465.矢とペンデュラム
「見つかってしまいましたな」
各所で激しい戦いが巻き起こる中、向かい合うのはローランと摩訶羅那。
「『巫女』のところに行くのは、どうにか防げたみたいだね」
『鳥』使いの従魔士に戦場を探らせていた摩訶羅那は、『巫女』一同を見つけ次第移動を開始。
同行組を討ちに向かったところを、ローランの【鷹の目】が捉えた形となった。
「ここから先には進ませないよ」
同行組の方に背を向ける形で、立ちふさがるローラン。
「……我が陣営の起動キー、『魔獣』の打倒は本当にお見事でしたな」
丸いメガネの位置を直しながら、摩訶羅那は深くうなずく。
「ありがとう。でもフロンテラ陣営も深追いはしてこなかったね」
「最後は大きな戦いになると踏んでいましたゆえ」
「守り神や起動キーを取られても、最後には直接対決で『勝てる』と踏んでいたんだね」
「そうなりますな。こちらにはアンジェラがいますので」
ローランが洋弓を構えると、摩訶羅那の腰のチェーンに提げられた魔法石製のペンデュラムたちが輝き出した。
容量少なめのペットボトルのような形をしたペンデュラムは宙を舞い、各自のポジションに停止する。
それはローランを包囲するような陣形だ。
「その八個の魔法石たちが、攻撃をしてくる感じかな?」
「ご明察。八体の鳥型従魔を使うと考えると近いイメージになりますぞ」
「なるほどね。それじゃあ……始めようか」
「そうしましょうぞ。私が勝ったら……あの可愛いコーギー姿を思う存分モフモフさせてくだされ!」
七新星の一角、摩訶羅那が楽しそうな笑みでメガネの位置を直すと、八つのペンデュラムが順番に強く発光。
放たれるのは魔力砲。
「ッ!!」
ローランは駆ける。
高い【敏捷】で攻撃をかわし、危うくなったところでスキルを発動。
「【ラピッドワン】!」
一歩だけだが、大きく速い移動でスキルで回避。
しかしペンデュラムの攻撃は続き、ここでローランは踏み切る。
「【回転跳躍】」
空中でぐるっと一回転して、八連発の魔力砲を避け切ってみせた。
「【バーストアロー】!」
反撃は、着地と同時に放つ必殺の矢。
「【竜鱗のローブ】!」
しかし摩訶羅那のローブには物理攻撃耐性あり。
さらにタイミングを合わせて『払う』ことができれば、中遠距離物理攻撃を弾くという強力な防具だ。
「……これ、ちょっと厳しいかも」
摩訶羅那の言葉通り、ペンデュラムは従魔のような『オート』状態。
それでいて『指示』もできるという形なのだろう。
ペンデュラムと同時に術者本人も動けるうえに、矢を弾くこともできる。
この条件には、さすがに苦笑いしてしまう。
「まだまだいきますぞ!」
摩訶羅那の合図一つで、三つのペンデュラムが同時に放つ魔力砲。
これを走ることでかわし、次の二連発を【ラピッドワン】で回避、そのまま【回転跳躍】で空中へ。
だがさっきとは、わずかに流れが違う。
「まずいかもっ!」
最後の一つは、ローランの方を向いたまま制止している。
「着地際を狙うつもりだね……っ!」
どうやら跳ばせて着地際を叩く狙いのようだ。
ローランは空中で弓を構え、狙いを定める。
「【曲撃射撃】【バーストアロー】!」
発射は地面スレスレ。
このタイミングでのスキル使用は、着地を狂わせる。
ローランはそのまま二度ほど地面を転がって、慌てて体勢を立て直した。
生まれる隙。
だが放った矢は見事に最後のペンデュラムを弾き飛ばし、ピンチを脱していた。
「あの位置からペンデュラムに矢を当てるとは……っ! ですが!」
高い狙撃能力に驚く摩訶羅那。
向けた手に光るのは、煌々とした魔力光。
「【ドラグーンイーター】!」
「うわあっ! 【ラピッドワン】!」
放たれた魔法は上級高位魔法。
竜の鳴き声のようなサウンドと共に迫る波動砲のような一撃を、ローランは真横への速く大きなステップでかわす。
「【速射】!」
それだけでは終わらない。
反撃に放つ二発の矢は、ローブ対策の一撃。
二連発の矢に対して、一度の払いで弾くことは不可能と踏んでの選択だ。
「お見事ですな!」
しかし摩訶羅那は回避能力も低くないようだ。
あくまで攻撃範囲が『点』の矢を、わずかな移動で難なくかわす。
「斉射陣!」
そして距離を取ったローランに対し、ペンデュラムの陣形を自身の左右に並ぶような並びに変更。
「全弾掃射! 【同時撃ち】!」
「ッ!?」
摩訶羅那の合図一つで、全てのペンデュラムが同時に魔力砲を放つ。
「うわあっ!」
とっさの回避も二発が直撃し、HPは2割ほど減少。
さらに、伸ばした手に輝く魔力光。
「【ドラグーンイーター】!」
「【ラピッドワン】!」
大きなステップからの前転でギリギリの回避を成功させるも、肩をかすめてさらに1割のダメージを受けた。
一連の攻撃が終結したところで、ローランが洋弓を構える。
「その位置からでは、いかに速い矢でもムダですぞ!」
【速射】では、この位置からだと普通に避けられる。
【バーストアロー】でも【竜鱗のローブ】に弾かれる。
そして矢の速度が途中で変わるようなスキルは、そもそも所持していない。
何よりタイミングを間違えないだけの自信が、摩訶羅那にはある。
「それはどうかな?」
「どうぞ」とばかりに攻撃を止める摩訶羅那に、それでもローランは矢をつがえた。
「――――【ヴァニシング】【バーストアロー】!」
それは消費MPの高さもあって、ここまで温存してきた新スキル。
巻き起こる風と共に放つは、ただ一本の矢。
真っすぐに迫る炸裂の一撃は、ただただ愚直に摩訶羅那のもとへ向かい――。
突然その姿を消した。
「なっ!?」
完全に『払う』つもりでいた摩訶羅那は慌ててローブを振り払うが、見えないのでは『合う』はずがない。
次の瞬間、矢が突き刺さり爆発。
「なああああああ――――ッ!?」
消し飛ばされた摩訶羅那は転がり、HPも4割弱を吹き飛ばされた。
「【ラピッドワン】!」
ローランは追撃を仕掛ける。
すると摩訶羅那は意外にも、踏み込んできた。
右手に着けた銀の指輪が輝き、左から右へと振るう手から魔力の刃が走る。
「近距離戦のできる弓術師と言えど、格闘距離はいかがですかな!?」
摩訶羅那が杖を持たないのはこのためだ。
さらに上から下へ。
現れた十字の輝きに、ローランは急停止からのバックステップ。
すると『斉射陣』のまま制止していたペンデュラムたちが、一斉に赤く輝き出す。
「その距離、いただきますぞ! 【フレアストライク】……斉射!」
「うそっ!? 本人が使うんじゃないの!?」
八つ全てのペンデュラムから同時に上級魔法が放たれるという異常事態に、さすがに目を疑う。
「【ラピッドワン】!」
炸裂する八つの炎砲弾が、一つに融合。
炸裂し、見たこともないような爆発が巻き起こる。
巻き上がる強烈な炎と広がる火の粉。
「ッ!?」
これをギリギリで回避したものの、ローランは余波でゴロゴロと後方へ転がった。
摩訶羅那はここで再び踏み込んでくる。
「【五矢撃ち】【バーストアロー】!!」
「ッ!!」
付近一帯を吹き飛ばす、ローランにしては大雑把な攻撃方法でこれを制止。
摩訶羅那も必死の横っ飛びでこれを回避したが、爆破がかすめて若干のダメージを受けた。
こうして戦況は、わずかに停滞の雰囲気を迎える。しかし。
二人の派手な戦いに気づいた少女は、密林を駆けてくる。
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