び掛かって来た化け猫に、真正面から向かい合うと――。


「よいしょっ」


 その頭に両手をついて、跳び箱のようにして飛び越した。

 振り返った化け猫は、連続の猫パンチを繰り出して来る。


「うわ、うわ、うわわわわ!」


 さらに強めの猫パンチ。


「【バンビステップ】!」


 これを負けじと後方への連続ステップでかわす。

 すると化け猫が全身の毛を逆立て、咆哮を上げた。


「わあ!」


 メイを取り囲むようして現れた、猫の軍団。

 そのど真ん中にいるメイ目がけて、一斉に突撃してくる。


「【ラビットジャンプ】!」


 高いジャンプで突撃をかわすと、猫たちは煙になって消えていく。


「面白ーい!」

「なんだかお伽話のようです」


 もはや回避を楽しみ始めているメイ。

 はたから見た絵は、化け猫vs猫人間。

 どちらも妖怪だ。


「本当はこういうのって急がないといけないんだけど……焦らずに探せるのはいいわね」


 猫とメイがたわむれているようにすら見える、この戦い。

 怒涛の攻撃を見せる化け猫の凄まじさに反して、レンとツバメはわりと落ち着いて術猫探しをする。


「……ツバメ、さすがに一匹ずつ撫でてたら終わらないわよ」

「ハッ!」


 見る猫全てに表情を緩ませていたツバメは、頬をパンパンと張り気合を入れ直す。


「か、かわいい」


 そして出てきた子猫にまたデレデレに。


「……ハッ! あ、あぶないです。ここは私には楽園も同然で……」


 もう一度正気を取り戻すツバメ。

 その目が、一匹の猫に留まる。


「レンさん! あの子、尻尾が二本です!」

「間違いないわ! その子よ!」


 二本尾の白猫は、大慌てで逃げ出していく。


「【加速】」


 早い挙動で迫るツバメを、白猫は必死にすり抜ける。


「もう一度【加速】」


 これも見事な身のこなしでかわしてみせた。


「からの――――【跳躍】!」


 しかしここでツバメは、逃げる白猫に直接飛びつきに行った。


「捕まえました!」


 そのままゴロゴロと前転で転がって、手にした猫を掲げてみせる。

 負けたよ、とばかりに息をつく猫又。

 合わせて、化け猫が煙となって消える。

 これで勝負あり。

 観客猫たちが喝采をあげる。

 すると、銀猫が一冊の本をくわえてやって来た。


「スキルブックかな?」


 猫の手形が捺された本。

 メイがそれを受け取ると――。


「わあっ!」

「今度はなに?」


 視界を覆い尽くすほどの白煙が噴き上がった。

 思わず三人、目を閉じる。


「…………ここは」


 再び目を開くと、そこはラフテリアの大通り。

 時間も夜ではなく昼に戻っている。


「不思議系のクエストは久しぶりだわ……」

「まるで夢落ちのようです」

「……メイ、インベントリは?」

「ちゃんとあるよ、スキルブック」


 そこには確かに、銀猫から受け取ったスキルブックがあった。


「夢みたいなクエストだけど、手にしたアイテムでそれが夢じゃなかったってことが分かるやり方ね」

「わあ、素敵だねぇ」


 世界観あるクエストに、メイがほほ笑む。


「スキルはどんなものなの?」

「ええと……【キャットパンチ】だって!」

「猫パンチですか」

「【キャットパンチ】は、猫たちに認められた証。威力は低いけど連打が可能って書いてあるよ」

「……そう考えると、実用性よりも『持っていることに価値』のあるスキルって感じかしら」

「ぜひ使ってみてください! かわいいに違いありません!」

「うんっ! それじゃあさっそく……【キャットパンチ】!」


 ブォン!!

 素振り一つで、二人の髪がバサバサ揺れる。


「……猫パンチっていうか、化け猫パンチね」

「とても可愛いです。威力以外」

「なんで腕力値に威力を依存させたのかしら」


 これにはレンも苦笑い。


「まあ【ソードバッシュ】よりは弱いけど、空いた方の手でも早い打撃が出せる。メイにはちょっと面白いスキルかもしれないわね」

「ねえ、レンちゃん」

「なに?」

「やっぱり、猫装備の時以外は使うのを控えた方がいいかな?」

「そのこだわり、必要かしら」

「使うべきではないと思います」

「……必要みたいよ」


 真面目な顔でキッパリと言うツバメに、気おされる二人だった。

お読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 腕力600台から繰り出されるネコパンチの連打で倒されるドラゴンが想起出来るwww
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