4.ついに明かされる真実
「きゃああああーっ!」
悲鳴をあげながら逃げ惑う、黒髪の若い女性プレイヤー。
その後を追うのは獰猛な大トカゲ、ゴールデンリザードだ。
「うわっ!?」
思わぬ段差に足を滑らせ、転倒。
すでに『毒』も受けてしまっている彼女に、あとはない。
「ここまでか……」
もはや勝ち目などなし。
迫る大トカゲに、死を覚悟する。
すると次の瞬間。
「ギャアアアア――――ス!!」
どこからともなく現れた一人の戦士が、大トカゲに剣を叩き込んだ。
現れたのはボロボロの服に傷だらけのライトアーマーを身に着けた――――野生の戦士。
色あせたマフラーによって隠されたその表情は、うかがうことができない。
大トカゲは、ターゲットを野生の戦士に変更。
「シャアアアアアアア――――ッ!!」
猛烈な飛び掛かりをしかける。
しかし野生の戦士はわずか一歩、最低限の動きで体当たりをかわしカウンターを決めた。
続く振り向きざまの尾による攻撃も、屈伸一つでなんなく回避する。
「すごい……」
女性プレイヤーが思わずつぶやく。
髪がかすかに揺れて、あらわになる目元。
現れた歴戦の戦士。
その正体は、17歳になったメイだった。
大トカゲは大きく息を吸い、口から毒液を吐き散らす。
しかしその挙動はすでに把握済み。散らばる毒も余裕をもってかいくぐる。
生まれた好機。
しかしメイは反撃せず、低い姿勢で地を駆ける。
そのまま草むらから何かをひろい上げると同時に跳び上がり、突撃して来たゴールデンリザードを大木に突っ込ませた。
「使って」
座り込んだままの女性プレイヤーに、毒消し草を握らせる。
狂暴な大トカゲを前にして、メイは彼女の回復を優先したのだった。
するとその直後。
「あ、あれはっ!?」
女性プレイヤーが叫ぶ。
乱入して来た、新たな敵モンスター。
猛烈な勢いで急降下してくる黒紫の怪鳥に、それでもメイは動じない。
「【投石】」
その場でひろった石を投擲。
砲弾のごとき一撃が、あっさり怪鳥を撃ち落とす。
しかし。その隙にゴールデンリザードは距離を詰めていた。
メイの足元に広がる巨影。
上半身を持ち上げた大トカゲが、その巨体でのし掛かりにくる!
「あ、あぶなぁぁぁぁぁぁ――いッ!!」
絶望的な状況に、思わず叫ぶ女性プレイヤー。
メイはこれをバックステップ一つでなんなくかわし、一転懐へと踏み込むと――。
「【ソードバッシュ】」
ゴールデンリザードの胸元、色違いの鱗にショートソードを深々と突き刺した。
背中から抜けていく猛烈な衝撃波。
メイは静かに背を向ける。もはや興味もないとばかりに。
直後。ズズンと重い音を立てて倒れた大トカゲは、光の粒になって消えていった。
「すごすぎる……」
まるでムダのない、達人のような動きに感嘆してしまう。
「あ、ありがとう。助かった……」
メイが差し出した手を取り、立ち上がる。
もらった毒消し草のおかげで、毒状態もすっかり治っていた。
「戦いにくいジャングルでこの驚異的な戦闘能力……も、もしかして、あなた……」
わずかに首を傾げるメイ。
女性プレイヤーは真剣な目で、まっすぐにメイを見つめる。
「――――原住民の方ですか?」
「違いますっ!」
穴だらけのマフラーを取り、乱れた髪を直す。
すると、そのズタボロの装備からは想像できない可憐な少女が現れた。
肩までの黒髪がよく似合う、正統派の美少女だ。
「あのモンスターすごく獰猛なんです。無事でよかった」
メイはうれしそうに微笑んだ後、小さく息をつく。
「これで……村を狙うモンスターがいなくなってくれるといいんですけど」
「……いなくなる?」
「はいっ。早く村に平和が来るといいなぁ」
そう言って、さわやかな笑顔を見せるメイ。
今度は、女性プレイヤーの方が首を傾げた。
「いなくは……ならないよね?」
「……え?」
思いがけない言葉に、メイは困惑する。
「で、でもあのモンスターのクエスト、毎日何度も出てくるから。さすがにそろそろいなくなっても……」
「何度も出るのは通常モンスターだからだよ……って、今までどれくらい戦ってるの?」
「もうずいぶん戦ってますよ。何千回……何万回かもしれないです」
「やっぱり。それなら何百万回戦っても、ゴールデンリザードは絶滅なんてしない」
「ええっ」
「それだけ受注できるってことは、そもそも村の存亡がかかるような規模のクエストでもない。だから、倒し続ける必要なんてないの」
「ええええっ」
「要するに。倒し続けてもモンスターは絶滅しないし、放っておいても村は壊滅なんてしないってわけ」
「ええええええええええええ――――――ッ!?」
「ゴールデンリザードは結構強いけど、経験値も高いから取り合いになるような評判のいいモンスターなんだよ。ただ、レベル19の私にはまだ早かったみたい。あはははは」
「…………」
笑う女性プレイヤーに、メイは白目をむく。
ついに明かされた衝撃の事実。
小学、中学を卒業し、高校2年の夏。
青春を費やしまくったさつきの戦いは、ようやくここに完結したのだった。
【名前:メイ】
【クラス:野生児】
Lv:193
HP:12980/12980
MP:312/312
腕力:621(+12)
耐久:502(+7)
敏捷:438
技量:399
知力:10
幸運:10
武器:【ショートソード】攻撃12
防具:【冒険者の服】防御5
:【麻のマフラー】防御2
スキル:【ソードバッシュ】【投石】
:【ラビットジャンプ】【バンビステップ】【モンキークライム】
:【遠視】【聴覚向上】【嗅覚向上】【夜目】
:【自然の友達】
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