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489.免許皆伝メイド

「――――お見事でした」


 ミッションが終了し、お屋敷に戻ってきたメイたちにメイド長が称賛の声をかける。


「非常に大きな仕事をなし遂げていただきました。旦那様も大変お喜びです」

「むはははは! どうだー! 今回は良い仕事だっただろう!」

「……食中毒も出ていない」


 前回そこそこ雑に帰らされたアルトリッテ、得意げに胸を張る。


「その素晴らしい働きぶりには、応えなければなりません。グレイシア家の倉庫から何か一つ、お好きな物を持って行ってくださいとのこと」

「おおっ!」


 アルトリッテは歓喜の声を上げる。

 さっそく駆けつけると、屋敷の端にある倉庫には様々な道具や装備品、スキルブックなどが置かれていた。


「あっ、シルキーちゃん!」


 そこにいたのは、家事妖精のシルキー。

 どうやら倉庫の掃除をしていたようだ。


「先日はお世話になりました。ここに来たということは、お仕事を全て片付けたのですね」

「大したもんだな、あの厳しいメイド長のお眼鏡にかなうなんて……おいブラウニー、お前もこっち来いよ」

「おう。こいつがちょっと気になってな」


 やって来たブラウニーが手にしていたのは、一つの巻物。


「それは……っ!」

「興味あるのか? ほら」


 ブラウニーが投げてよこした巻物を受け取ったアルトリッテは、思わず目を見開く。


「こ、これだ! この【伝説の海図】だ!」

「なるほど……泉に眠る聖剣は、新たな所有者を待つ。この表記は【エクスカリバー】で間違いなさそうだわ」

「うむ!」

「……目的地は、アヴァロニア島」

「ちょうどエルダーブリテンから出て、船で向かうと良さそうな距離ですね」

「宝に向かう冒険だね! ワクワクするねーっ!」


 これには思わずメイも、尻尾をブンブンさせる。


「おい! 来たぞ!」


 レプラホーンの声に、妖精たちが慌てて姿を隠す。

 やって来たのはメイド長。


「どうやら報酬は決まったようですね。僭越ながら私からも、お嬢様の許可をもらいグレイシア家にふさわしいメイドへの、特別報酬を用意させていただきました」

「そうなのか! ではそれはメイたちが受け取ってくれ!」

「それはありがたいわね」


 メイド長はそう言い残して、倉庫から一つの武器を持ってきた。


「こちらをどうぞ」

「「「…………」」」


 それを見て、言葉を失う三人。



【王樹のブーメラン】:木製の大型ブーメラン。投げれば必ず手に戻る。その飛距離と威力は【腕力】に、命中は【技量】に依存する。



 巨大な木彫りのブーメランという報酬に、白目をむくメイ。

 その大きさはなんと、当人の背丈よりも大きい。


「お、面白いけどね……グラムの【グングニル】みたいに戻ってくるって。メイなら飛距離も出そうだし」

「そうですね。よ、良い武器になりそうです」

「メ、メイドさん全然関係ないよこれーっ!」


 ずっとメイド服で仕事してきたのにブーメラン。

 野性味あふれる巨大な一品を普通に渡してくるメイド長と、白目のまま受け取るメイに、さすがにレンたちは言葉を失う。


「もしや、そこにある島を目指すつもりなのでしょうか?」


 すると今度は【宝島の海図】を手にしたアルトリッテに、メイド長が問いかけてきた。


「うむ! このまますぐにでも目指したいぞ!」

「宝島を目指すのなら、船が必要になるでしょう」

「む……確かに」

「……真っ直ぐその島に向かう巡行船は、なかったと思う」

「うぐ。だが船を買えとなったら、装備全部を売っても足りないぞ」

「今回、悪徳貴族が密輸品の運送に使っていた船を押さえています。そちらで良ければ使用可能です」

「おお! 本当か!?」

「自由に処分してよいと、話を付けてあります」

「ならばすぐにでも向かうぞ! エクスカリバーを追いかけた長い日々。誰かに取られたらと思うとおかしくなってしまいそうだからな!」

「わかります!」


 これにはメイも、深くうなずく。


「これにて一通りの仕事は終了となります。またいつでもおいでください。その腕前は、グレイシア家のメイド長である私が保証します」

「おお! かつて食中毒を出した私まで保証してもらえるのか!」


 上機嫌なアルトリッテの言葉に、笑うメイたち。

 こうして地図と船を手に入れた五人は無事、【エクスカリバー】を求めて航海に出ることになった。

 グレイシア家をあとにしたアルトリッテは、足取りも軽く街を進む。


「とても大事なクエストだったのが……それ以上に楽しかったな!」

「……間違いない」

「私たちが一緒に文化祭してたら、こんな感じだったのかしらね」

「皆で力を合わせてというのが、とても良かったです」

「本当だね! すっごく楽しかったよー!」

「とても良い経験になりました。また、何度でもやりたいです」

「うんっ!」

「やはり、メイたちに助けを求めて正解だったな」

「……間違いない」


 エクスカリバーに近づき、その上メイドクエストも楽しめた。

 ついついスキップしてしまうアルトリッテ。

 ご機嫌なメイも、その後ろにスキップで続く。

 さらにその後ろには、いーちゃんも続く。


「ふふ。アルトリッテとメイのコンビは、なぜか少しコミカルになるのが面白いわね」

「無邪気な感じでいいですね」


 笑い合いながらたどり着いたのは、メイド長指定の船着き場。

 その端には、なかなかの大きさを誇る砲門付きの帆船が係留されている。


「おおーっ! これでアヴァロニアを目指すのだな!」


 アルトリッテは子供のように目を輝かせ、メイも「すごーい!」と歓喜の声を上げた。

 そのまま二人と一匹は「船だ船だー!」とピョンピョン飛び跳ねる。


「クエスト専用で使える帆船と、積まれた大砲。これは何か一波乱ありそうな気配ね」

「むはははは! 向かうはアヴァロニア島! 場所さえ分かれば見つかったも同然だ! 必ずや【エクスカリバー】を手に入れてみせるぞ!」


 そう宣言して、アルトリッテは遠く海を指差すと――。


「引き続き、お手伝いよろしくお願いします――っ!!」


 振り返るのと同時に、再び見事な土下座を披露したのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば水黽に因んだスキルがあるから他の虫系スキルも期待できるのかな 例えば 【スパイダーウェブ】、自由に糸出せる•拘束力と強度は『腕力』依存とか 【スタッグバイト】、ダメージ皆無、…
[一言] ドデカブーメラン······高橋名人······ このまま連続クエストな感じかー、 2エピソードまたぎで同行するサブメンバーってアルトリッテ達が初めてですかね?
[良い点] なんとなくサバンナ在住のジャングルの王者感はあったが、とうとう手に入れたかブーメラン このブーメランの素材は生きていなさそうだからこれ以上大きくならないか~ [一言] 船がなくとも鯨や鳥が…
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