49.密林の巫女
ツバメとレンのスキル確認を終え、続くのはメイ。
【密林の巫女】で何ができるのか知るために、あえて【雄たけび】は使わない。
「【バンビステップ】!」
早い足運びで恐鳥へと近づき、【王蜥蜴の剣】で一撃を見舞う。
「やっぱりかっこいい!」
気分よく攻撃を入れたところで向けられる反撃は、後方への跳躍で回避。
するとそこから、恐鳥は特攻を仕掛てきた。
「【ラビットジャンプ】!」
これを大きな跳躍でかわすと、そのまま恐鳥は進行方向の先にいた二人の少女の方へ。
猛烈な勢いで体当たりをかましに行く。
「うわわわわ! 待ってー!」
メイが叫ぶと、さっそく変化が現れた。
少女二人の前の低木が、一斉にその枝を伸ばす。
絡み合った枝は壁となり、突っ込んで来る恐鳥の特攻を受け止めた。
「うわ、すごい!」
それを見たメイは【バンビステップ】で一気に距離を詰め、【ソードバッシュ】を叩き込む。
すると恐鳥は振り返り、大きく翼を広げた。
「【ラビットジャンプ】!」
とっさの回避行動。
しかし敵スキルは強い風を放つもの。
巻き起こった突風に、メイは高く吹き飛ばされる。
「うわーっ! ……ととと!」
しかし落下ダメージは喰らわない。
着地は樹上。
見れば伸びてきた枝が、足場となってくれていた。
「おおーっ!」
衝突ダメージを回避したメイは、【密林の巫女】の効果に樹上で歓喜する。
「よーし、今度はこっちの番だよっ! 【モンキークライム】!」
木から木へと枝を渡って、恐鳥のもとへ向かう。
するとそんなメイを先導するように、次々に枝の足場ができていく。
「わっわっ! すごいすごーい!」
メイの向かう方向に木さえあれば、枝が足場を作ってくれる。
枝の橋を駆けるメイは軽やかに、そして一直線に恐鳥へと迫っていく。
「【ラビットジャンプ】!」
そのまま樹上から高く舞い上がった。
だが恐鳥も、メイを迎え撃とうと翼を広げて待ち受ける。
「いくよーっ!」
しかし【密林の巫女】は、これだけにとどまらない。
メイがそう叫ぶや否や起こる、予想外の展開。
なんと身構えている恐鳥目がけて、二本の樹が交差するようにして倒れ込んだ。
「ええっ!?」
これにはさすがに驚くメイ。
倒れ込んだ樹の枝が、そのまま敵モンスターを押し倒す。
もがく恐鳥。
身動きの取れない状況は、チャンス以外の何物でもない。
「いくよー! 【ソ-ドバッシュ】!」
叩き込む剣撃。これでHPは残りわずか。
するとメイは、ここで動きを止めた。
「最後はおねがいしますっ」
そう言って二人の少女に笑いかける。
「は……はいっ!」
唖然としていた少女二人は、慌てて武器を構え直す。
「【フリーズアロー】!」
魔導士少女の放った氷の矢が、恐鳥に突き刺さる。
「【十文字斬り】!」
そこに剣士少女のスキルが決まって、見事モンスターを粒子へと変えた。
「やったあ! ナイスコンビネーション!」
拳を突き上げて、二人の勝利を祝うメイ。
戦いが終わると、木々の枝たちも元の状態に戻っていく。
「ありがとー。でもあんまりムリはしないでね」
根に引っ張られるようにして立ち上がる倒木に、そっと触れる。
「……すごいスキルだけど、動物に続いて植物とまで仲良くなるのはいよいよって感じね」
「うっ。でも巫女さんだから……野生児ではなく、密林の巫女さんだから……」
やはり最後は、自然にアダなす人類に立ちふさがるのか。
野生児から『超野生児』に進化し始めてる感じに、思わずノドを鳴らすレンとメイ。
「あ、あの。ありがとうございました」
「ふふ、二人ともまだ驚きから立ち直れていない感じね」
助けられた少女たちの「なんかとんでもないものを見た……」感に、思わずレンは口端を緩める。
「何かお礼ができるといいんですけど」
「お礼なんていいよー」
誰かを助けられただけで十分、うれしそうなメイ。
「そうだ。クエスト情報ならどうでしょうか」
「そっか、あたしたちが知ってるのはそれくらいだね」
魔導士少女の提案に、剣士少女が語り出す。
「港から大通りの間の道に、数匹の猫が集まって寝ているんです。私たち、暇を見つけては遊びに行ってるんですけど、ある日その中の一匹が追いかけっこを仕掛けてくるようになったんです。でも全然追いつけなくて、すぐ行方が分からなくなっちゃうんです」
「でも少ししたらまた、その子はそこで寝てるんだよね」
「何度も試したんだけど、全然クリアできなくて。新しいクエストなのかまだ攻略にも載ってないし」
「面白そう!」
ピーンと張るメイの尻尾。
尾の動きに目を奪われる少女たち。そして。
「すぐ行きましょう」
それまで静かだったツバメが、すでに歩き出していた。
「そんなに急がなくても」
「猫がたくさんいると聞いたら、足が勝手に」
「とにかく現地に向かってみるわね。ありがとう」
そう言ってほほ笑んでみせると、メイとツバメの後に続くレン。
「……黒の魔法使い。かっこいい」
魔導士少女の言葉にピタリと足を止め、すぐさま踵を返してきた。
「やめておきなさい」
そしてちょうど14歳くらいの魔導士少女の肩をつかみ、その目を本気で見つめる。
「ど、どうしてですか?」
「……いばらの道だからよ」
半泣きの状態で諭すレンの迫力に、魔導士少女は思わず「わ、分かりました」とうなずくのだった。
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