404.結晶石発見!
「中央塔も夜は全然雰囲気が違うんだねぇ」
「本当です……」
中央塔ホールにたどり着いたメイたちは、さっそく大きなシャンデリアを見ながらため息をつく。
鈍くやわらかな橙光に照らされたホールは広く、半球型の天井に描かれた絵画や、柱の彫刻飾りに生まれる影が妖しい雰囲気を生み出している。
「それじゃ、ここで一度分かれましょうか」
ここからは魔法獅子チームと、その結晶石破壊チームに分かれての戦い。
「ツバメちゃんっ!」
メイが手のひらを向けると、ツバメがタッチで応える。
レンとメルーナがそれに続くと、メイは最後に振り返り――。
「皆さん、よろしくおねがいしますっ」
集まっている魔法学校住人たちに、そう言って元気に頭を下げた。
「それでは、いってきます!」
旧研究塔目指して、さっそく駆け出していくメイたち。
「私たちは連れてきてもらってる側なんですけどねぇ」
「まさかこんな、ワクワクする展開を見せてもらえるとはな」
思わず気合が入る魔法学校住人。
中央塔を出たメイたちは、そのまま駆け抜け旧研究塔へ。
『夜間禁止区域』に入ったところで、レンが【変化の杖】で黒猫に姿を変えて先行。
メイたちは余裕を持って、『どうしても勝てない化物』のフロアへとたどり着いた。
◆
「そろそろでしょうか」
中央塔に残った面々は、シャンデリアを見上げる。
そこには無数の魔法灯が、静かな輝きを灯している。
夜の魔法学校で、隠された脅威に近づいていく感覚。
そしてそんな攻略の一端に、参加しているという実感。
魔法学校住人たちも、杖を持つ手に力がこもる。
「……やっぱりー、ここで間違いない」
「そうみたいですね」
高い天井につられた大きなシャンデリア。
そこには橙の光に紛れて、赤紫に輝き出す結晶があった。
それは魔法獅子が動き出したということだ。そして。
「やはり、ただでというわけにはいかないようですね」
ツバメが赤紫に輝く結晶石目指して動き出そうとしたところで、空中に現れる魔法陣。
そこからドーン! と音を立てて、黒の鎧を身にまとった高さ5メートルを超えるガーゴイルが落ちてきた。
「来やがった!」
「人数を残しておいて良かったな!」
「前衛はアサシンちゃんが中心だ。ピンチの時は身代わりになってでも止めるんだぞ!」
「「「おうっ!」」」
魔法学校住人の前衛は、数人の魔法剣士がいるだけ。
そうなれば当然、近接は純粋な前衛のツバメが中心になる。
いざという時はツバメを守ろうと決意して、杖を構える魔法学校住人たち。
「いきます!」
そう一言残して、ツバメは【加速】で駆け出した。
ガーゴイルはすぐに反応し、鉄剣を振り上げる。
二連続の速い叩きつけを左右へのステップでかわすと、最後は強い振り降ろし。
「【加速】!」
左への高速移動で剣を避けると、衝撃波が駆け抜けていった。
「【電光石火】!」
生まれた隙を突き、敵の足元へ斬り抜ける一撃。
ダメージは少量。
ガーゴイルは後方宙返りで距離を取り、着地と同時に大きな踏み込みから剣を振り上げてくる。
「ッ!」
これを側方への跳び込みでかわしたところに、すぐさま放たれる振り下ろし。
「【加速】」
高速移動でかわすと、叩きつけられた剣が足元の石床を跳ね上げた。
「隙を作ります!」
おおよその動き、速度などを計ったところでツバメは攻勢に出る。
「【加速】【リブースト】【電光石火】!」
一気に距離を詰め、斬り抜けでガーゴイルの後方へ。
敵の視線が、ツバメに向いたところで――。
「【アクアストライク】!」
「【スプリットボム】!」
「【ファイアシェル】!」
後衛組が、魔法攻撃であとに続く。
立て続けに着弾する魔法は、見事な連携だ。
「魔法学校のボスなのに、魔法耐性持ちかよ……っ!」
思った以上に取れていないダメージに、魔法学校住人たちが舌打ちした。すると。
ガーゴイルは跳躍して翼を広げ、そのまま滑空で後衛を狙いに行く。
「「「ッ!!」」」
急なターゲットの変更に、わずかに慌てる後衛組。
「【加速】【リブースト】!」
しかしガーゴイルの視線が後衛に向いた時点で、ツバメはその狙いに気づいて駆け出していた。
「【跳躍】」
そして今まさに後衛組に剣を叩き付けようとしていたガーゴイルの肩口に、真横から飛び込むと――。
「【紫電】!」
ギリギリのところで強引に動きを止めた。
「っ! 今度は【アクアストライク】!」
「「【アイスストーム】!」」
長らく魔法学校にいたメルーナだからこそ、彼女が水属性を多く使うことは把握済み。
魔導士たちは『今度は』の言葉に、即座に意図を察した。
弾ける水魔法に続いた氷結魔法が、見事に敵を凍結させる。
「ありがとうございます! 【加速】【八連剣舞】!」
その隙を、ツバメは逃さない。
放たれる高速の剣舞は見事に直撃し、これで残りHPは7割ほど。
凍結から解放されたガーゴイルは、ここで反撃とばかりに魔力光を剣に宿らせる。
大技の気配。
大きく速い踏み込みから放たれるのは、回転を伴う振り払いだ。
「ッ!」
荒々しい光の軌跡を描く二連の回転撃を、ツバメは二度のジャンプでかわす。
「【跳躍】」
そして三度目のひと際大きな払いを飛び越えたところで、広がる輝き。
「【エアリアル】【跳躍】!」
後方への二段ジャンプ。
するとその直後、描いた軌跡を追うように魔力光の爆発が巻き起こった。
「アサシンちゃん、めちゃくちゃ良い前衛だな! 理想の回避型じゃねえか!」
「いざとなったらどころか、助けてもらう形になっちまったな!」
高速移動で魔法攻撃用の隙を作り、後衛狙いの攻撃にも対応してみせる。
ツバメの見事な前衛ぶりに、驚く魔法学校住人たち。
その頭上に、大きな魔法陣がジワリと現れる。
「お、おい! あれを見ろ!」
「もしかして、もう一体くるのですかぁ?」
ここで不運。
二体目のガーゴイルは、一体目の対角線上に現れる設定になっている。
ほぼ一人で敵の相手をしていたツバメ。
新手の大型ガーゴイルはちょうど、後衛部隊の背後に現れる形となってしまった。
それはもう、不運としか言いようがない。
「これ、マズいぞ……っ!」
着地した二体目の魔導士型ガーゴイルが宝玉の付いた長杖を掲げると、強烈な雷光が閃いた。
容赦のない一撃が駆け抜け、後衛部隊に直撃しようとしたその瞬間。
「「「ッ!?」」」
雷は、身代わりになるように飛び込んできたスライムに直撃して消えた。
予想外の事態に驚く攻略チーム。
すると魔法学校の学帽を身体に乗せたスライムはなんと、受けた雷を身体に走らせたまま【砲弾跳躍】で魔導ガーゴイルに突撃。
1割強ほどのダメージを与え、さらにその体勢を大きく崩した。
「間に合ったぽよ! この隙に体勢を立て直すぽよっ!」
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