47.イベント後のお楽しみ
「レンちゃん、ツバメちゃん! おまたせー!」
初参加の大型イベントは無事終了。
ジャングルから帰って来た三人は、港町ラフテリアで集合した。
「二人とも早いねぇ」
すっかり『星屑』に夢中のメイは、集合30分前にやって来た。
しかしこの時すでに、二人は噴水前に腰かけてのんびりしていた。
「こっちは落ち着くのよね。黒ずくめの格好でも許される感あるし」
「……どういうこと?」
メイが首と尻尾を一緒にかしげる。
「現実の私は、中二病の真っ最中だと思われてるでしょう」
「うん」
「これを少しずつ落ち着かせていくつもりなのよ。まずはわざと穴をあけたレース模様の黒ストッキングね。これを普通の黒ストに変えるところから始めたの。そして最終的に『あれ? そういえばあの子普通になってない?』くらいの感じで収まればいいと思ってるんだけど」
「一気に変えてしまってはダメなのですか?」
「急に変えたら絶対に皆『やめたんだ……』って顔をするし、そんな目線とか態度に耐えられないわ」
白目をむきながら言うレン。
「そういうものなのですか」
「今日は『魔術の詠唱』はしないの? とか、『闇ミサ』はしなくていいんですか? なんて聞かれたら、その場で爆死する自信があるわ」
「むしろ、かつてのレンさんが気になります……」
「だから現実ではまだ中二病の雰囲気を残して生活してるんだけど、これがなかなかきついのよねぇ」
今まさに世間体を調整中のレンに、感嘆の息をつく二人。
長い銀髪に、黒のローブを羽織った少女が軽く落ち込む姿は、少し面白い。
黒のロングに紺の外套というツバメが普通に見えるほど、レンの格好はバッチリ決まっている。
「ツバメは今日も集まるのが楽しみで、早く来てそわそわしてたんでしょ?」
「……え?」
「目が合った時に慌てて何でもない感じを出してたけど、立ったり座ったりしてるのをバッチリ見ちゃったもの」
思い出し笑いをするレンに、恥ずかしそうにするツバメ。
「わかるよー」
そんなツバメに、メイも同意する。
「でもイベント終わっちゃったね、これからどうしよっか?」
「イベント終わりには、お楽しみがあります」
「そうなの?」
「今回はポイント制だったから、結果次第でアイテムとかスキルがもらえるのよ」
「そうなんだ! それは楽しみだねぇ」
「それじゃさっそく、成果の確認といきましょうか」
「はーいっ!」
元気よく返事をするメイ。
こくこくと、ツバメも勢いよく首を振る。
向かうは、イベントの成果確認用に行き先が追加されたポータル。
「オレはポイント1040で、ギリギリ1000超えた感じだな」
「お、いいじゃん」
そんな会話をかわしながら、ポータルから戻ってくるプレイヤーの姿も見える。
メイたちが飛んだ先は、不思議な文様の刻まれた白壁の広い部屋。
その奥に、銀髪のミステリアスな少女が立っていた。
「あっ、ベータさん。おひさしぶりですっ」
「お久しぶりでございます」
チュートリアルAI【HMX-18b・ベータ】は、丁寧に頭を下げる。
「さて、皆さまは守神を救い、邪悪なトカゲたちからもジャングルを守りました。素晴らしいご活躍です」
「えへへ、レンちゃんとツバメちゃんのおかげです」
「そんなメイさんのポイントは――8972p」
「……すごい」
「別にポイント集めに走ったわけじゃなかったのにね。鼻が利いて目が利いて、しかも無欲。それが結果につながったって感じかしら」
「聖城レン・ナイトメアさんは――4725p」
「フルネームはやめてぇ……」
「ナ、ナイトメアですか……?」
「ツバメさんは――4018p」
メイはもちろん、白目のレンと驚くツバメも高得点。
部屋の奥に設置された両開きの扉が開き、ベータが「どうぞ」と入室を促す。
「うわあ……すごい」
メイが声をあげる。
そこは稼いだポイントによって中身が変わる宝物庫。
「お好きなものをお持ちください」
「やったー! どうしよっかなー」
並んだアイテムやスキルブックの数々を、興味深そうに見ていくメイ。
「このポイントなら、もらえる物にも期待ができるわね」
「はい。戦略は立てなくていいのですか?」
「んー、それだと少し肩に力を入れ過ぎかなと思って。メイは【投石】でも武器になるんだから、好きに選んで問題ないわよ」
「それもそうですね」
そう言って、レンとツバメもお宝の確認に入る。
ほどなくして、三人は報酬を確定した。
【密林の巫女】:通常時、戦闘時のどちらにおいても植物が様々な形で助けてくれる。また一定の植物の成長を早めることができる。
【コンセントレイトⅠ】:一定時間魔法を放たず留めることで威力を上げることができる。ただし敵などの攻撃を受けると解除されてしまう。
【ダブルアタック】:短剣による攻撃やスキルに攻撃力20%の追撃が発生する。武器の使用適正が増えた場合はその武器にも適用される。
選んだのは三人とも【スキル】だった。
すると再び、ベータが三人の前にやって来る。
「キング・ゴールデンリザードを打倒し、村を守った英雄になられたメイ様にぴったりな特別報酬が用意されています。こちらからもお好きなものをお選びください」
「特別報酬!? なんだろう」
そう言ってベータは、報酬品を取り出していく。
「まずは、【マッドタイガーの毛皮コート】」
「……はい」
「【暗黒ヒョウの腰巻】」
「……はい」
「【アマゾナイトの石斧】」
「…………」
提案される装備品がことごとく野生全開で、レンは必死に笑いをかみ殺す。
「ま、また野生に追いかけられてるわね。とりあえず身につけてみたら?」
「その必要はございません!」
「原住民のような装備です……」
レンにコートをかけられ、石斧を持たされ白目をむくメイ。
「ふふ、『メイにぴったり』って言葉には今後注意した方がよさそうね」
「そして最後はこちら。【王蜥蜴の剣】になります」
ベータが取り出したのは、金のつばが目に付くショートソード。
遺跡の壁にも使われていたような紋様が、なかなか格好いい。
【王蜥蜴の剣】:金色大トカゲの牙で作られた剣。敵の攻撃を受けた際に弾き飛ばされてしまうがダメージを受けない【トカゲの尻尾切り】を使用できる。ただしその際に壊れてしまう可能性あり。破損率は幸運値(装備品による補正含む)に依存する。攻撃力32。
「攻撃力は低めだけど、スキルが面白いわね」
「これなら格好いいかもっ! ベータさん、わたしこれにしますっ!」
肩までの黒髪に、白を基調とした軽鎧装備。
そんな見た目によく映える金の装飾の剣を、メイは高く掲げてみせた。
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