281.雪原の旅を終えて
「それーっ!」
メイはレンたちを乗せて、犬ぞりを走らせる。
「こんばんわー! また来ちゃいました!」
「いらっしゃい!」
やって来たのは、ウェーデン山間部に建つ一軒のログハウス。
剣岳に登って降りられなくなっていたNPC少女の住む家だ。
ここは夜になれば、きれいなオーロラを見ることができる。
今回は帰る前にもう一度ゆっくり眺めていこうという話になり、それなら犬ぞりの出番だという流れになった。
犬ぞり犬と、少女が一緒に暮らしている白犬の二頭に懐かれて、早くもメイはもみくちゃだ。
「そうだ!」
さらにメイは、雪狼も召喚。
全員一緒に、ログハウスの一角に腰を下ろしてオーロラを眺めることにした。
「今回もたっくさん遊んじゃったね」
犬や狼の毛並みを撫でながら、メイがうれしそうに笑う。
「スノーボードに雪合戦、犬ぞりにオーロラ。どれも楽しかったわね」
「イベントでも、たくさんのプレイヤー方と協力できました」
ウェーデンでの時間を思い出しながら、並んで語り始める三人。
「でも、こういう風にただ集まって一緒に綺麗なものを見るっていうのもいいわねぇ」
すぐに冒険に戻るのではなく、のんびりと次の行動を決めていくのが三人の基本姿勢だ。
「今スノーボードは、ショートカットを含めた新しい記録への挑戦が盛んになってるみたいよ」
「メイさんの滑り方は、本当に型に囚われない感じでしたね」
「今回、正体こそバレたけど『毛皮のマントって……完全に野生じゃねえか!』みたいな感じにならなくて良かったわね」
「本当だよぉ」
最初にフードを装備する理由になった、耳に尻尾で毛皮のマントという完全野生装備はギリギリ指摘されずに済んだ。対して。
「メイが野生感を隠せたのに、まさか私の方が全開の中二病を披露することになるとはね……」
「カッコよかったよ!」
「やめときなさい。こっちにだけは来ちゃダメ」
「なかなか堂にいった使徒ぶりでしたよ」
「やめときなさいって、思い出すだけでぞわぞわするんだから。それに、詠唱はツバメがやってた『節ごとに中二病的な言葉で韻をふむ』ってやり方を借りた形なのよ」
「そうだったのですか?」
「闇の使徒たる覚悟を印象付けるのに、こだわった感じのある詠唱が必要だったのよ。だから昔考えた詠唱に、ツバメのやり方を取り入れて使ったんだけど……やっぱり、あれを即興で作っちゃうツバメはレベルが違うわ」
かつてのレンが何日もかけて作った詠唱を、その場の思い付きで越えてしまうツバメにあらためて息をつくレン。
「そういう意味でも、私はまだまだだったのねぇ……」
恥ずかしさに、身体を震わせる。
「あとは光の使徒と闇の使徒が出会ってしまったことで、新しい展開が始まらないことを祈るばかりね」
闇の使徒には2期生もいる。
驚愕の事実を聞かされたレンは、苦笑いを浮かべた。
「でも良かったわ。お姉ちゃんの結婚で目が覚めてから、闇の使徒関連はずっと放置状態だったんだもの。一応一言残して抜けたつもりだったんだけど……これで本当にひと段落できた」
「リズさん、やっぱりレンさんを心配していたのですね」
「あの話し方だから分からなかったけど、面倒見のいい子だったのね。本当に申し訳なかったわ」
「わたしも、レンちゃんが急にいなくなったら心配だよ?」
「そうですね、私もです」
「もう突然消えるような真似はしないわ。私もメイやツバメと一緒に遊び続けたいからね」
そう言ってレンは、穏やかな笑みを浮かべる。
「リズにもちゃんと説明できたし、メイたちとも一緒にいられて……本当にあの時『星屑』をやめないでよかった」
思い出すのは、ラフテリアの山間部でのメイとの出会い。
『星屑』を続けることを決めた時の事。
「心配してくれてたリズ、ずっと一緒に遊びたいと思える友達。今となってはのたうち回るほど恥ずかしい中二病時代だけど、それで得られたものはみんな……大事な宝物なのよね」
「レンちゃん、これからもよろしくお願いしますっ!」
「ぜひ、これからもご一緒してください」
メイはレンに抱き着いて、うれしそうに尻尾を振る。
ツバメもこくこくと何度もうなずいてみせる。
「こちらこそ、よろしくね」
そう言ってほほ笑み返すレン。
闇の使徒たる覚悟。
光の使徒すら手中に収める発言。
詠唱からのダークフレア。
それを大勢の前で披露した事実。
うっかり思い出して、全身が震え出す。そして。
「あ、ああ……っ」
そんな自分に向けられる、メイたちの素直な笑顔。
「あああああっ、あああああああ……っ!」
そのまばゆさに、『闇の使徒』を越えた深淵の魔導士レンは、浄化されて――――消えた。
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