44.真・ジャングルの王者
【召喚の指輪】によって現れた巨グマの一撃。
これを喰らったキング・ゴールデンリザードは、その身体を起こすと咆哮をあげた。
速い前進からの体当たり。
振り上げた尾の叩きつけに、突き上がる地面。
「【バンビステップ】！ からの……【ラビットジャンプ】！」
これをかわすと、今度は尾による左右への二連撃。
またも付近に土煙が上がる。
「あっ、まただーっ」
キング・ゴールデンリザードの姿は目視できない。
「……【投石】！」
そのまま何もできないのもちょっと悔しいメイは、先んじて石を投げて薄ーく削りを入れる。
「やったあ！」
成功して、ちょっとだけうれしそうなメイ。
「きたっ！ 【ラビットジャンプ】！」
今度はステップではなく高い跳躍で、飛んできた樹木をしっかりかわす。
着地と同時に晴れる土煙。
すると特大トカゲは、毒の砲弾を連射してきた。
「【裸足の女神】！」
メイは【鹿角】による強化版【裸足の女神】で、右左右左と斜め前方への足運びでかいくぐり、そのまま接近。
「とっつげきー！」
頭突きで特大トカゲを転がして、大きく跳躍する。そして。
「【ラビットジャンプ】！ からの――――【ソードバッシュ】！」
長い尾に剣を叩きつけにいく。すると。
「えっ……？ ええええええ――っ!?」
特大トカゲの尾が、突然切れ落ちた。
キング・ゴールデンリザードの特殊スキル【トカゲの尻尾切り】だ。
「そ、そんなのありーっ!?」
まさかの事態に驚くメイ。
そしてそこは、特大トカゲの攻撃範囲内。
爪による振り上げ攻撃が、メイを吹き飛ばす。
「うわああああ――――っ!!」
直撃を喰らって、砂煙を上げながら地を転がる。
「痛たたたぁ」
思わぬ一撃で、HPは残り半分ほど。
今だ驚きの中にいるメイの目前に、すでに特大トカゲは迫り来ていた。
木々の上から顔をのぞかせるほどの巨体が、必殺の圧し掛かりを仕掛けにくる。
「わ、わわわわわわわっ！」
後ろ足で立ち上がった特大トカゲの迫力に、さすがに慌て出すメイ。
キング・ゴールデンリザードはその巨体で、容赦なく倒れ込んでくる。
「――――身体の大きさが、あだになったわね」
しかし次の瞬間、その側頭部が盛大に爆発した。
苛烈な爆炎が、特大トカゲを燃え上がらせる。
「この炎はっ！ レンちゃぁぁぁぁーん!!」
メイの【遠視】が、黒いローブを揺らす金眼の少女を捉えた。
乗って来た大ヒヨコを背後に控えさせ、崖の上に立つ黒ずくめの少女。
その手には【ワンド・オブ・ダークシャーマン】
それは使えば敏捷値を50も下げてしまう、難しい装備品だ。
「でもこの場所なら【敏捷】は関係ない！」
代わりに知力値を40、技量値も20ほど向上。
さらに【魔眼開放】によって、レンの魔法攻撃力は大きく引き上げられている。
再び、あがる咆哮。
切れた尾が即座に生え変わり、特大トカゲは続けてメイを狙う。
しかしその場に突っ立ったまま尾を振り上げまた下ろすという攻撃は、レンにとっては的でしかない。
「悪いわね。その大きさなら外さないわ！ 【魔砲術】【フレアストライク】！」
長い距離を駆ける炎の砲弾が、さく裂する。
上がる炎に大きくのけ反った特大トカゲは走り出し、メイに向かって跳躍。
その巨体で宙を舞い、勢いのままに爪を振り下ろす。
しかしメイは動かない。
その狙いは、まさに爪の振り下ろしだからだ。
「きたあっ！ とっつげきー!!」
これを再び角で弾く。
生まれる好機。
しかしメイは、その後を追いかけない。
「――――おねがいしますっ！」
出会いの時と同じ。
楽しそうなメイの、そんな『特別な言葉』に応えたのは――。
「【アサシンピアス】」
突然現れた小柄なアサシンが、特大トカゲの腹部に短剣を突き刺した。
弱点のないキング・ゴールデンリザードだが、そのHPゲージが一撃で1割ほど削り取られる。
ツバメは止まらない。
「【紫電】」
駆ける紫の電光で、大トカゲの動きを止める。
「【ソードバッシュ】！」
「【電光石火】！」
その隙を突いて、二人は得意の攻撃を叩き込んだ。
「【バンビステップ】！」
「【加速】」
即座にその場を離れると、天から降って来た炎の砲弾が炸裂し、特大トカゲは再び大きく燃え上がる。
「遅くなりました」
「ツバメちゃぁぁぁぁーん！」
遅れて駆けつける仲間たちという展開に、メイは歓喜で乱舞する。
それは七年のジャングル生活の中では、ありえなかった展開だ。
「二人ともありがとうっ！ 三人一緒ならもう、負けようがないねっ！」
とても楽しそうに笑うメイ。
特大トカゲのHPは、すでに3割を切っている。
いよいよ暴れ出すキング・ゴールデンリザードの毒砲弾を、メイは【バンビステップ】でかわす。
その隙を突いてツバメが【加速】で距離を詰めていく。
「【電光石火】【加速】」
引きつけ役のメイと、ヒットアンドアウェーのツバメ。
見事な連携を見せる二人だが、皆の狙いはたった一つ。
足元に飛び込んで来たメイに、特大トカゲが身体を持ち上げたところで――。
「「「きたっ！」」」
三人の声が重なった。
この隙を、当然レンは逃さない。
「【魔砲術】【フレアバースト】！」
放たれた爆炎が、特大トカゲを焼き尽くす。
「がおおおお――っ！」
続くメイの【雄たけび】で、体勢を崩しにかかる。
「【電光石火】」
閃くツバメの二連撃。
これによって特大トカゲのターゲットがツバメに移ったところで、横から飛び込んでくるメイ。
「とっつげきー！」
真横からの【突撃】で突き飛ばす。
これで残りHPは1割を切る。
するとキング・ゴールデンリザードは猛烈な咆哮をあげ、大きく後方へ下がった。
木々を弾き飛ばしながらの疾走、そして跳躍。
必殺の一撃は意外にも、上空からの【圧し掛かり】
その巨体による攻撃範囲は、計り知れないほどに広い。
「それならっ！ 【四足歩行】！」
裸足のメイは走り出した。
あえて全力で前方へ。
直後。大地にめり込んだ巨体が、付近一帯を巻き込み消し飛ばした。
「メイっ！」
「メイさん！」
吹き荒れる爆風。
レンとツバメの声が響き、超重量の一撃を放った特大トカゲがゆっくりと振り返る。
「【ラビットジャンプ】！」
そこには、わずかな隙間をギリギリで駆け抜けたメイの姿。
「【装備変更】！」
頭装備が【鹿角】からいつもの【猫耳】に変わる。
「――――からの【アクロバット】！」
メイはそのまま空中で華麗に一回転。
隙だらけのキング・ゴールデンリザードに向けて、剣を掲げる。
「行っくよぉぉぉぉー！ 必殺の……ジャンピング【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」
胸元を切り裂く一撃に、広がる衝撃波。
メイが着地すると、巻き起こった風が付近の木々を大きく揺らす。
キング・ゴールデンリザードは、ゆっくりと崩れるようにして倒れていく。
そして大トカゲたちの王は、粒子となって消えた。
「ツバメちゃーん！ 来てくれてありがとーっ！」
メイはすぐさま、ツバメに抱き着きにいく。
「い、いえ。お、遅くなりました」
ほおをぐいぐい押し付けられて、あわあわするツバメ。
「いい勝負だったわね！」
そこに大ヒヨコでやってきたレンが、そのまま二人に飛び着く。
抱き合って歓喜を共有する三人から、自然とこぼれる笑顔。
メイの尻尾はブンブンと揺れ、千切れんばかりの状態だ。
「ジャングルを守って村も守る、これならクエストは完全クリアになるわ！」
「やったあー！」
「やりました……！」
こうして三人は見事、目玉クエストのミッションを制覇してみせたのだった。
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