315.恐るべき連携
【旧試験場】を【投棄場】へと変えた巨蛇、ミドガルズオルムのHPは残り半分ほど。
ウロコの変化によるバリアチェンジで、魔法スキル以外の攻撃への耐性を大幅に上昇。
身体を震わせるほどの咆哮を見せると、猛然と暴れ出した。
「【バンビステップ】!」
「【加速】【リブースト】!」
八つの頭は手当たり次第に頭突きをかまし、喰らい付きにくる。
これをメイとツバメは、高速移動でかわしていく。
「ブレスがくるっ!」
直後、後方の頭二つが立て続けに炎を吐く。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】
「【ウィンドシールド】!」
メイの早い指摘によって、どうにか対処する地下攻略組。
「今度は毒液っ!」
すぐに視線を上方へ。
降り注ぐ毒液の塊を、決死の回避ですり抜ける。
「な、なんで次に来る攻撃が分かるんだ?」
「毒液の時は少し頭を下げてから吐き出すけど、ブレスの時はただの溜めなんですっ!」
そんな違いを普通に指摘するメイに、驚く同行パーティ。
「またブレスっ!」
「マズっ!」
蛇頭の叩きつけをかわしたばかりだったレンは、ブレスをかわし切れずにわずかに被弾。
2割ほどHPを削られた。
しかし怒涛の連続攻撃の影響か、ここでミドガルズオルムの動きが止まる。
「今だ!」
この隙を狙い、誰もが攻撃に転じる。
「……この感じ、違うっ!」
違和感に気づいたメイが声を上げるも、すでに時遅し。
「ギュアアアアアアア――――ッ!!」
「「「ッ!?」」」
「広範囲咆哮ッ!?」
思わずレンが叫ぶ。
ミドガルズオルムは突然動きを止めて『隙』を見せた。
その瞬間を突きに行くのは、もはやプレイヤーの習性だ。
しっかりと前衛組全員を引き付け、後衛にスキルの準備に入らせたところで強制停止に陥れる。
これがミドガルズオルムの戦術。
この隙を使い、八つすべての頭部が同時に顔を上げ毒液を吐き散らす。
「【バンビステップ】!」
「【加速】【リブースト】!」
慌てず上方に視線を向けていたメイたちは、硬直切れと同時に高速移動スキルを使用。
見事に毒液を回避した。
しかし同行パーティは、かなりの人数が被弾。
中には元老院兵を守るために、身体を張った者もいた。
「頭がバラバラにも動くし、連携もするっていうのがやっかいすぎるわね……っ」
ギリギリで毒液をかわしたレンは杖を構えるが、それを見越したように現れる蛇頭とブレス。
「ああもうっ!」
レンは反撃を取りやめて、再び回避に専念。
見れば元老院兵は、震えるばかりで回避もろくに行わない。
そのため同行パーティは専守防衛を強いられ、それも崩されかけている。
「思ったよりマズいわね……」
「くっ! これ以上は……ヤバい!」
毒に苦しむ同行パーティを狙い、一気に頭を差し向けるミドガルズオルム。
「ツバメちゃん!」
「いきましょう!」
ここでメイとツバメは、二人並んで特攻。
「【裸足の女神】! 【バンビステップ】!」
「【加速】! 【リブースト】! 【電光石火】!」
速い移動からの攻撃で、ターゲットを誘導する。
そしてミドガルズオルムがブレスを吐こうとした瞬間。
「【紫電】!」
狙いとは違い、頭一つのみの硬直。
しかしブレスを直前で強制キャンセルさせることに成功した。
「【アクアエッジ】!」
さらに水刃で、元老院兵に向かおうとしていた頭の意識を再び自分に向けると――。
「【加速】【リブースト】!」
喰らい付きにきた頭をかわして斬撃を入れる。
「よっ! それっ!」
頭突きからの喰らい付きを、三つの頭が波状攻撃のように連発する。
しかし【裸足の女神】の早く鋭い動きの前に、メイを捉えることはできない。
その奥から二つの頭が同時に放ったブレスも――。
「効きませんっ!」
【王者のマント】で消し去ってしまう。
暴れ狂うミドガズオルムはここで、四つの蛇顔による毒液噴射でメイを狙いにいく。しかし。
「【連続投擲】!」
購入しておいたブレードが命中。
毒液の噴射がわずかに遅れたところで、メイが剣を引く。
「【ソードバッシュ】!」
暴れ続けていたミドガルズオルムは、放たれた衝撃波に後退を余儀なくされた。
「ツバメちゃんありがとーっ!」
「最後はやはり【ソードバッシュ】ですね」
メイとツバメは、ここでハイタッチして笑い合う。
「二人で八つの頭全部を相手にして押し返しちゃうとか、本当にとんでもないわね……でも」
やはり『物理防御大幅上昇』の効果は強く、厳しい戦況だ。
「元老院兵を守ってくれてるパーティも毒で危ういし、このままじゃ押し切られる可能性がある」
猛毒によって倒れるプレイヤーが出始めれば、守りは当然薄くなる。
そうなれば、ミドガルズオルムの範囲攻撃で元老院兵が倒れてしまいそうだ。
レンは息をつき、杖を握り直す。
「……メイ、ツバメ。ここで新しい魔法スキルを使うわ――――お願いしてもいい?」
「了解ですっ!」
「了解しました!」
そう言って先行したのはツバメ。
「【疾風迅雷】【加速】」
速い移動でミドガルズオルムの前に躍り出ると。
一斉に迫る蛇頭を前に。
「【加速】【加速】もう一回【加速】っ!」
回避回避、また回避。
攻撃を捨てることで、時間稼ぎに専念。
そして四方向から同時にきたる喰らい付きを、しっかりと引き付けたところで――。
「【跳躍】! メイさん、お願いしますっ!」
「おまかせくださいっ!」
後方へと下がるツバメの声に、元気よく応えたメイの手には【大地の石斧】
鉱石を含んだハンマーのような武器を抱えて跳躍する。
「いっくよー! 【地列撃】だぁぁぁぁっ!」
石床に強烈な一撃を叩きつけると、大きく地面が揺れ、足元に深いヒビが走っていく。
「な、なんだ?」
「なんだこの揺れは!?」
そして同行パーティの面々が一斉に、【地列撃】の事前演出に目を取られた次の瞬間――。
ドゴォォォン! と大きな音を立てて、ミドガルズオルムのいた地面が大きく陥没した。
「「「ッ!?」」」
その豪快さ、そして広い攻撃範囲に驚きふためく同行パーティ。
巨大なミドガルズオルムは崩落に巻き込まれ、その動きを止めた。
「【魔眼開放】」
レンは右目を金色に輝かせながら、手にした杖を掲げる。
スキルを発動するとキラキラ輝く魔力光が集まり、蝶の形を取り始める。
「――――宵闇に、咲ける狂気は病みの花。舞いて落つるは、罪の散るらむ…………天蝕裂空」
「【黒蝶乱舞】! って、なんでまた詠唱を――――!?」
レンの掲げた杖がまばゆい輝きを閃かせると、舞い上がった無数の黒蝶が一斉に羽ばたき出す。
崩落の中でもがくミドガルズオルムに群がり、掠め、そして散る。
黒蝶は衝突と同時に淡い乳白色の輝きを放ちながら爆散し、闇色の羽を散らして消えていく。
恐ろしいのは、その異常な数。
それは大きな一度の爆発ではなく、小さなダメージを無限に起こし続けることでHPを猛烈な勢いで減らしていく魔法スキル。
「「「…………」」」
黒い猛吹雪に生まれる、白色の乱舞。
呆然とする同行パーティの前で、ミドガルズオルムは容赦なくHPを削り尽くされて崩れ落ちる。
そして風に散るように消えていく黒蝶たちと共に、粒子となって消えた。
「すっごーい!」
ダークフレアの様な直線軌道の一撃必殺ではなく、誘導のかかった範囲攻撃といった感じの一撃。
その演出に、メイが目を輝かせる。
「新スキル、お見事でした」
「ちょっと待ってツバメ、なんで詠唱したの?」
「新魔法スキルということで、新しい詠唱が必要だったのではないのですか?」
「そういう意味の『お願い』ではないのよ! 二人で時間を稼いでって事! しかもダークフレアの時と違うリズムになってるし! なんで……そんなのが即興でできるの……っ?」
「やはり違う魔法なので、節回しも違う方が良いのではないかと思いまして」
「ツバメちゃんはすごいねぇ」
詠唱のアウトソーシング化で、ここでも見事な中二病全開魔法を見せることになったレン。
「さすがは闇の使徒……演出から何から完璧だったな」
「違ーうっ! 何を言っても伝わらないだろうけど違うのーっ!」
魔眼開放、黒蝶の演出、そして詠唱。
しかもツバメは『自分が唱えている』と思われないよう、しっかり皆に背中を向けるという気の使いよう。
きっちりと、闇の使徒としての貫禄を見せつけることになったのだった。
「無事突破ですね」
「皆さん、ありがとうございましたっ!」
「メイちゃんたちにはずいぶん助けられちまったけどな……ていうかこれ、やっぱ数十人必要なやつだ」
猛毒の影響で、残りHP1ケタの剣士。
ボロボロの同行パーティも、元老院兵を見事に守り抜いた。
こうしてメイたちは【恐るべき失敗作】と呼ばれる【ミドガルズオルム】を、打倒してみせたのだった。
ご感想いただきました! ありがとうございます!
POWEEEEEEEEEEEER!!の勢いにどうしてもニヤッとしてしまいます! 英語で擬音をつけるならこんな感じでしょうか!
物理防御シールドを張られてしまったら、やはり魔法になってきますね! そしてツバメもしっかり仕事をしてくれました! それにしても首の多い蛇は、世界共通の敵感ありますねぇ。
掲示板組の同行者は楽しくて仕方ないでしょうね! この一大クエストに同行して、ソードバッシュの決まる瞬間に一緒に拳を突き上げる。最高に楽しんでいると思いますっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




