460.イフリートの猛威
アトラクナイアが呼び出した炎の魔神イフリート。
その大きな体躯は黒と赤、二足歩行になったサラマンダーのような容姿をしている。
そして二本の大角と、口内に揺れる炎が禍々しい。
「この感じ、共闘型だな」
「間違いないわね」
メイの召喚のような、得意の一撃を叩き込んで帰っていくパターンとは違い、その場にとどまり戦うタイプ。
一撃型よりも攻撃威力は低いが一戦、もしくはHPが切れるまで戦い続けてくれるのが特徴だ。
またクールタイムが長く、次の召喚までに時間がかかってしまうのが従魔との大きな違いになっている。
「くるぞっ!」
バン! と、地面を強く蹴りつけて飛び掛かって来るイフリート。
「【アクセルスウィング】【キャンセル】!」
炎に燃える右腕の叩き付けを、移動攻撃でかわす。
「高速【連続魔法】【フリーズボルト】!」
レンは氷弾で攻撃を仕掛けるが、イフリートはこれを飛び越えてくる。
「跳躍で直接……っ!?」
大急ぎで走り、そのまま全力の飛び込み前転。
高く跳んだイフリートの拳は地面に突き刺さり、火柱を高く噴き上げた。
レンはすぐさま振り返って杖を掲げ、金糸雀はハンマーを手に特攻を仕掛ける。
「ゴアァァァァァァ――――ッ!!」
「「ッ!!」」
あげる雄たけびと共に、吹き荒れる熱波。
炎を含んだ突風で、二人が体勢を崩したところに飛び込んでくるのは瑠璃花だ。
「【輝刃降臨】【双刃乱舞】!」
金糸雀は回避を諦め、防御に回る。
【輝刃降臨】によって放たれた四連撃にHPを3割も持っていかれた金糸雀は、思わず息を飲む。
敏捷型が耐久型から高いダメージを奪えるからこそ、瑠璃花はトップの一角にいる。
「高速【誘導弾】【フリーズストライク】!」
追撃に向かおうとするイフリートを、レンが氷砲弾で喰い止める。
魔法自体は肩に当たり2割近いダメージを与えたが、次の瞬間見えたのは炎球。
「きゃあっ!!」
飛んで来た【炎舞】の一つが炸裂し、1割のダメージを喰らってヒザをつく。
やはり召喚獣と共に戦えるのが、共闘型の大きな強みだ。
「【アクセルスウィング】」
迫る瑠璃花の輝刃攻撃を斜め前方への移動でかわした金糸雀は、そこで大きくターン。
「【キャンセル】――――【ギガントハンマー】!」
「ッ!!」
巨大化したハンマーの振り降ろしが、地面を揺らす。
瑠璃花は直撃こそ防いだものの、巻き起こる衝撃に吹き飛ばされ多少のダメージを受けた。
金糸雀はすぐに追撃へ向かおうとするが――。
「退避して!」
レンの声に振り返る。
見ればイフリートが牙の並んだ口を開き、口内に宿る炎が強く輝き出していた。
「ッ!!」
「【フレイムキャノン】」
吐き出されたのは、燃える波動砲。
煌々と輝く溶岩のような炎が、レンと金糸雀の間に炸裂して爆炎を巻き上げる。
二人は必死の逃走もあって、地面を転がったもののダメージを受けることなく逃げ延びた。
攻撃範囲が広いイフリートに、速い瑠璃花の攻撃と、アトラクナイアの【幻燈錬機】による攻撃まで混ざる。
「3対2の戦いは厳しいわね」
流れは完全に、瑠璃花たちの方に傾いている。
「……リスクを取るしかなさそうだな」
「そうね、上手くいけばいいけど」
HPを削られていく2人だが、ここで一つ狙いを共有する。
「くるぞっ!」
飛び掛かって来たイフリートが、振り下ろす拳。
その狙いは金糸雀。
「【アクセルスウィング】【キャンセル】!」
これを決死の移動攻撃で回避すると、続けざまにイフリートの薙いだ手が閃熱を放つ。
金糸雀はそのまま前方へ飛び込みこれを回避。
急いで顔を上げた先に見えたのは、【炎舞】の炎球。
「ッ!! うおおおおおっ!」
続く【炎舞】の飛来を、ゴロゴロと転がることで回避する。
再び顔を上げたところに見えたのは、右手を突き上げるアトラクナイアの姿。
「【フレアドライブ】」
「ゴアァァァァァァァ――――ッ!!」
アトラクナイアの指示にイフリートが咆哮をあげ、全身が豪炎に包まれる。
速い踏み込みから爆炎を上げつつ迫る体当たり。
「うおおおおお――っ!! 【アクセルスウィング】【キャンセル】【アクセルスウィング】ゥゥゥゥッ!!」
これを決死の二連続移動攻撃スキルで、どうにかかすめるところで収めた金糸雀。しかし。
「――――【瞬天一殺】」
この瞬間を、瑠璃花は逃さない。
暗殺者のような鋭い踏み込みと共に、15メートルまで一瞬でその刃を伸ばす必殺の一撃で金糸雀を刺しにいく。
「【不動鉄観音】!」
しかしここで金糸雀は、刃が刺さる直前に『まるで身動きが取れなくなるが大幅にダメージ減』となるスキルを発動し、その場に立ったままこれを受け止めた。
必殺の一撃のダメージは、1割程度まで減少。
そして両者の間には、大きな隙が生まれる。
「金糸雀!」
ここに【炎舞】に弾かれながら必死に駆け込んできたのはレン。
「ああ、全力でやってくれ!」
その言葉にレンは、【銀閃の杖】を金糸雀の背中に押し付ける。
「【ペネトレーション】【フレアバースト】!」
そのまま放つ爆炎。
「なに……それっ!?」
防御力を上げた味方を撃ち抜いて、敵にダメージを与えるというまさかの戦法で瑠璃花を吹き飛ばした。
これで敵の残りHPは3割を切った。
「うまくいったな!」
大きく飛ばされ密林の中へと転がった瑠璃花。
「ここで一気に行きたいところだが――【アクセルスウィング】!」
すでに飛来してきていた【氷舞】を、移動攻撃のキャンセルでかわす。
そこに差し掛かる、大きな影。
「上からかっ!」
飛び掛かりから振り降ろされたイフリートの拳が、炎柱を噴き上げる。
これを必死の飛び込みで回避して顔を上げると、イフリートがその足を蹴り上げた。
「うおおおおっ!?」
閃熱が地面を駆ける。
迫り来る強烈な熱波は、さらに金糸雀のHPを削っていった。
残りはもう3割ほどだ。
「厳しいなこいつはぁ!」
木々を壁にしながら【幻燈錬機】を使い、召喚獣に前衛をさせる戦い方はとにかくやっかいだ。
だが瑠璃花が戻る前に召喚獣か術者を倒さなければ、また不利な状況に戻ってしまう。
攻め切れない状況に、金糸雀とレンが焦燥を感じていると――。
「【加速】【電光石火】!」
イフリートの足元を切り裂いていくアサシンの姿。
「【加速】【リブースト】!」
敵視を奪い、放たれた【フレイムキャノン】を『く』の字の高速移動でかわして迫る。
「【アクアエッジ】【四連剣舞】【加速】!」
的確に攻撃を決め、イフリートの拳を引き付けてから回避。
2割ほどのダメージに加えて、見事な動きで敵を翻弄する。
「さすがツバメね! あれ、いきましょう!」
「了解です!」
「おうよっ!」
ここでレンは勝負に出る。
「【加速】【リブースト】!」
イフリートの飛び掛かり、そして叩き付ける炎の腕を二段階の高速移動でかわす。
振り上げる腕から飛ぶ炎の飛沫を、そのまま後方への【跳躍】で避けて着地。
回避に集中したツバメを、イフリートはなかなか捉えられない。
大きく振り上げた足による踏みつけから巻き起こる爆炎を、【加速】でかわして【跳躍】
空中からレンと金糸雀の動きを確認したところで――。
「【投擲】!」
【雷ブレード】を使用。
炎の中を飛んだブレードはそのままイフリートに突き刺さり、雷撃で動きを止めた。
「待ってたぜ! 【アクセルスウィング】」
ここに飛び込んできたのは金糸雀。
「【キャンセル】――――【ミョルニル・インパクト】ォォォォ!!」
炸裂する一撃は地を割り、天を突く派手なエネルギーエフェクトを噴き上げる。
イフリートの巨体は容赦なく弾き飛ばされ、そのHPも5割近く消し飛んだ。
だがこれだけでは終わらない。
吹き飛んだ先の【設置魔法】陣が炸裂し、氷嵐がさらにイフリートを吹き飛ばす。
「【雷光閃火】」
そこに飛び込んで行くのはツバメ。
右手の【グランブルー】を突き刺すと、猛烈な勢いで上がる火花。
そして、爆発。
なんと、これでもまだ終わらない。
爆発によって転がり込んだ先にあるのは、もう一つの【設置魔法】陣。
突き上がる【フリーズストライク】が、イフリートをさらにもう一度弾き飛ばした。
「イフリートが……落ちた……っ!?」
舞い散る火花の中、HP全損となった召喚獣イフリートは粒子になって姿を消した。
無言でハイタッチするレンと金糸雀。
ちょっとおずおずしながら、ツバメもそれに続くのだった。
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