411.薬学教授と悪の大魔法使い
「魔法学校を構成する六つの塔。その中央に当たる公園の地下で、復活の儀式を行う様です」
監禁から解放されたリリーネ・グレイシアは、薬学教授オーブルの行き先を聞いていたようだ。
「それでは、行ってみましょうっ!」
先行するリリーネに続いて、勢いよく歩き出すメイ。
「いよいよって感じだな……!」
「こんな大きなクエストが見られるとは思いませんでしたねぇ」
それを見た魔法学校住人たちも、その勢いにつられる形で続く。
「月夜に復活する悪の大魔法使い。本当に雰囲気が完璧ね」
「皆で同じ制服を着ているというのは、連帯感がありますね」
「魔法学校、やっぱり楽しい……!」
メイと青バラを先頭に、旧研究塔の一階へ。
絨毯の敷かれた一階フロアにも、いくつかのシャンデリアが並んでいる。
青バラは短杖を取り出すと、中央に提げられた物の魔法石に魔力弾をぶつけた。
するとフロア中央の床が落ち、螺旋階段が現れる。
「この階段は、かつて使われていた『講堂』に向かう地下通路なのだそうです」
「講堂……魔法学校にあるいくつかの資料に書かれてたー……っ!」
メルーナがいよいよ、興奮に身体を震わせる。
六角形の魔法学校の、中央部分に当たるその場所。
古い魔法灯が照らし出す廊下は、長らく使われていないのであろう深い絨毯の一本道。
まさに最後の戦いへと向かう道といった風情だ。
ここでレンは、腕に【宵闇の包帯】を装着。
メイたちは昂る感情にドキドキしながら、暗いフロアへと踏み込んでいく。
魔法灯に揺れる、橙の光。
だだっ広いフロアの端にはかつての大魔導士らしき者たちの精緻な石像が並び、ホールへ続く待合所といった雰囲気がある。
「……ここにたどり着く者がいるとはね」
そう言ってゆっくりと振り返ったのは、薬学教授オーブル。
「……オマエたちか」
「悪の大魔法使いの復活は、止めさせていただきます」
「いただきますっ!」
刺すような視線を向ける、青バラのリリーネ。
メイもビシッと指を差してその後に続く。
「フフフ、フフフフフ……」
「何がおかしいというのですか!?」
笑い出したオーブルに、リリーネは怒声を上げた。
「あのお方の魂を収める素体が、オマエのような出来損ないの二級品でなくて本当に良かった。錬金術師フラムの作った素体は……まさに完璧だ! 至高の大魔法使いの復活にふさわしい! オマエのような能無しの身体を使ったのでは、アーデンバルド様の出力は良くて半分といったところだっただろう!」
「……言って、くれますね」
「オマエのような矮小な者とは生まれが、流れる血が違うのだよ! はっはっはっはっは!」
これ以上ないほど見下されるリリーネ。しかし。
「その驕り方は……大きく足元をすくわれますよ」
そう言って、メイたちの方にちらりと視線を向けた。
「……っ!!」
そんな青バラの変化に気づいて、思わず鳥肌が立つメルーナ。
これまでとは違う静かな怒りの燃やし方に、魔法学校住人たちも驚く。
「そうだ。オマエたちにも礼を言わなくてはいけないなぁ」
そう言ってオーブルは、メイたちに視線を向ける。
「素体に魂を定着させるには霊薬が必要。そして霊薬の素材となるマンドラゴラを得るには管理人が邪魔だった。そして一番厄介なのはフラムが残した素体を守る魔法獅子。どれだけ攻撃しようが一切のダメージにならないのでは退けようがない。だが、オマエたちはその全てを片付けてくれた」
「私たちは見事に利用されたってわけね」
「ふふふ、その通りだ。そしてこの世界の全ての物は、あのお方の所有となる……優秀な生徒であるオマエたちは特別に、復活を祝うための生贄としてやろう」
「あのお方の所有? やっぱり……復活以降の展開では、魔法学校のマップ構成を変える感じなのね」
その言葉に、息を飲むメルーナ。
「王都ロマリアの崩壊シナリオと似た感じですか」
「魔法学校が悪の大魔法使いに乗っ取られてダンジョンと化すっていうのも、インパクトの大きい展開にできるものね」
魔法獅子打倒が間に合わなかった場合は青バラが乗っ取られて、完全な形で復活できなかった悪の大魔法使いとの戦いとなり、勝っても青バラは戻ってこない。
これが一つ目の分岐。
二つ目の分岐は、この戦いに負けることで魔法学校が悪の大魔法使いの居城ダンジョンになってしまう展開。
レンとツバメの会話を聞いて、魔法学校に住んでいると言っても過言ではないメルーナと魔法学校住人たちは、いよいよ表情を硬くする。
「これは魔法学校を守るための戦いでもあるのね」
「そんなことさせませんっ! 魔法学校はわたしたちが守りますっ!」
「させないー!」
「させるかよおっ!」
メイの力強い言葉に、魔法学校住人たちも思わず杖を持つ手に力をこめる。
「すでに復活の儀式は始まっている。邪魔はさせんぞ……ワタシはこの日をずっと待っていたんだ。そして」
癖のある肩までの黒髪に、ボロボロのローブを身にまとった背の高い青年。
薬学教授オーブルは、取り出した魔法薬を自身に投与した。
「天才と呼ばれた錬金術教授ですら屈した我が力は……ダテではない……」
するとその身体に変化が現れる。
オーブルの肌が灰色の硬質なものに変わり、身体も二回りほど大きくなった。
「……特別に見せてやろう。至高の大魔法使いの復活を成し遂げ、共に世界を闇に還す者の姿をなぁ!」
そして激しい咆哮と共に、真っ赤に輝く目を向けてきた。
ご感想いただきました! ありがとうございます!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




