45.初めての大型イベント
メイたちがキング・ゴールデンリザードを倒すと、テーブルマウンテンに青雷が落ちた。
それは、守神の目覚めの合図。
すると大群で押し寄せていたゴールデンリザードたちは撤退を開始。
こうして、ジャングルは守られた。
プレイヤーたちは今、残ったイベント時間を自由に過ごしている。
「こういうのもいいわねぇ」
メイたちは、物見やぐらの上で一際のんびりしていた。
ゲーム内時間は夕刻。
『星屑』はイベントの終了時間に合わせて、演出を入れる事が多い。
今回は最後の昼間を長くして、日没と共に終了を迎える計画のようだ。
メイたちは三人並んで、まぶしいくらいの夕焼けを見つめる。
「イケニエとの別れが寂しいです」
レンの頭上にやって来たニワトリを、そう呼ぶツバメ。
「それ、私が儀式をやるタイプの中二病魔術師なのが前提のネーミングよね?」
魔術師が連れてるニワトリ=悪魔への生贄。
そんな名づけに、レンがツッコミを入れる。
「メイはどうだった? 初めての大型イベント」
「最高だったよ! ツバメちゃんとも仲良くなれたからね」
「私も今回は楽しかったわ。ずっと怒涛の展開で」
「私もです。イベント期間を短く感じたのは初めてでした」
「二人が助けに来てくれたのが、すっごくうれしかったよーっ!」
屈託のない笑みを見せるメイ。
「一週間前には、ありえなかったことだからねぇ」
「メイさんのジャングル生活は、どんな感じだったのですか?」
「トカゲorダイ……かな」
「どんな時間を過ごしたら、そんな言葉が……」
「寝る間も惜しんで戦い続けてたんだよ。最後の方はトカゲを追いかけ回すだけの機械だったかもしれない」
「何よその機械……」
「これが現実だったら、ゴールデンリザードは絶滅危惧種になっていたかもしれません」
あらためて感嘆の息をつく、レンとツバメ。
メイのトカゲ狩り講座が、大型クエスト攻略のカギになるとは思いもしなかった。
「……ジャングルがこんなに楽しかったのは、みんなと一緒だったからだよ」
広がる密林を眺めながら、メイがつぶやく。
トカゲ狩りだけを7年続けたメイだが、今回のジャングルは全てが新鮮に見えていた。
「今度はしっかり、村を守ったわね」
「うんっ!」
「振り返ってみれば、過去最高のクエスト踏破数になったわ」
イベントの目玉クエストを2つもこなしたプレイヤーなんて、他にはいない。
「もっともっと、みんなと一緒に世界を冒険したいなぁ」
「いくらでもできるわよ。もちろん私も付き合うし」
「私もです」
「7年なんて、あっという間に取り戻せるわ」
「えへへ。ありがとう、レンちゃんツバメちゃん」
うれしそうに拳を握るメイを、落ちゆく夕日が照らし出す。
「……こうやって二人に出会えたのは、7年のジャングル生活があったからなんだよね」
「メイが普通の冒険者になってたら、このパーティにはなってないわね」
そう言ってレンは、穏やかな笑みを浮かべる。
「もし誰かに声をかけられていたら、お二人と一緒にはなれていないと思います」
ツバメがつぶやく。
一度でもプレイヤーに声をかけられていたら、その時点で【隠密】のスキルは得られていない。
子グマ防衛クエストでの出会いもなかっただろう。
「そう考えると、隠密状態だった2年間も……ムダではなかったのだなと思います」
「……そうね。4年の『闇の使徒』生活も、ムダじゃなかったって思えるわ」
「うん。ジャングルの7年がなければ、レンちゃんともツバメちゃんとも会えてなかった」
そう言ってメイは「やっぱり、ムダじゃない!」と笑う。
「お二人に出会えて、よかったです」
「わたしもだよー!」
「私もよ」
素直に喜ぶメイに、うなずくレン。
そして恥ずかしそうに、薄く笑い返すツバメ。
いよいよイベントは、終わりの時を迎える。
「レンちゃん、ツバメちゃん……これからもよろしくお願いいたしますっ!」
そう言って、満面の笑みを浮かべるメイ。
その横顔を、差し込んでくる夕陽が照らす。
きらめく湖の表面は、思わず目を細めてしまうくらいに美しい。
ほほ笑み合うメイとツバメが放つ、清らかな輝き。
その神聖さを前に、レンはもちろん……浄化されて消えた。
◆
大型イベント『ジャングルを踏破せよ!』終了の翌日。
キッチンにやって来たさつきに、母やよいは緊張の面持ちで声をかける。
「さつき」
「なにー?」
「……今夜の夕食は何だと思う?」
「……ッ!!」
途端に走り出す緊張感。
絶対に夕食を当てさせたくない母と、絶対に当てたくない娘の熾烈な戦いが始まる。
テーブルの上には、食材が並んでいる。
しかしやよいは『テーブルの上に置いた食材が何一つ夕食に関係ない』という、反則の一手を打っていた。
正解は、カオマンガイ。
それはかつて一度も食卓にあがったことのない、未知のタイ料理だ。
当たるはずがない。
やよいは確実に勝ちにきている。
「なにかなぁ……」
さつきとしても、これ以上当ててしまうわけにはいかない。
これまではメニューを匂いで当て、勘で当て。
現実でも野生的になってしまっているだなんて、絶対に認めたくない。
一人の品行方正な少女として、全力でハズシにいく。
これまで食卓に上がったことのないメニューを答えることで。
絶対に外すんだと意気込んだ、さつきの解答は――。
「…………カオマンガイかな」
やよいが、ヒザから崩れ落ちた。
「……私の……敗けよ」
「うそだああああ――っ!」
まさかの事態に、頭を抱えるさつき。
「「なんで……どうして……っ!」」
カオマンガイは、先日一緒に見たグルメ番組で知った料理。
この一致は、二人がそのことをすっかり忘れていたことで起きた。
しかしそれに気づかない似た者親子は、仲良く頭を抱えたのだった。
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




