359.初見です!
「あれが噂のメイちゃんかぁ、でもさすがにこの数は無理だろ」
不運にもこの場にいる『遺跡保存組』はメイたちのみ。
整然と並んだ数百体のロボットたちが、一斉にメイたちに赤い目を向ける。
一方トッププレイヤー姉妹の『蘭』が残していった状況に、余裕を見せるお宝奪取組の面々。
スイッチ目指して、続々とロボット格納庫を抜けて行く。
「俺、少しメイちゃん見て行こうかな」
「あ、オレもオレも」
その中にいた、実際のメイを見るのは初めてというパーティが足を止めた。
動き出すロボット兵たち。
大きな踏み出しから振り払った腕を身体の傾けでかわしたメイは、飛び掛かってきた二体目が振り降ろしてきた腕を横一歩の移動で回避する。
すると間髪置かずに三体目が突撃してきたが、これもサイドステップ一つで見送った。
するとそこに、考古学者が遅れて駆け込んで来た。
「君たち! リーダーの角を折れば、ロボット兵たちを止めることが可能だ!」
「か、完全にリーダーがロボット兵に紛れてから出てきたわね……」
探すのが難しくなったところでヒントを出しに来た考古学者に、レンは思わずツッコミを入れる。
それを聞いたメイは、リーダーロボットを探して走り出した。
目の前に立ちふさがった、五体のロボット兵たち。
その腕に輝く魔法石が軌跡を描き、攻撃範囲を拡張する。
しかし駆け抜けていく魔力光も、メイを捉えることはできない。
「よいしょっ! 【アクロバット】!」
軌跡の隙間を当たり前のようにすり抜けると、さらに五体のロボット兵が続く。
「【バンビステップ】!」
一斉に振り降ろされた魔法石攻撃も、置き去りにしてメイは駆け抜けていく。
「おお、すげえ……」
「とんでもない回避力だな……あんなの速いだけじゃ避け切れないだろ」
思わず感嘆の言葉をもらす見学者パーティ。
ロボット兵十体による波状攻撃も回避して、メイは角付きリーダーを探して駆け回る。
「【加速】【リブースト】」
一方ツバメは、五体のロボット兵を最高速で置き去りにする。
そして一体だけ『角』の確認を忘れたのに気付いて、二歩ほど戻って再確認。
再び【加速】で先を急ぐ。
ジャングルでは様々なモンスターの攻撃を回避しまくってきたメイと、そんなメイを参考にしているツバメ。
二人はホールの中央で、一瞬合流。
「右にいきますっ!」
「はい、私は左へっ」
軽くハイタッチをした後、ニコッと笑ったメイと、それにちょっと照れながらほほ笑み返すツバメ。
次に向かう先を確認し合ったあと、二人は左右へ別れる。
「魔法石の色が変わったぞ」
ロボット兵たちの腕に付いた魔法石が、その色を青から黄色に変える。
すると横に払うような腕の振りに合わせて、閃光の刃が駆け抜けていく。
これを難なくかわすメイに、反対の腕から放たれる光弾。
「うわっと!」
これは前動作が少ないため虚を突かれるが、それでも当たらない。
十数メートル先から狙ったロボット兵の光弾すら、腕を向けられた瞬間に察知していたメイは、当たり前のように回避して『角』探しを継続。
もはや数百体のロボットが全て、置き去りにされている。
「……っ!」
そんな中ツバメは流れ弾に気づいて急ブレーキ、魔法石の打撃を受けそうになるが――。
「高速【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
飛び込んできた速い魔法が、ロボットの体勢を崩してダメージはなし。
「……二人が回避前提で前にいると、こういうクエストはこれくらいしか仕事がないわねぇ」
「レンさん、ありがとうございますっ」
ちょっと暇そうなレンは、ツバメに向けて杖を上げて笑って見せた。
「この子も角はなし、あの子もなしっ」
激しくなる攻撃。
駆けるメイを囲んだ五体のロボット兵が、腕を振り降ろす。
メイはその全てをすり抜けた上で、細かなステップに変え、連射される光弾もかわしてみせた。
するとこれを回避して進んだ先で、ニ十体のロボット兵が放つ光線の一斉放射。
「お、おい、でもさすがにこの数は……っ」
「【アクロバット】からの【アクロバット】! もう一回【アクロバット】だーっ!」
「これでも当たらないのかよ!?」
「……急いだ方がいい。あれでもまだ『最初の段階』だぞ」
「「はい?」」
通りすがりの『メイにまあまあ詳しい勢』は、一言そうつぶやいて走り去って行く。
「いたっ!」
メイの【遠視】が再び、角付きのロボット兵を発見した。
しかしここで不運。
レンは空中、ツバメは別方向。
そしてリーダー個体の付近には、多量のロボット兵が陣取っていた。
メイがリーダーの索敵範囲に入った瞬間、付近一帯のロボット兵が一斉にメイに向けて魔法石を輝かせる。
薄暗い空間を一斉に駆ける、黄色の熱線。
「【装備変更】! 【バンビステップ】からの【ラビットジャーンプ】ッ!」
しかし【鹿角】メイを追いかける熱線の全てが、空を行くメイに置いていかれる形で天井に当たって消えていく。
メイはそのまま空中で剣を取ると、リーダーロボットの角目がけて剣を振り降ろす。
「【フルスイング】だーっ!」
豪快なエフェクトと共に、斬られた角が弾き飛ばされて床に突き刺さった。
「……そういうことかっ!」
すると、これまで完全に見入ってしまっていたお宝奪取組のパーティが慌てて走り出す。
「さっきのプレイヤー、だから急いでたんだな」
「このロボットの数でも、メイちゃんたちなら普通に超えてくるって踏んでたんだ」
「しかもこの速度、ちょっと先行したくらいじゃすぐに追いつかれちまうぞ……っ!」
「多分『最初の段階』ってのは、あの回避でもまだ全力じゃないってことだ!」
先行して駆けていったプレイヤーの思考を理解して、見学パーティはロボット格納庫を大慌てで駆け出して行く。
「おつかれさま」
メイのところにやって来たレンがふわりと着地して、ツバメも【加速】で到着。
三人は軽くハイタッチ。
「ロボットたちが元の立ち位置に戻っていく光景は、なんだか不思議ですね」
一仕事終えた感じで立ち位置に戻って聞く姿に、ちょっと笑う。
こうして数百のロボット兵に囲まれるという危機も見事に打開した三人は、お宝奪取組に少し遅れて格納庫を出た。そして。
「なんか……誰もいないみたい」
「あれだけ人がいたのに……」
スイッチ目前。
突然見えなくなったプレイヤーの姿に、思わず三人は辺りを見回すのだった。
ご感想いただきました! ありがとうございます!
トレジャーハンターは考古学者組に負けても、ちゃっかり装備品だけは盗んで逃げていく……っ!? な、なんという恐ろしいNPC! とはいえ人数の多さもあってか、少し余裕を持ちすぎているお宝奪取組。足元を大きくすくわれる可能性は大いにありそうです!
今回かなりの数のロボットたちを差し向けられる形になりましたが、問題なくクリア。余裕を持って見ていたお宝奪取組のパーティは、慌てて駆け出していくことになりました。早く遺跡に来ていたことで攻撃のパターンをある程度知っていたのも大きいですね!
新作やっております!
少女三人の楽しい物語になっておりますので、こちらもよろしくお願いいたしますっ!
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