462.自称・最終兵器
「さあ、これであと一人だぁ!」
「ナイアちゃん!?」
金糸雀の【ミョルニル・インパクト】によってアトラクナイアがここで落ち、三対一。
当然、瑠璃花にとっては大きなピンチとなる。
「【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
「【電光石火】!」
「【クイックダンス】!」
放たれる炎弾をダッシュでかわし、続く斬り抜けを足の運びで回避する。
「【アクセルスウィング】!」
「まずいかもーっ!」
金糸雀の近接攻撃は範囲が広く、細かなステップでの対応はあまりに難しい。
いよいよ瑠璃花は、窮地に追い込まれていく。
「【キャンセル】【アクセルスウィング】!」」
「避け切れ……ないっ!」
「【ラピッドストライド】!」
「桜子ちゃん!」
しかしここに飛び込んできた桜子が、瑠璃花を抱えて離脱。
振り上げられたハンマーを、ギリギリで回避した。
「わりいっ……! もっと早くここの戦いに気づいてりゃ……!」
二人はすぐさま並び合い、構えを取り直す。
「……行けるか、瑠璃花」
「うんっ」
ハルバードを構えた桜子は、大きく一つ息をついた。
「【ラピッドストライド】!」
高速の飛び込みで、ツバメと金糸雀の前に飛び出していく。
「【ライトニング・スプラッシュ】!」
豪快なエフェクトと共に放たれた、水平の振り払い。
二人はこれを見事にかわすが――。
「「ッ!!」」
わずかに遅れて、荒々しい光の軌跡が駆け抜けていく。
二人は弾かれ、体勢を大きく崩した。
ここに駆け込んできた瑠璃花は、光刃の短剣で二連撃。
金糸雀とツバメのHPを1割ほど削って、そのまま駆け抜ける。
「【電光石火】!」
「【アクセルスウィング】!」
「【ラピッドストライド】!」
起き上がったツバメと金糸雀の攻撃を、しっかり引き付けたところでまとめてかわし、直後に行う反撃は垂直軌道の強烈な振り降ろし。
「【ガイア・ディバイダー】!」
「「ッ!!」」
ハルバードの刃が地面に潜り込むのと同時に巻き起こった激しい衝撃波が、ツバメと金糸雀を同時に転倒させた。
「あの武器でこの移動能力……さすがリーダープレイヤー、レベルが違うわ!」
「マズ……っ!」
一瞬で奪われた戦いの主導権。
桜子と瑠璃花は、動きが遅く残りHPも3割を切っている金糸雀にトドメを刺しにいく。
そして瑠璃花の動きは、ツバメの妨害を防ぐためのもの。
連携も完璧だ。
「こいつで終わりだぁぁぁぁ!! ライトニング――」
桜子は大きな踏み込みから、手にしたハルバードを振り払いにいく。
「ここ、までか……っ!」
金糸雀が思わずそうつぶやいた、その瞬間。
「――――【グングニル】」
「桜子ちゃん! 避けてッ!!」
慌てて桜子に飛び掛かり、強引に回避へ転向させる瑠璃花。
直後、桜子の頬スレスレを通り過ぎて行った一本の槍は、後方で派手な爆発を巻き起こした。
「ほう、生き残ったか」
やって来たグラムは状況を確認すると、軽く手を上げる。
すると神槍が戻り、その中に納まった。
そしてグラムは、瑠璃花を見据えると――。
「……余計なのはお前だな。ツバメ、手伝えっ!」
「【加速】」
うなずいたツバメは、すぐさま瑠璃花のもとへ駆ける。
「【稲穂狩り】!」
これに対して瑠璃花は、二本の光刃を放ってけん制。
「【跳躍】」
狙い通り、ツバメを宙に跳ばせた。
【輝刃降臨】を持ちいた戦法には、必殺技と呼べる連携がある。
そしてそれは鳥型のモンスターなどと戦う際に用いる、対空スキルとの併用だ。
「【瞬天一殺】――――【貫月】!」
空中に向けて放たれる一撃。
夜空に伸びるまばゆい光の刃に、一瞬遅れて衝撃波が追いかける。
まさに月すら貫きそうな勢いで放たれる必殺の一撃は、しかし。
「【エアリアル】!」
「ッ!?」
ツバメは二段ジャンプで瑠璃花の頭上を飛び越え着地。
敵の必殺スキルを引き出した上での回避に成功した。
「【加速】【リブースト】」
着地と同時に、高速移動で駆け出すツバメ。
しかし瑠璃花は、振り返ることができない。
「【ソニックドライブ】」
なぜなら目の前から、神槍を手にした白髪の少女が高速で迫ってくるからだ。
「【八連剣舞】!」
「【クインビー・アサルト】!」
前からは容赦ない神槍の一撃。
後ろからは回避を許さぬ八連の乱舞。
前後から挟み込む形での連携攻撃に、長い距離を移動するスキルを持たない瑠璃花は呆然とするほかない。
【貫月】の硬直が切れた、その直後。
凄まじい挟み撃ちによって、残りHPの全てを消し飛ばされて倒れ込んだ。
「…………」
言葉が見つからないのか、瑠璃花は驚きの表情のまま消えていく。
トップレイヤーですら言葉を失うほどの連携に、しかしグラムは表情一つ変えることなく、槍を払いながら振り返った。
「ザコ共は大体叩いてきたぞ。それに……メイが色々やるようだから早々『巫女』は狙えないだろう」
木々の中を自在に駆け回り、メイは敵プレイヤーたちを翻弄
その光景にまたヤマトのことを思い出して、ちょっと言葉を失いかけるグラム。
「こいつは私がやる。ツバメたちはフロンテラの方を叩きに行け。金糸雀はザコどもだな。その体力でもそれくらいならできるだろう?」
「……大丈夫か? 言ってここも森ん中だぞ?」
「も、問題ない!」
煽るような笑みを浮かべて言う金糸雀に、うっかり噛む。
しかしグラムがそう言うのなら、もう誰も疑わない。
ツバメたちは即座に、残るフロンテラのトップたちを目指して動き出した。
そして三人を見送ったところで、グラムはゆっくりと振り返る。
「……さあ、来るがいい。テーラ陣営の最終兵器と恐れられたこのグラム様が直々に相手をしてやろう。我が神槍の前に、虚しく朽ち果てるのだーっ!」
そう言って最後のボスの様に笑うグラムに、桜子は静かに武器を構える。
「瑠璃花もナイアも、あたしがもっと早く気づいてりゃ助かってたのになぁ……せめてリーダーとして、その神槍を手向けにさせてもらうぜーっ!」
ハルバードを握るその目は、確かに燃えていた。
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